2018 Fiscal Year Annual Research Report
pDNAの極小化パッケージングと全身投与による膵臓がんの遺伝子治療
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16H03178
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Research Institution | National Institutes for Quantum and Radiological Science and Technology |
Principal Investigator |
長田 健介 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 放射線医学総合研究所 分子イメージング診断治療研究部, 主任研究員(任常) (10396947)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 薬物送達システム / 非ウイルス性遺伝子デリバリーシステム / 高分子ミセル / ポリイオンコンプレックスミセル / DNA凝縮 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、膵臓がん組織を覆う間質を超えてがん巣に到達し、がん細胞で遺伝子発現させることによって膵臓がんを遺伝子治療することを目的としている。そのためには、遺伝子キャリアのサイズを(動的光散乱測定で)粒径50nm以下にする必要があるとされている。しかしながら、二重らせん構造DNAは持続長50nmの剛直性を有しており、原理的にそれ以下にすることはできない。本研究では、プラスミドDNA(pDNA)の二重鎖を熱融解させ、柔軟な一本鎖としてから高分子と複合化することによって、粒径50nm以下となる極小化遺伝子キャリアを得ようとするものである。当該年度までの研究によって、動的光散乱測定で粒径50nm程度に複合体を微小化できること、および複合体は、センス鎖、アンチセンス鎖をともに内包した二本鎖内包複合体と、それらを別々に内包した一本鎖内包複合体とから構成されていることを見出した。当該年度は、これらが実際に一本鎖内包複合体と二本鎖内包複合体であることと、遺伝子発現への寄与とを明確にすることを目標とした。具体的には、二本鎖内包複合体と一本鎖内包複合体とを選択的に作り分け、それらを単離すること、および超遠心分析によって複合体の分子量を決定することを行った。その結果、驚くべきことに一本鎖内包複合体であっても二本鎖内包複合体と遜色のない遺伝子発現することを見出した。さらに、その極小化遺伝子キャリアは間質を超えてがん巣に到達し、がん細胞で遺伝子発現することをレポーター遺伝子を用いた動物実験より確認した。これは、経静脈投与で膵臓がん細胞に遺伝子発現させた初めての成功例であり、今後、治療効果のある遺伝子を送り込むことで、膵臓がんの本丸攻撃による遺伝子治療の実現に期待がもたれる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究実績の概要に述べたように、pDNAを熱解離した後に高分子と複合化させるという方法論によって粒径を間質透過が見込まれるサイズに微小化できること、それが遺伝子発現すること、そして膵臓がんモデルマウスへの経静脈投与で膵臓がん巣に実際に遺伝子発現させられることを確認している。当初、巨大高分子であるpDNAの二重らせん構造を完全に解くことは困難と予想し、1つの複合体中にDNA二重鎖のセンス鎖とアンチセンス鎖がともに収容された二本鎖内包複合体の形成を想定していた。しかしながら、透過型電子顕微鏡像の詳細な観察から、直径25nmと40nmとの二つの粒径分布が認められ、二本鎖内包複合体とともに一本鎖内包複合体が形成されていることが示唆された。一本鎖内包複合体は、内包するDNAの分子量が半分であることから粒径がさらに小さくなり、間質透過に有利と考えられる。一方において、そもそも一本鎖で遺伝子発現するのかという疑問がある。そこで当該年度は、調製条件を詳細に検討し、それぞれを選択的に作り出すこと、それらを単離すること、そして超遠心分析によって複合体の分子量を決定することに注力した。これによって一本鎖DNAからなる複合体を調製、単離することに成功した。驚くべきことに、培養細胞を用いた評価より、一本鎖内包複合体は二本鎖内包複合体と遜色ない遺伝子発現を示すことが確認された。一本鎖を含むPMsの形成は想定外であったが、これは粒径をさらに微小化しつつ遺伝子発現が得られる形態であり、当初計画したように膵臓がん巣の細胞に遺伝子発現させることに成功した。このことから、研究は順調に進展していると判断している。
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Strategy for Future Research Activity |
上述したようにこれまでに、DNA二重鎖からセンス鎖とアンチセンス鎖をそれぞれ別々に収容した一本鎖複合体からなる極小化遺伝子デリバリーシステムを調製することに成功し、それが遺伝子発現能力を有すること、さらに膵臓がんモデルマウスにおいて、間質を越えてがん巣の細胞に遺伝子発現させられることを明らかにしてきた。2019年度では、がん組織中における複合体の分布とサイズの効果を検討するとともに、がん組織以外の体内分布を評価する。また治療用遺伝子を用いて系統的な実験系を組み、治療効果の実証実験を開始するとともに、毒性評価など安全性も評価する。 一方において、一本鎖DNAからなる複合体が遺伝子発現することは驚きの結果である。これには、細胞内で二本鎖が再結合した可能性、一本鎖から二重鎖が合成され二重鎖となった可能性、もしくは一本鎖から直接転写がおこった可能性が考えられる。そのメカニズムについて、試験管中での評価や培養細胞を用いて探索研究を行う。
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