2016 Fiscal Year Annual Research Report
啓蒙期の知的公共圏におけるフィクション使用の形態・機能研究
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16H01907
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
齋藤 渉 東京大学, 大学院総合文化研究科, 准教授 (20314411)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
上村 敏郎 獨協大学, 外国語学部, 専任講師 (20624662)
大崎 さやの 東京藝術大学, 音楽学部, 講師 (80646513)
隠岐 さや香 名古屋大学, 経済学研究科, 教授 (60536879)
久保 昭博 関西学院大学, 文学部, 教授 (60432324)
後藤 正英 佐賀大学, 教育学部, 准教授 (60447985)
菅 利恵 三重大学, 人文学部, 准教授 (50534492)
武田 将明 東京大学, 大学院総合文化研究科, 准教授 (10434177)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 啓蒙 / フィクション / 18世紀 / 思想史 / 意図主義 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、当初の研究計画にしたがい、a)理論的研究、b)歴史的研究の両側面から考察をおこなった。 まず、a)理論的研究においては、フィクション概念に関する考察を進め、いわゆる意図説の問題を中心に検討をおこなった。その際、最も重要な課題は、言語行為論を出発点としたSearleのフィクション概念の含意する〈著者の意図〉の問題について、解決を与えることであった。 第一に、強い意図説=〈著者の意図がテクストの意味をすべて決定する〉という考えへの批判から意図概念の放棄を導くような反意図説的議論を取り上げた。多様な立場と論点があるなかでこれまでの理論・論争史を整理しつつ、フィクションを成立させる契機としての意図概念がどのようなものとして構想されなければならないかを考えた。第二に、明確な意図の想定が困難なケース、著者の意図に反してフィクションとして理解されるケースなど、意図説そのものの限界を検討する必要があった。これらの点については、Jannidis et al.、Spoerhaseなどの先行研究から多くの示唆を得られた。 次に、b)歴史的研究としては、フィクション使用の〈動機〉およびフィクション使用にともなう〈認識〉の問題系をあつかってきた。さまざまな領域でのフィクションの使用動機については、研究メンバーがさまざまな事例を紹介し、共同で討議した。その際、理論的研究で考察した意図の問題が議論を深めるのに役立った。フィクション使用の多くの事例で確認できる認識の変化(たとえば、フィクション使用の活況から平板化への移行、特定の先鋭的グループによる要求水準の高度化など)は、フィクションを介した知的公共圏の変動を理解する上で重要な問題となることが確認された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は共同研究の初年度であったが、これに先立つ4年間の共同研究(以下「第一期」とする)をつうじて築いてきた連絡体制のため、メール等での会議を含めて、相互の状況報告や情報交換を効率的に進めることができた。第一期においてすでに討議し、深められてきたフィクション理論の共通理解は、今期の研究を進める上できわめて有効であった。さらに、第一期で各自の考察したさまざまな歴史的事例は、今後の研究において重要な基盤となるばかりでなく、共同研究メンバー間での共通認識となっており、今期において新たな事例を検討する上で、具体的な指針を提供するものとなる。 共同研究メンバーは、すでに今年度から個別的な事例研究をおこなうため、国内外の資料を広く収集・検討し始めており、次年度以降はまとまった研究の成果をもたらすことが期待できる。今後も密接な連絡と討議を進めながら、成果の検証や発表を進めていきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
前項で述べたとおり、研究はおおむね順調に進展している。今後も、当初の研究計画にもとづき、共同研究を進めていく所存である。具体的には、次年度においても、a)理論的研究と、b)歴史的研究の両側面から考察していきたい。 a)2年目の理論的研究では、フィクションと感情の問題に重点をおく。架空・虚構の存在者への恐れや喜びなどの感情をめぐる「フィクションのパラドクス」に見られるように、フィクションが受容者に与える情動的影響の議論は、アリストテレス以来の大問題であり、18世紀の芸術理論でも盛んに論じられていた。こうした諸問題について、とりわけSchaefferのように、心理学・脳科学・人類学などの近隣分野の成果を踏まえた近年の議論を参照しながら考察を進める。 b)啓蒙期のコミュニケーションは、さまざまな社会的制度に支えられていた。貴族の庇護者を中心とする芸術家や知識人の会話と書簡のネットワーク、アカデミーや大学などの公権力の諸制度、建前上平等な関係をもつ市民たちのサークル、出版メディアを介した相互の面識をもたない諸個人の間のコミュニケーションなど、それぞれの形態によってフィクション使用の余地や範囲も異なってくる。制度/媒体の問題系をあつかう研究では、啓蒙期の雑誌メディアを考察してきた齋藤渉(思想史)、科学研究の制度を研究する隠岐さや香(科学史)が調整役となる。フィクションの使用を支えたり、あるいは困難にした制度的要因を個別の事例にもとづいて分析・検討していきたい。 いずれの問題系についても当てはまることだが、制度/媒体に関しては、とりわけさまざまな地域の多様な事例の検討がなされる必要があるだろう。日本18世紀学会など、各方面の研究者たちと連携し、協力を仰がなければならない。シンポジウム等を積極的に企画していく予定である。
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Research Products
(24 results)
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[Presentation] 岩野泡鳴の理論的言説2016
Author(s)
久保 昭博
Organizer
日本近代文学会 2016年度春季大会
Place of Presentation
亜細亜大学(東京都・武蔵野市)
Year and Date
2016-05-29 – 2016-05-29
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