2017 Fiscal Year Annual Research Report
生物炭酸塩中の有機態塩素分布から読み解く海洋の栄養塩長期動態
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16H02950
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Research Institution | Japan Synchrotron Radiation Research Institute |
Principal Investigator |
為則 雄祐 公益財団法人高輝度光科学研究センター, 利用研究促進部門, 主席研究員 (10360819)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
吉村 寿紘 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 生物地球化学研究分野, 研究員 (90710070)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 生物炭酸塩 / 古環境解析 / 塩素 / 軟X線顕微分光 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度は、北海道南岸の苫小牧でウバガイ殻の収集を行った。採取した試料を対象として放射光による微量元素分析を行い、塩素・硫黄・ストロンチウムなどの分布に明瞭な成長線構造を観察するとともに、それらの化学状態の分析・考察を行った。当初想定した通り、塩素の化学形態は単純な塩化ナトリウムでは無いことが確認されるとともに、硫黄については、他の二枚貝と同様に酸化的な硫黄と還元的な硫黄が混在していることも確認された。また、同海域で採取した複数個のウバガイ殻について同様の分析を適用して再現性を確認したところ、ウバガイ殻は個々の貝に依存した生物的影響が小さく、古環境解析の対象としての適用性が高いことが確認できた。さらに、平成28年度の繰越し事業として進めた宮城・青森でのフィールド調査においてもウバガイ殻を新たに入手し、これらの殻試料の分析準備を順次進めた。 同位体分析については、前年度に開発した液体クロマトグラフを組み合わせて高精度で試料を精製する手法について、分析のプロトコルを確立する作業を進めた。イオンクロマトグラフと液体クロマトグラフのフラクションコレクターを用いる同位体測定の前処理方法を確立し、学術雑誌に結果を投稿した。同時に、放射光分析の結果をもとに塩素の同位体分析を行う試料と部位を決定し、同位体分析に着手した。また、微量元素分析で確認された成長線構造が年変動と正しく対応しているかを検証するため、酸素同位体分析の準備を並行して進めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の研究計画で予定していたイガイ類を対象とした研究は、期待通りに進展することができなかった。一方、並行して進めていた北方域の二枚貝の調査研究において、本研究に適したウバガイを見つけることができたことから、ほぼ当初の研究スケジュールに沿って研究を進めることができている。分析対象種の変更は、研究計画書の策定時に想定した範囲内である。ウバガイ殻を対象とした放射光軟X線による元素分布と化学状態分析、および、液体クロマトグラフと組み合わせた質量分析法による同位体分析法の開発は順調にすすんでいることから、おおむね順調に研究が進展していると判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに、東北地方から北海道南部にかけての太平洋側沿岸において、ウバガイ殻の収集ならびに漁協関係者などからの聞き取り調査を含むフィールド調査を実施した。昨年中に、苫小牧で入手した試料の放射光分析を完了しており、得られた結果については試料の入手地の気象・環境情報と対比・検討を進め、論文として成果をのとりまとめを行う予定である。 また、東北地方で入手した試料についても、順次放射光を用いた微量元素の分析を進める。同時に、すべての試料に対する塩素の同位体分析を進め、放射光化学分析の結果と合わせて、二枚貝殻中の塩素の化学形態とその取り込み起源を明らかにする。本研究で対処としているウバガイは、遺伝子的にはすべて同一種であることが知られていることから、微量元素分布や殻の生長量の評価において、種に依存した影響は小さいと考えられる。そのため、各地で採取した試料中の微量元素の特徴を地域毎に整理・検討することで、古環境指標としてのウバガイ殻中の微量元素の有用性、ならびに、それらの情報の普遍性を評価できると考えている。 ウバガイは、北海道オホーツク側沿岸まで生息地が広がっていることから、本年度はこれらの地域についても殻の収集・フィールド調査を行う。これら地域の殻に対する情報を加えることで、より幅広い環境条件下を対象としてウバガイ殻中の微量元素と気象・環境情報との対応を調査し、塩素を中心とした微量元素の古環境指標としての可能性を探索する。
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