2018 Fiscal Year Annual Research Report
High-resolution spectroscopy of S=-2 hypernuclei with active target
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16H02186
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
永江 知文 京都大学, 理学研究科, 教授 (50198298)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | ハイパー核 / ストレンジネス / J-PARC |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、(K-,K+)反応を用いてグザイハイパー核の励起エネルギースペクトルを、2 MeV(FWHM)というこれまでにない高エネルギー分解能で測定することを目指している。そのために、標的中でのエネルギー損失のふらつきを補正するため、約1000本のシンチレーションファイバーから成るアクティブ標的を開発してきた。これまでに、シンチレーションファイバーについて3mm径のファイバーを使用することを決定し、ファイバー1本あたりのエネルギー分解能が10%以下であることを、阪大核物理研究センターにおいてテストビーム実験において実測することに成功した。サイクロトロンからの陽子ビームと高分解能磁気スペウトロメーターとを組み合わせることで可能となった。この仕様の下で、ファイバーとその読み出し素子である光センサーMPPCを購入した。そこで、次の段階として、複数のファイバーを組み上げて、その組み上げ精度、平面度、ファイバーの位置精度などの試験を準備してきた。ファイバーの本数が多いことを考慮して、ファイバーの 固定の方法を最適化するため、ファイバーの外径に沿って丸い溝を使って固定する方式や、直線上の溝によって固定する方式、また、等間隔で穴をあけて固定する方式などを試作してチェックした結果、3つめの穴開け方式が、位置精度と平面度において優れていることが結果として分かってきつつある。これと並行して、シンチレーションファイバーとMPPCとの結合部分を組み上げる基板についても試作品を製作し、ファイバー間のクロストークや光の透過効率等を調べることができた。(K-,K+)反応の測定用のS-2S磁気スペクトロメーターについては、スペクトロメーターの運動量分解能を含む総合性能について実験技術設計レポート(TDR)をまとめて実験課題審査委員会に提出を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
ストレンジネス量子数-2をもつバリオン多体系としてのグザイハイパー核の精密分光を目指してきている。これまでと比べて5倍程度のエネルギー分解能である2 MeV(FWHM)での測定を行う。大強度陽子加速器施設J-PARCで得られる入射運動量1.8 GeV/cの大強度K-中間子ビームを標的に照射し、前方に放出されるK+中間子を測定する。グザイハイパー核の生成断面積は40nb/sr程度と見積もられており、十分な収量を得るためには入射ビームの強度と十分な標的厚さを確保することが重要である。本研究では、実験標的を約1000本のシンチレーションファイバーからなるアクティブ標的とすることにより、標的内でのエネルギー損失ふらつきを1事象毎に補正を行い、エネルギー分解能を維持しつつ十分な収量を確保する。 本研究の中心となるアクティブ標的の開発はほぼ順調に進んできている。ファイバー毎のエネルギー分解能について、阪大核物理研究センターの高分解能スペクトログラフを利用して実測により性能を確認が出来た。また、現在実機の製作を行っており、6月には東北大学電子光理学研究センターの電子ビームにより、ファイバーのアラインメントや組み上げの精度などの総合試験を行う予定である。年度末には、J-PARCでのビームによる最終的な性能試験を予定している。このように、アクティブ標的については、読み出し回路も含めて実機の製作が完了できる。 J-PARCからのK-ビームの強度についてやや遅れが見られる。2015年時点で37 kWの陽子ビームパワーが実現され、2017年には51 kWまで実現されているが、これを更に改善して95 kWに増強するために必要な新しい生成標的の導入が2019年度に予定されている。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年中に新しく開発してきたシンチレーションファイバーから成るアクティブ標的は完成する予定である。この実機を使った性能評価を2段階に分けて行う予定である。まず、東北大学電子光理学研究センターの電子ビームを利用して、シンチレーションファイバーの設置位置精度の確認、及び、平面度、直交性などを評価する。また、光センサーMPPCの増幅度を含めたファイバー毎の光量のバラツキを測定する。このデータ取得と同時に、アクティブ標的の中での飛跡認識のプログラム開発を進める。これまでにファイバー中でのエネルギー損失に関して、ハイパー核の質量損失の測定に必要である(K-,K+)の飛跡に関しては、速度が大きいためエネルギー損失の量が小さく、他のバックグラウンド飛跡との弁別が容易であることが分かっている。この識別アルゴリズムの開発に機械学習を取り入れることを考えている。ハイパー核崩壊事象とグザイ粒子の準非弾性生成反応では、放出粒子の多重度と飛跡長さに特徴があるので、それを利用する。次の段階では、J-PARCのK1.8ビームラインにアクティブ標的を設置して、ハイペロン(ラムダ粒子、シグマ粒子)の生成事象に関する実験データを取得する。このデータを解析して、開発した識別アルゴリズムの効率を評価し、アクティブ標的の総合性能を評価する。J-PARCのK-ビーム強度は、2019年には新しい生成標的に取り替えられ70-85 kWのビーム強度に向けてビーム調整が進むことが期待されている。つい最近になって、J-PARCのブースターから主リングへのビーム輸送系電磁石に不具合が見つかり、少なくとも数ヶ月以上運転が出来ないことが判明した。関係者による最大限の努力により早期復帰できることを期待している。
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Research Products
(9 results)