2019 Fiscal Year Annual Research Report
Minimized packaging of pDNA within polyplex micelles and systemic gene therapy for pancreatic cancer.
Project/Area Number |
16H03178
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Research Institution | National Institutes for Quantum and Radiological Science and Technology |
Principal Investigator |
長田 健介 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 量子生命科学領域, 主任研究員(任常) (10396947)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 薬物送達 / 非ウイルス性遺伝子デリバリーシステム / 高分子ミセル / ポリイオンコンプレックス / DNA凝縮 |
Outline of Annual Research Achievements |
膵臓がんは、5年生存率が最も低い難治性がんである。その主な原因の1つは、多くの固形がんと異なり、血管密度が乏しくがん細胞が繊維性の間質に囲まれているという組織特徴にある。このためくすりを膵臓がん細胞に集めること自体が難しく、またナノメディシンにとっては間質が大きな障壁となっている。実際、粒径70nm以上のナノメディシンはがん巣に届かないことが明らかにされている。本研究では、DNAを極小サイズに折りたたむ新たな方法論によって高分子ミセル型遺伝子ベクター(PMs)のダウンサイジングを達成し、膵臓がんの間質をすり抜けてがん巣に到達する極小化PMsを開発する。これにより、膵臓がんに遺伝子治療という新たな治療法を提示することを目的としている。 2019年度は、これまでに検討した作成法によって得た極小化PMsの間質透過性におけるサイズ効果の検証を行った。膵臓がんのモデルマウスにPMsを静脈投与し、がん組織中におけるPMsの分布を観察した。既存の作成法によって得たロッド状PMs(粒径100 nm)は、がん血管と間質との間に集積するのに対し、極小化PMsは、がん巣の広い範囲にわたって分布し、かつ運んだ遺伝子からのタンパク質発現を認めた。これにより、極小化PMsが間質をすり抜けられることを確認した。これを受け、治療用遺伝子を積み込んだPMsを作製し、治療効果の検証を行った。これにより実際にがんの増殖を抑制できることを認めた。この結果は、経静脈投与で膵臓がんのがん細胞に遺伝子発現させ、治療効果を得た初めての成功例であり、膵臓がんに対し遺伝子治療が可能であることを示す重要な意味を持つ。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
膵臓がんに遺伝子を送り届けるには、間質を透過できるほどの大きさに遺伝子ベクターをダウンサイジングさせる必要がある。しかしながら、持続長50 nmの剛直性を有する二重らせん構造DNAをそのサイズにすることは原理的にできない。本研究は、プラスミドDNA(pDNA)の二重鎖を熱融解させ、柔軟な一本鎖として遺伝子ベクター中に格納するという新たな方法論によって、極小サイズの高分子ミセル型遺伝子ベクター(PMs)を得るという計画である。これまでに、pDNAの二本鎖を一本鎖に分けること、合成高分子と複合化させることによってそれを直径25nmの球状にたたみ込めること、そしてそれが遺伝子発現することを認めている。さらに、膵臓がんのモデルマウスを用いた実験を進め、極小化PMsが間質を越えて膵臓がん巣に到達し、遺伝子発現させられること、そして治療遺伝子を積み込んだ極小化PMsが実際にがんの増殖を抑制できることを確認している。今後、対照群との比較や安全性等の詳細を詰めていく研究が必要になるが、研究期間の前年度までに膵臓がんの本丸細胞での遺伝子発現を実現し、全身投与による治療効果が得られている。このことから当初計画以上に進展したと判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度は、治療実験における対照群の選定と統計解析を進めることで、2019年の実験結果を固める。また、細胞毒性や全身毒性の評価を通じて安全性の検証を行う。 興味深いこととして、この極小化PMsは一本鎖DNAを運び、タンパク質を発現させている。これは、転写には二重らせん構造DNAが必要であるという広く認められた常識からするとあり得ないように思える。一方において、安全性の高いウイルスベクターとして近年注目されているアデノ随伴ウイルス(AAV)を含め、一本鎖DNAウイルスは存在する。これらのウイルスにおける遺伝子発現のメカニズムとして考えられているものを考慮すれば、極小化PMsからの遺伝子発現には次の可能性がある。1)細胞内でPMsが解離し、二本鎖へのハイブリダイゼーションが起こった。2)細胞内で一本鎖をテンプレートに二本鎖が合成された。3)ゲノムに組み込まれた。4)一本鎖から直接転写された。細胞内における一本鎖DNAの動態と転写挙動を解析することで上記の可能性を検討し、当極小化PMsからの遺伝子発現のメカニズムの探究を行う。 以上より、治療効果の実証と遺伝子発現のメカニズムの探究を通じて、世界初となる膵臓がんのがん細胞で遺伝子発現させる極小化遺伝子ベクターの下地を確立する。
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