2017 Fiscal Year Annual Research Report
不完全な金融市場下での経済パフォーマンスと金融財政政策に関する理論・実証分析
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16H02026
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
柴田 章久 京都大学, 経済研究所, 教授 (00216003)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
浅野 貴央 岡山大学, 社会文化科学研究科, 教授 (40423157)
中嶋 智之 東京大学, 大学院経済学研究科(経済学部), 教授 (50362405)
國枝 卓真 関西学院大学, 経済学部, 准教授 (60511516)
高橋 修平 京都大学, 経済研究所, 准教授 (60645406)
岡田 啓介 関西大学, 経済学部, 准教授 (70633064)
梶井 厚志 京都大学, 経済研究所, 教授 (80282325)
平口 良司 明治大学, 政治経済学部, 専任准教授 (90520859)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 金融市場の不完全性 / ナイト的不確実性 / 経済制度 / 金融・財政政策 / 景気循環 / 経済成長 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、1.金融市場分析、2.制度分析、3.政策分析、4.不確実性に関する分析、という四つの観点に基づいて進められた。以下、それぞれの実績について述べる。 [金融市場分析] 金融市場の不完全性の存在下で、バブルの発生が失業および景気循環にどのような影響を及ぼすのかついて理論的に分析した。標準的な二部門成長モデルに金融市場の不完全性を導入を導入し、均衡動学の性質がどのように変化するのかを明らかにした。 [制度分析]経済発展における制度的要因の役割を明らかにするために、汚職が経済活動に及ぼす影響について理論・実証の両面から分析するとともに、各国の政治制度が健康水準に与える効果に関して実証的な観点から研究を行った。 [政策分析] 異質な経済主体からなる非完備市場経済を対象に、資本所得税や消費税が持つ効果を数量的に分析した。公債発行の三つの効果、すなわち、利子率の上昇効果、賃金下落効果、リスク低減効果を考慮することによって、日本における最適な政府負債の水準が負であることを明らかにした。政府の財政破綻確率について異質な期待を持つ個人からなる経済においては、政府の破綻確率の上昇を示唆するニュースに対して、政府負債価格の反応が遅くなることを示すことに成功した。 [不確実性に関する分析] 進化的モデルを用いて、確率は低いが成功時のリターンの高い証券の購入者はまれに巨額を得ることによってリスクは低いが安全な証券の購入者より長期間市場にとどまることが出来ることを示した。曖昧さの戦略効果を分析する理論的フレームワークを考察した。市場価格や所得にかんする曖昧な予想の経済効果に関して、予備的な研究を行った。生産性ショックに関する曖昧さが企業の投資活動に与える効果について、理論的分析を行った。金融市場の不完全性に基づく景気循環モデルにおける情報の不完全性の役割に関する研究をさらに発展させた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
全体としては、金融市場班、制度班、政策班、不確実性班の四つグループが密接に連携をとりながら研究を進め、Review of Economic Dynamicsのようなフィールドトップ誌を含む著名な国際学術誌に5本の論文を掲載することができており、順調な進展である。次に、班別の進展状況を述べる。
[金融市場分析] 二部門モデルに金融市場の不完全性を導入した研究が国際学術誌Dynamic Games and Applicationsに掲載された。金融市場の不完全性が所得分配に及ぼす影響についての理論分析を進め、新たな結果を得た。 [制度分析] 各国の政治制度が健康水準に与える効果に関する実証研究が国際学術誌Economic Systemsに掲載された。また、「採取産業透明性イニシアティブ(EITI)」の経済効果に関する研究に着手するため、EITIについての調査を終えた。 [政策分析] 現在の日本の政府債務水準を厚生の観点から評価した論文が国際学術誌Journal of the Japanese and International Economiesに掲載された。また、財政破綻確率と政府負債の価格の関係についての研究が当該分野のトップ誌であるReview of Economic Dynamicsに掲載された。 [不確実性に関する分析] 一見非合理に見える投資家の行動を、進化的モデルによって説明することに成功し、行動経済学分野のトップ誌であるJournal of Economic Behavior & Organizaitionに掲載された。曖昧さの戦略効果を分析する、理論的フレームワークを考察した。市場価格や所得にかんする曖昧な予想の経済効果に関して、予備的な研究を行った。さらに、不確実性下における情報更新ルールに関する公理的研究の成果をディスカッション・ペーパーとしてまとめた。
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Strategy for Future Research Activity |
金融市場班は、金融市場の発展と経済安定性の関係や資産価格バブルが失業率や経済変動にどのような影響を及ぼすのかについての研究を一層深め、国際学術誌への公表を目指す。また、金融市場の不完全性の程度に関して、特に情報の硬直性の視点からの分析に取り組む。 不確実性班は、情報の不完全性の導入が景気循環に対して持つ含意についての研究を研究を発展させ国際学術誌への公表を目指す。また、情報の曖昧さの戦略的効果の研究および、流動性選好に対する公理的基礎付けに関する研究をDPとしてまとめる。さらに、技術ショックに関する曖昧さの存在が投資活動に及ぼす効果について分析する。 制度班分析では、汚職の経済効果を分析するとともに、途上国の資源採掘に関して導入された「採取産業透明性イニシアティブ」がもたらした経済効果を実証的に分析する。 政策分析班では、異質な経済主体からなる非完備市場経済を対象に、消費税が所得・資産格差に与える影響に関する研究や資本所得税が大卒賃金プレミアムに及ぼす影響に関する研究に取り組む。 さらに、上記の分野で活躍中の外部研究者を招いて定期的に研究会を開催し、最新の情報を得るとともに、これらの外部研究者と本研究グループの研究成果に関する議論を行うことにより、研究内容の改善を図る。また、研究成果を内外の学会や研究会などで報告し、研究内容の一層の精緻化を図り、国際的学術誌への掲載を目指す。
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Research Products
(7 results)