2019 Fiscal Year Annual Research Report
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16H02565
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
八木 信行 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 教授 (80533992)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
マルシャレツ ダニエル 東京大学, 大学院経済学研究科(経済学部), 講師 (50747805)
大石 太郎 東京海洋大学, 学術研究院, 准教授 (80565424)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 合意形成 / 生態系の価値 / 魚価 / 水産経営 / 水産経済 / 価格形成 / 水産物市場 / オークション |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、消費者調査や市場統計分析などを通じて水産物価格形成メカニズムを解明しようとする内容である。一般的に経済学の教科書では、商品の値段は需給関係で基本的に決まり、更に国民所得や代替物の有無が関係するとされる。しかしながら、この議論は品質が均一な工業製品を仮定しており、自然条件等によって品質にばらつきがでる水産物には正確には当てはまらない。そこで本研究では水産物の価格形成メカニズムを解明し、国際的な漁業経済分野の学術的な発展に貢献するとともに、社会的な課題(例えば不人気魚種の産地での投棄、人気魚種の過剰漁獲、消費者の魚離れなど)の解決を図ることを目的としている。 2019年度は、産地卸売市場における水産物価格形成メカニズムを解明することを目的として、三重県内各漁港でイセエビの日毎の漁獲量と価格データを統計分析し、入札者に対する情報の与え方などが価格形成に影響を与える可能性を明らかにした(木下ら2019)。 加えて本研究では多様な価値の類型化とトレードオフ構造の把握を目指している。これに関し、バングラデシュ農村部の伝統食としての魚の価値を現地調査で分析し、この価値を肯定した上で協力活動を実施することが効果的とする結果(Akterら2019)や、マダガスカルにおけるティラピア養殖への男女参画とその価値の類型化を現地調査で分析し、社会が求める女性の価値を強く意識する女性ほど養殖業に従事する確率が低い点を明らかにする結果(Razafindrabeら2019)を得た。その他、養殖における疾病リスクと収益のトレードオフ構造(Shinjiら2019)、国際的な漁業補助金に関する経済分析の比較レビュー(Sakai ら2019)、台湾におけるサクラエビ漁業の価格形成と漁業者行動に関する研究結果(Luら2019)を得た。総体として、情報や伝統の価値が食品選択に及ぼす影響を解明する研究が進んだ。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
2018年には合計6本の査読論文および7本の無査読の書籍等をそれぞれ出版し、また2019年は合計6本の査読論文および9本の無査読の書籍等をそれぞれ出版した実績などに鑑みれば、全体として順調に成果が上がっていると考えている。 特に学問の進展については、国際的な先行研究が暗黙裏の前提としている市場での完全な情報伝達という仮定が日本の産地卸売市場の現場では成立していない点など新知見を得ており、顕著な進展がみられた。この研究は、三重県内の漁協でイセエビの日毎の漁獲量と価格データを統計分析した結果、セリの運営方法とイセエビの価格に一定の相関がある傾向を見出し、例えば落札額だけではなく各仲買人の入札額まで公開していることなどがイセエビ価格を上昇させる要因となっている可能性等を明らかにしたものである(木下ら2019)。経済理論ではセリの運営方法そのものは価格形成に影響を及ぼさないとされるが、本研究では、入札者に対する情報の与え方の差などが価格形成に影響を与える可能性があるとの新知見を得たことになる。本研究の概略は、同年出版の東京大学農学部の広報誌「弥生」第68号でも取上げられた。 また社会実装の側面については、従来から日本の消費者が福島の原発事故以降に「応援買い」という形で被災地の水産物を積極的に購入する意欲を有している点を初めて見出し、英文および和文で発信するなど政策立案の資料となる成果をこれまでに上げているが、2019年は漁業法改正に伴う水産改革の議論の進展に貢献する知見の発表も行った。この内容は、水産業の収益を向上させるためには生産面での改革だけに留まらず、流通や小売りなどの現場を効率化させマーケティングを効果的に行うための施策が更に必要になっているとのものあり、いずれも本研究での知見が存在したために論考が可能となった内容である。
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Strategy for Future Research Activity |
研究は順調に進行しており、引き続き以下の課題分担を行い各チームが創造性を発揮して研究ができるよう確保することとする。また定期的にチーム間の会合を持ち、研究の相乗効果を上げるとともに、研究4年目を迎えるに当たり総合的な考察に関する議論を更に活発化させる。 (課題1)多様な価値の類型化とトレードオフ構造の把握(東京大学大学院農学生命科学研究科八木が担当): この課題では、FAO(国連食糧農業機関)やIPBES(生物多様性及び生態系サービスに関する政府間プラットフォーム)など各種国際会合に参加し、環境保全と食料生産をめぐる様々な価値について調査を行い、価値の類型化と、各価値の各価値の競合関係や補完関係について研究を進める。 (課題2)消費者行動原理の解明(前出八木および福岡工業大学大石太郎(共同研究員)が担当):この課題では、消費者行動を分析するためのアンケート調査を行う。分析では因子分析などを行い、課題1で見出した様々な価値について、その影響の大きさや相関などを把握する。その際は、情報の不確実性が意思決定に与える影響を把握するため、「リスク」への消費者の反応を詳細に分析する。また、年齢による「魚離れ」が存在するのかどうか、更には放射性物質などへの忌避行動も類型化できるかどうか、更にはエコラベルへの支払意思なども分析する。 (課題3)水産物国際バリューチェーンの研究(前出八木が担当):本課題は、日本の三重県や宮城県など各地における水産物産地価格、築地市場などの卸売価格、小売価格の毎日の変動を統計的に解析し、マーケットパワーの存在などを分析する。 (課題4)ゲーム理論を用いた一般化(前出八木および東京大学大学院経済学研究科ダニエル・マルシャレツ(共同研究者)が担当): この課題では、主として課題3で得られた分析結果についてゲーム理論を用いた解釈を試み、一般化した結論に集約できるか試みる。
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Research Products
(33 results)