2017 Fiscal Year Annual Research Report
Poiticisation of Religion and Sectarianisation of Politics in the Middle East
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16H01894
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
酒井 啓子 千葉大学, 大学院社会科学研究院, 教授 (40401442)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
松尾 昌樹 宇都宮大学, 国際学部, 准教授 (10396616)
松本 弘 大東文化大学, 国際関係学部, 准教授 (10407653)
松永 泰行 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 教授 (20328678)
末近 浩太 立命館大学, 国際関係学部, 教授 (70434701)
千葉 悠志 京都大学, アジア・アフリカ地域研究研究科, 特任助教 (70748201)
保坂 修司 早稲田大学, 付置研究所, 助教授 (80421220)
山尾 大 九州大学, 比較社会文化研究院, 准教授 (80598706)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 宗派 / イスラーム / 国際政治 / 中東 |
Outline of Annual Research Achievements |
本科研では、現在中東地域を席巻するさまざまな紛争の要因として取り上げられる宗派対立を、その背景と実態、問題の根源について、中東の各国事例を比較しつつ全体像を浮き彫りにすることを目指している。H29年度は研究期間の2年目にあたり、各国の事例がどのように展開しているか、各分担者が担当する地域を中心に中東諸国の事例を比較し、宗派主義とは何かについての議論を進めた。そこでは、スンナ派とシーア派の対立がイラク戦争後に定着したとされるイラクの事例、シーア派の一部であるザイド派のホーシー派の台頭を巡り内戦の続くイエメンの事例、レバノンのヒズブッラーがシリア内戦において果たすトランスナショナルなシーア派ネットワークとしての役割事例、イランの台頭に危機意識を高めてイエメン、シリアでの内戦に介入する湾岸アラブ諸国の事例、宗派とエスニックマイノリティが交錯する形でISによる襲撃が発生したイランの事例を取り上げた。 分担者による事例研究に加えて、H29年度は分担者でカバーしていない地域、テーマについて、シリアの宗派対立に見える内戦状況下での衝突の背景についてW.ハリス(オタゴ大)、クウェートでの宗派要因の政治的利用の事例についてM.ウェルズ(米外務省)を招聘して国際ワークショップを九月に実施した。同国際ワークショップでは、宗派主義との概念を確立する際の問題点としてF.ハッダード(シンガポール大)が宗派主義という用語が定義なしに使用されている問題、その使用における政治性を論じる講義を行った。 これらの議論を踏まえ、代表者の酒井は宗派対立、宗派対立を論じたこれまでの文献サーベイを行いつつ、宗派主義がもともと宗派軸ではなかった政治対立に動員されるという安全保障化のメカニズムを明らかにするイラクでの事例研究を、ラバト(モロッコ)、オクスフォード(英)で報告を行い、宗派主義に関する国際的論争への一石を投じた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
H29年度は研究会を3回実施し、イラク(山尾、酒井)、アラブ湾岸諸国(保坂、松尾)、イエメン(松本)、レバノン(末近)、イラン(松永)の宗派対立事例について、また宗派対立におけるアラブ世界でのSNSの役割について千葉が、研究報告を行った。海外の第一線の宗派問題研究者を招聘して国際ワークショップを開催、ハリス、ウェルズ、ハッダードを招聘して9月21日東京大学東洋文化研究所大会議室にて公開討論を実施した。22日には招聘した研究者と科研代表者、分担者との間で宗派対立をいかに捉えるか、国際政治、歴史、情報学の観点から意見交換を行った。また酒井、山尾がイラク・ムスタンシリーヤ大学により招聘され、酒井はアラビア語、山尾は英語での講演を行い、宗派問題に関し有意義な意見交換を行った。これらの議論は宗派問題に関する個別事例の収集、比較を行うことで、研究メンバーの間に宗派問題、宗派主義の人工性に関する共通認識を深めることに貢献した。 また、トルコで2016年クーデタ未遂事件との関連で注目されるトルコのギュレン運動について、同運動の研究者であるH.ヤブズ氏(米ユタ大)を2月に招聘し、公開講演会を実施、また同問題のフォローアップのため、幸加木特任研究員をドイツ、トルコに派遣した。 以上の議論をもとに代表者が宗派主義に関する仮説を構築、海外の国際会議にて提示した。9月28日にはラバトでの国際会議でイラクを事例とした民主化の失敗の要因としての宗派主義の安全保障化を指摘する研究論文を報告し、1月27日には英オクスフォード大での国際会議ではそれを発展させ、歴史的記憶の変質と宗派の安全保障化の関係性についての議論を戦後イラクの事例を取り上げて展開した。 以上のように研究の進捗は順調であり、最終年度における研究成果の国内外での出版公開に向けて十分準備が進められている。海外発信については予定以上の進展を見せている。
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Strategy for Future Research Activity |
H29年度後半より最終成果を一般の商業出版として発行する企画を進め、出版社(晃洋書房)の合意も得ている。分担者のうち山尾、末近、松永、保坂、松本、千葉が各論を、酒井が総論を執筆する他、前述の国際ワークショップで招聘したハッダードに加えて、同じ国際ワークショップに参加し報告したM.O.ジョーンズ(英エグゼター大)、M. ヴァルビヨルンに寄稿を依頼している。10月には全11章の原稿提出締切とし、年度内に出版するとともに、その研究成果趣旨を一般向けに公開する予定である。 また、これまで本科研のなかで積み上げられてきた宗派対立の人工性、宗派主義の政治性という議論は、国際的にも評価されており、上述した代表者によるラバトでの報告、オクスフォードでの報告は、ともに現在英文での報告書の編集、出版企画が進められている。また酒井と末近は、Routledge Handbook for Middle East Politicsの「宗派」項目を執筆し、H30年度には出版が予定されている。このように、日本国内だけでなく、研究成果を海外にも英語で広く公開、出版する準備が出来ている。また、英語圏での議論の発展に寄与するのみならず、宗派対立を経験する中東の現地社会に対しても研究成果を発信していく。まずはH29年度の成果をもとに、H30年4月にバグダードのムスタンシリア大学で開催される「イラク社会と復興」シンポにて、酒井が提供するサドル・シティに関する研究報告が基調講演として発表される予定である(治安情勢に鑑み代読)。 このように、科研最終年度として1年目、2年目の研究成果を取りまとめる作業を最優先に進めるとともに、日々進行する宗派対立の現状に対応する必要があるため、特にイラク、レバノン、シリア、イエメンなど、現在進行中の宗派関係の変質を正確に把握するためのシンポジウム、研究会、海外での調査を引き続き実施する。
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Research Products
(26 results)