2017 Fiscal Year Annual Research Report
Systems science for the ventricular zone
Project/Area Number |
16H02457
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
宮田 卓樹 名古屋大学, 医学系研究科, 教授 (70311751)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
篠田 友靖 名古屋大学, 医学系研究科, 助教 (80505652)
川口 綾乃 名古屋大学, 医学系研究科, 准教授 (90360528)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 細胞移動 / 細胞分裂 / 組織力学 / 弾性 |
Outline of Annual Research Achievements |
大脳皮質細胞の「生産ライン」群がどのような近隣関係性をもって三次元的にパックされ,効率的細胞供給が果たされているか明らかにすることをめざす本研究は,全細胞の動態観察,力学的要因の関与を考慮した核移動と脳室面離脱の分子機構解析,数理シミュレーションによる「バーチャル脳室帯」作成などを通じ解析を行なってきた.従来研究で「生理的な混雑」の状態にある脳室帯という細胞産生の場において,わずかな移動遅滞が全体に悪影響を及ぼすことが分かっていた.本年度,その点に関連する論文をさらに発表した.一方,集団がそうしたリスクを抱えながらも「混雑」を享受することに何かポジティブな意味がありはしないかとの発想のもと,神経前駆細胞の集団が,生理的レベルの混雑をうまく利用して「組織弾性」を生じさせていること,そして,分裂期の前駆細胞が膨らもうとする際に,弾力に富む周囲を押し,力学的エネルギーがいったん蓄えられること,そして,親細胞の分裂によって誕生した子細胞に対して,その「親が膨らむ時に周囲に預けた力学的エネルギー」が戻って来て,子細胞の速やかな旅立ちに役立つことを見いだした(論文を投稿し,受理された [印刷中]).これは,見事な「省エネ」戦略ととらえることができる.似た「省エネ」は,心臓の吐き出した血液が大動脈の壁の弾性で受動的に先送りされる例,足の裏をアーチ型に支える靱帯が筋肉を使った運動の最中に蓄えた力学的エネルギーを走行やジャンプのために活用する例などに認められる.人の社会で,大都市の機能が交通や物流の効率化に支えられて成立してることに表れるように,本研究で明らかになったような「省エネ」の積み重ねは,大きなヒトの大脳を生み出す細胞生産を物流の点で下支えしている可能性がある.マウスを用いた本研究の成果は,ヒトの大脳形成を支える原理の解明,先天性疾患の病因解明などにもつながると期待される.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
大脳皮質を含む脳の形成とは,細胞の「生産」と「組み立て」からなる.人間社会のさまざまな製造・建築の現場では,組み立て工程のみならず,生産現場にも常に材料および産物の適切な「動き」が求められる.しかし,大脳皮質細胞の「生産ライン」群がどのような近隣関係性をもって三次元的にパックされ,効率的細胞供給が果たされているか全く分かっていなかった.本研究のこれまでの取り組みは,脳室帯における生産と物流を結ぶ効率的システムの一端を明らかにすることができた.ヒトの大脳形成を支える原理の一端,組織形成上の脆弱点,先天性疾患の病因などを理解するための基盤形成を達成し得た.
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度までに,まず,脳室帯のなかで神経前駆細胞の集団が,生理的レベルの混雑をうまく利用して「組織弾性」を生じさせていることを見いだした.本年度は,脳室帯の中に見いだされた弾性,それを裏打ちする圧縮性に注目して,以下のような実験を行なう.すなわち,脳室帯が,脳室面付近でもっとも圧縮性・弾性が大であり,そのために,脳膜方向に押す力が働いているのではないかと思われるので,脳室帯のすぐ外に存在する層(脳室下帯=分化中の中間前駆細胞やニューロンが密に積み重なっている)が,脳室帯による外向けに押すちからを受け止め,フェンスとして働き,それによって脳室帯の範囲が適切に決まっている可能性を問う.具体的には,仮想フェンス役の脳室下帯を部分的にドリル(穴あけ)し,神経前駆細胞たちの形態や分布がどうなるかを調べる.子宮内電気穿孔法で,細胞毒素遺伝子を導入し,期待通りに脳室下帯に隙間が生じることが分かったら,神経前駆細胞のマーカー分子に対する抗体染色などによって,脳室下帯穴あけの効果を評価する.もし,「仮想フェンス」への穴あけ実験で,前駆細胞の核・細胞体が外へ(脳膜方向に)飛び出すようであれば,脳室帯と脳室下帯の間に,予想したような「押し合い」関係があるということを支持する.脳室帯の厚さは,大脳のニューロン層数にとって重要な規定要因のひとつである.厚ければ厚いほど,最終産物であるニューロンは多くつくられる.脳室帯の厚さは,個別の神経前駆細胞尾インターキネティック・ヌクレーアー・マイグレーション(細胞周期進行に随伴・依存する核・細胞体の反復的運動)の範囲でもある.これまで,この核の反復運動の範囲は,前駆細胞自身が決めていると想像されていたが,本研究は,これが,外的に,メカニカルにも制御されている可能性を初めて問い,結論を得ることができるはずである.
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