2017 Fiscal Year Annual Research Report
Road from vesicles to protocells: metabolism, information, thermodynamics
Project/Area Number |
16H02216
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
今井 正幸 東北大学, 理学研究科, 教授 (60251485)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
川勝 年洋 東北大学, 理学研究科, 教授 (20214596)
佐久間 由香 東北大学, 理学研究科, 助教 (40630801)
浦上 直人 山口大学, 大学院創成科学研究科, 准教授 (50314795)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | プロトセル / 代謝 / 情報 / 熱力学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本基盤研究では、分子集合体をベースにして生命としての特性を再現することにより、生命機能を支える物理の解明を目指し、以下3つの課題に対して研究を進めて来た。 1)代謝系と連携した成長・分裂するベシクルの創成:負電荷を持つベシクル上で正電荷を持つ高分子を鋳型重合することにより、ベシクル膜を構成する膜分子をその立体構造にコードした情報高分子の合成、およびその情報高分子とリンクしたベシクルの成長・分裂を実現した。さらに、この系が相互触媒系になっていることから、再帰性や遺伝特性をも兼ね備えていることを理論的に示した。これは、現在、最も進んだプロトセルモデルの一つである。 2)情報分子をもつベシクル:ベシクル膜にアンカーしたDNA鎖に対して、相補鎖をライゲーションすることにより鎖長を進展させ、そのダイナミクスを蛍光ラベル法により計測することにより、膜上に拘束されたコミュニティーでの分子進化モデルを構築することを目標とする。これまでにベシクル膜にDNAをアンカーさせ、そのDNAを用いてのライゲーションに世界で初めて成功した。今後、定量的な評価ができるように系の精緻化を行なった上で、DNA成長の動力学を構築する。 3)プロトセルの統計熱力学:温度変化によるベシクルの分裂過程の非平衡熱力学的な記述を行い、ベシクルの分裂において、膜の曲げ弾性エネルギーやベシクルの分裂による並進エントロピーなどの寄与に比べて、膜を構成する2成分のリン脂質の混合のエントロピーが主要な寄与を果たしていることがわかった。また、分子動力学法により、この分裂の再現に成功しているので、熱力学積分法により自由エネルギーの変化を評価し、分子数一定の系での分裂の統計熱力学の確立を目指す。さらに、膜分子が外部から供給される場合の非平衡熱統計力学的取り扱いを確立し、より生命系に近い状態でのProliferationの記述を目指す。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
生命の最も本質的な性質である、情報分子が介在して成長・分裂するベシクルを作成することが本研究の最も重要なターゲットである。昨年度はこの問題に対して、膜表面での情報高分子の鋳型重合を介在させることにより外部から原料を取り込んで成長するベシクルの開発に成功した。これは、世界で初めての情報高分子を介在させた成長するベシクルの創成であり特質すべき成果である。さらにこの系は情報分子の重合がベシクルによって触媒され、かつベシクルの成長が情報高分子によって触媒される相互触媒になっているという点においても非常に価値の高いものである。 さらに、そのベシクルの分裂を分子動力学シミュレーションにより再現することに成功し、非平衡熱力学的な取り扱いでその物理を明らかにしたこと、また、ベシクル上でのライゲーションにも初めて成功するなど著しい成果を生み出していることを評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
現在進めている1)代謝系を持つ成長するベシクル、2)情報分子を持つベシクル、3)プロトセルの熱力学、の3つのテーマについて、昨年度の発展を基に以下のように研究をさ進める。 1)代謝系を持つ成長するベシクル:昨年度、情報分子と連携した成長・分裂するベシクルの開発したので、本年度は、持続的に成長・分裂を繰り返すベシクル系へと展開する。そのための鍵は、第二成分として加えた脂質(コレステロール)の組成を一定にすることである。第二成分として加えるAOT/コレステロル混合ミセルの組成を検討することによってこの問題の解決を行う。さらに、現在の系は鋳型重合を開始するのに酸化剤としてH2O2を加えているが、このH2O2はグルコースを分解することによって得られるので、栄養(グルコース)を代謝して成長・分裂を繰り返すベシクルの創成に挑戦する。 2)ベシクル膜上での情報分子の進化:ベシクル膜上にアンカーしたDNA鎖に対して、相補鎖をライゲーション反応により継ぎ足し膜上でDNA鎖を成長させることに成功したが、蛍光強度でそのキネティクスを追跡することが困難であった。これは、緩衝溶液中に含まれている界面活性剤が膜を分解するからである。そこで、界面活性剤を含まない緩衝溶液を使ってベシクル上のライゲーションを行い、そのキネティクスを追跡するとともに、力学モデルと合わせることにより、DNA鎖の情報(配列)をもとにした進化モデルの構築を進める。 3)プロトセルの熱力学:本年度は、ベシクルの分裂過程の非平衡熱力学的な記述に成功したので、分子動力学シミュレーションの熱力学積分法を用いてプロトセルの成長・分裂に対する自由エネルギーランドスケープを作成すし、理論との生合成を確認する。さらに、膜分子が外部から供給される場合の非平衡熱統計力学的取り扱いを確立し、より生命系に近い状態でのProliferationの記述を目指す。
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Research Products
(29 results)