2016 Fiscal Year Annual Research Report
東日本における食糧生産の開始と展開の研究―レプリカ法を中心として―
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16H01956
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
設楽 博己 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 教授 (70206093)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
百原 新 千葉大学, 大学院園芸学研究科, 准教授 (00250150)
高瀬 克範 北海道大学, 文学研究科, 准教授 (00347254)
佐々木 由香 明治大学, 研究・知財戦略機構, 研究推進員 (70642057)
米田 穣 東京大学, 総合研究博物館, 教授 (30280712)
大貫 静夫 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 教授 (70169184)
國木田 大 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 特任助教 (00549561)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 農耕開始期 / 東北日本 / レプリカ法 / 植物利用 / 穀物栽培 |
Outline of Annual Research Achievements |
2016年度にレプリカ法による土器の植物圧痕の調査をおこなった遺跡は以下のとおりである。 ①岩手県滝沢市中道Ⅰ遺跡、②同市野沢Ⅳ遺跡、③同市大石渡遺跡、④同市大石渡Ⅲ遺跡、⑤同市大石渡Ⅴ遺跡、⑥同市仏沢Ⅲ遺跡、⑦同市高柳遺跡、⑧同市室小路15遺跡、⑨同市湯舟沢遺跡、⑩同市狐洞遺跡、⑪同県九戸郡軽米町大日向Ⅱ遺跡、⑫同町長倉Ⅴ遺跡、⑬同町水吉Ⅳ遺跡、⑭同町馬場野Ⅱ遺跡、⑮同町駒板遺跡、⑯青森県上北郡七戸町森ヶ沢遺跡、⑰秋田県能代市寒川遺跡など。 とくに東北地方北部に属する岩手県域を中心に調査をおこなったが、扇状地や低位段丘に立地する滝沢市域と山地や丘陵に立地する九戸郡の遺跡に絞り、定点的に縄文晩期~平安時代の土器の種実圧痕を調査した。その結果、7から8世紀を境にして、各地でイネ・アワ・キビなどの穀物が数を増すことが確認されたが、たとえば高柳遺跡ではイネが卓越するのに対して、森ヶ沢遺跡はキビが卓越するような地域差が認められた。また、他の遺跡ではキビよりもアワが卓越する傾向もとらえることができた。 3月にはG.クロフォード氏を招いて東大で成果報告会をおこなった。クロフォード氏からは中国山東省のきわめて古いイネ・アワ・キビのデータが紹介され、それがいったん途絶えることも示唆された。那須浩郎の発表による縄文ヒエの動向とも類似しており、穀物栽培の定着過程を考えるうえで有益であった。 また、大貫静夫による新石器文化の定義をめぐる報告、高瀬克範によるレプリカ法による北海道域の研究対象時期の動向の報告、佐々木由香と井上雅孝氏による岩手県湯舟沢遺跡を中心とした研究対象時期の植物利用状況、國木田大の土器付着炭化物による東北地方の食性分析、轟直行による関東地方のレプリカ法分析と、百原新による植生・植物相の変化の視点からおこなった人々の移動の分析など、研究分担者などによる今年度の研究成果が確認された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2016年度に計画していたのは、青森県域と岩手県域を中心とした縄文晩期終末から平安時代にいたる時期に、穀物栽培を始めとする農耕がどのように始まって展開していたのかをさぐることであった。岩手県域については、滝沢市という県中央部に位置しおもに扇状地や低位段丘上に立地する遺跡と、九戸郡という県北部に位置しおもに山地や丘陵に立地する遺跡に焦点を当てて調査をおこなった。当初の予定である定点的で通時的、さらに緯度や立地の違いという差も含めた戦略的な調査研究の結果、研究実績でも触れたような、穀物栽培の画期や地域による違いを明らかにすることができた。 滝沢市域においては湯舟沢遺跡の圧痕調査がすでに展開されていたが、同遺跡のさらなる調査と他の遺跡での調査を重ねた結果、湯舟沢遺跡における既存の成果をあとづけるような穀物栽培の開始と展開の様相を明らかにすることができた。 また、北海道域におけるレプリカ法による調査も順調に進み、札幌市域を中心にした調査の結果、擦文期に穀物栽培をはじめとする農耕に大きな画期があったことが判明し、フローテーションによる穀物検出状況をある程度裏付ける結果とともに、東北地方北部とも連動した動きがあることを確かめた。 レプリカ調査と並行しておこなった土器付着炭化物による食性分析もおおむね順調に進展した。たとえば北海道常呂町の擦文期トビニタイ式土器の付着炭化物分析により、海の魚の利用とともに雑穀栽培を示唆する結果が得られた。 下総地方のレプリカ法による調査の結果、これまで壺形土器が不明瞭になっていく弥生後期の背景として、稲作の停滞と畑作への転換が推定されていたが、予想に反してイネの圧痕が圧倒的な状況も確認された。ただ、それに関して研究のもう一つの柱としての土器組成の変化が穀物利用とどのように関わり合いをもっているのかといった研究はあまり深めることができなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
岩手県域における調査の結果、以下の点が課題として明らかになった。まず、2016年度の調査は県中央・北部の内陸に調査の主眼があったので、沿岸部の状況も明らかにしなくては、地理的な条件に応じて穀物栽培の様相に違いがあるのか否か明らかにできないことが指摘できる。そのために、岩手県久慈市の久慈川流域における5世紀から古代の資料調査遺跡として、新町遺跡・中田遺跡・平沢Ⅰ遺跡・中長内遺跡などを候補とする。また、前回は弥生時代中期後半の資料分析が不足していたのと、前方後円墳が存在する県南の地域でのレプリカ調査の必要から、奥州市橋本遺跡などの念仏間式土器やそれ以降の土器などを調査の対象とする。 青森県域では、八戸市域と弘前平野に焦点をあてて、縄文晩期終末から古代の資料を選定し、通時的にレプリカ調査をおこなう。太平洋岸と日本海岸に近く弥生時代の水田稲作が早くから展開する地域の差異や岩手県域との差異を明らかにするとともに、弘前平野では弥生中期の田舎館式以降に穀物栽培がどのように変化していくのか見定めることを狙いとする。 レプリカ調査と並行して、土器付着炭化物の同位体比分析による食性分析もおこなう。 2017年度の前半、代表者の設楽がサバチカルで沖縄に滞在することもあり、琉球列島の穀物栽培の開始に関してレプリカ調査をおこなうことを新たな計画とする。これは今回の研究目的の一つの柱である続縄文文化という非農耕文化と同じく、弥生時代併行期に農耕を取り入れない地域同士の比較をおこなうことを目的とした計画である。そのために、仲原式からアカジャンガー式・フェンサ上層式という縄文晩期併行期から奈良・平安時代の良好な資料がある沖縄県北谷町の遺跡を中心に資料調査をおこないたい。 年度の後半は、上記のレプリカ調査や同位体比分析に加えて、これまで年代が明らかでなかった炭化種実の年代測定、土器組成の変化の研究も進めていきたい。
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Research Products
(53 results)
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[Presentation] 縄文人とウルシ2016
Author(s)
佐々木由香
Organizer
鎌倉彫会館リニュアル企画木からの諷示
Place of Presentation
鎌倉彫会館(神奈川県・鎌倉市)
Year and Date
2016-09-30
Invited
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[Presentation] つくられた弥生時代2016
Author(s)
設楽博己
Organizer
中央史学会第41回大会公開講演
Place of Presentation
中央大学多摩校舎3号館(東京都・八王子市)
Year and Date
2016-07-02
Invited
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