2019 Fiscal Year Annual Research Report
高精細3Dデータ検証による東アジア四千年の青銅工芸・彫刻の造形美と技術の通史研究
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16H01918
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Research Institution | University of Toyama |
Principal Investigator |
三船 温尚 富山大学, 学術研究部芸術文化学系, 教授 (20181969)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
三宮 千佳 富山大学, 学術研究部芸術文化学系, 准教授 (10454125)
長柄 毅一 富山大学, 学術研究部芸術文化学系, 教授 (60443420)
村田 聡 富山大学, 学術研究部芸術文化学系, 教授 (70219921)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 3D計測 / 孝民屯出土鋳型 / 施文方法 / 厚み分布 / 近世鋳銅仏 / 鋳接法 / 分鋳法 / 木彫原型像 |
Outline of Annual Research Achievements |
当該年度は、無量光寺(和歌山市)、大仏寺(羽島市)、真楽寺(松阪市)、興正寺(名古屋市)、七寺(名古屋市)、善光寺(長野市)、甲斐善光寺(甲府市)、安楽寺(埼玉県比企郡)、茂林寺(館林市)、浅草寺(台東区)、回向院(墨田区)、遍照寺(静岡県周智郡)、護国寺(文京区)、誕生寺(岡山県久米郡)、弥谷寺(三豊市)、月光寺(越前市)、上野大仏山(台東区)、浄光寺(荒川区)、専念寺(文京区)、品川寺(品川区)、眞性寺(豊島区)、浄土寺(港区)、霊巌寺(江東区)、東禅寺(台東区)、光明寺(横浜市)、眞性寺(豊島区)、太宗寺(新宿区)、さくら市ミュージアム(栃木県)、観音寺(佐野市)、普門寺(陸前高田市)において、江戸時代に建立された大型の鋳造青銅製仏像およびその木彫原型像を調査し、衣文などの造形表現と鋳造技法を調査した。 中国社会科学院考古研究所 安陽工作隊(河南省)において、殷墟孝民屯遺跡出土鋳型のうち出土した外范、内范、寄型などを計測点間距離20マイクロメートルと80マイクロメートルで3D計測した。あわせて目視調査し、鋳型の色調、材質、文様の特徴など、84点について記録し、重要部分の写真を総計4,225カット撮影した。孝民屯范の施文には2通りの方法があった。 泉屋博古館(京都府京都市)において、32点の青銅器(商~周代の青銅イ器21点・周~後漢の青銅鏡11点)を104マイクロメートルと176マイクロメートルで計測し、イ器11点(大型尊2点・ユウ6点・壺1点・ジコウ2点)は104マイクロメートルで、イ器10点(大型尊3点・ゲン3点・盤3点・ホウ1点)は176マイクロメートルでスキャンした。鋳造肉厚は堰の位置関係と凝固収縮で不均一になり、これまで、全体の厚み分布を把握する方法はなかったが3D計測で可能になり、厚みの作り方や鋳造法案を検討した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
人類の青銅器技術で最高水準に達したのは古代中国殷周の時代であり、長い研究を経ても技術解明には至っていない。文様は微細精緻であるため施文技術の解明が困難であった。殷墟孝民屯遺跡出土の未使用鋳型について、日本から計測器を搬送し、文様面を計測点間距離20マイクロメートル(1ミリを50点計測)で形状測定して検討するのは初めての試みとなる。鋳型は研磨仕上げした青銅器よりも施文方法の痕跡を直接的に残す。また、複雑な形状原型からどのように鋳型を分割したかや、鋳型のずれを防止する工夫などがそのまま残っている。この科学的で客観的な方法で微細な形状を計測し、施文には2通りの方法が想定できたことは古代中国の鋳造技法を検討するうえで大きな成果となる。本調査は日中共同研究であるため、中国社会科学院と調整し、今後、中国内において成果を発表する。 泉屋博古館では、計測点間距離17~176マイクロメートルの4種類のレンズを用いて、容器の内面や鏡の鏡面、すなわち全面を3D計測した。鋳造品の厚みは外型と内型の隙間を2ミリや3ミリに作りそこに熔かした青銅を流し込む。当然、用途や青銅成分、時代によって厚みの作り方は異なるが、これまでは青銅器全体の厚み分布を把握することは不可能であった。青銅器内外面を3D計測することにより、自動的に厚み分布図が作成できる。厚みに注目して青銅器製作技術を検討する試みはこれまで不可能であったが、3D計測によって可能となった。青銅鏡は厚みが一定しているようだが、独特の不均一さがあり、注ぎ込み位置など不均一の要因が伺え、新たな注目点が発見できた。 近世江戸の鋳造製品は美術史の中で注目されず研究も少ない。これらは木彫像と土製像を原型とし、中国殷周青銅器で用いた分鋳・鋳接法でつなぎ、各像の部品位置やつなぎの具体を解明した。 古代と近世の長年の問題の解明に近づいた点が状況評価の理由である。
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Strategy for Future Research Activity |
中国古代青銅器の施文の2方法である鋳型施文と原型施文方法について青銅器と鋳型の3D計測データを解析し、形状特徴と判定の根拠を客観的に提示したい。1つの重要な点は、抜け勾配の問題であり、ポリゴン図において、青銅器の凹線文様の抜け勾配ではない、いわゆる鋳型が抜けない部分を色表示する図を作成する。これを科学的に示す方法はポリゴン図による方法以外にはなく、ポイントとなる青銅器の文様や銘文を微細計測する。 平安時代以降の和鏡の3D計測から厚み分布図、鏡背面の平面度図などを作成し、これまで検討できなかった、鏡体の形状を可視化し、古代中国から日本近世までの作鏡技術の変遷を解明する。 中国古代青銅器と鏡、金銅仏等さらには日本の鏡と金銅仏等の文様や衣文の造形を形状、施文素材から検討し、地域や時代別の特徴を解明する。 近世江戸大仏の研究によって、日本における鋳銅仏の造形と技術の通史を明らかにする。近世の大型仏は産業史、技術史の面からも重要で、明治の銅像技術につながる点において、東アジアの青銅彫刻研究の鍵になる。西域の青銅彫刻の技法と造形との比較を通して、世界の青銅彫刻通史解明に寄与できる成果をあげたい。
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