2017 Fiscal Year Annual Research Report
西洋中世の「正義論」がもつ哲学史的意味と現代的意義に関する基礎研究
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16H03342
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Research Institution | Nagoya Institute of Technology |
Principal Investigator |
藤本 温 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (80332097)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
山口 雅広 龍谷大学, 文学部, 講師 (20646377)
周藤 多紀 京都大学, 文学研究科, 准教授 (50571733)
辻内 宣博 東洋大学, 文学部, 准教授 (50645893)
小川 量子 立正大学, 人文科学研究所, 研究員 (60648442)
吉沢 一也 大阪体育大学, 体育学部, 講師 (60711710)
大野 岳史 東洋大学, 文学部, 助教 (70639822)
伊藤 邦武 龍谷大学, 文学部, 教授 (90144302)
矢内 義顯 早稲田大学, 商学学術院, 教授 (90200469)
松根 伸治 南山大学, 人文学部, 教授 (90432781)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 正義論 / 中世哲学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では「正義」の議論を哲学史的観点から明らかにすることを主眼としている。中世哲学の視座を中心に据えて正義がどのようなものとして理解され、またそれがどのような古代哲学からの影響関係の下で構築され、どのようにして近世哲学へと受け継がれていったのかを研究するにあたり、本研究では、(a)「正義論」の基本的な構図、(b)「正義」と「正しさ」の関係、(c)「正義」と「法」/「共同体」との関係、という三つの視点から順次していくこととしている。これらのうち、H29年度は(b)の側面を特に意識して研究を行うという計画に従い、研究会とワークショップを開催して本研究を推進した。 第2回正義論研究会(2017年9月12-13日、名古屋工業大学)では、本科研メンバーによる以下の研究発表を行った。 藤本温「正義と自然法」、山口雅広「トマス・アクィナスにおける原初的正義(justitia originalis)について」、小川量子「スコトゥスにおける正義の関係性」、大野岳史「スピノザにおける正義と民主制」、伊藤邦武「「集合的意識」を考える」、平野和歌子「アウグスティヌスにおける「神の義」の意義」、矢内義顕「神の正義の復讐」、辻内宣博「ビュリダンにおける配分的正義と交換的正義の見方」、周藤多紀「ディンスデールのヨハネスの『倫理学問題集』第五巻(ms.Oriel 33)」、松根伸治「倫理徳の基体としての意志:ガンのヘンリクス『任意討論集』第4巻22問題」 第2回正義論ワークショップ(2018年3月6日名古屋工業大学)では、以下の講演を基に討議をおこなった。 西村洋平「他者への正義と友愛―エピクテトス『提要』とシンプリキオスの註解」、小川量子「スコトゥスにおける法と自由」、御子柴善之「道徳性と正義の問題」。 他にも、別に記載の通り、各学会や各学会誌において研究成果を公にすることを通して、(b)の解明に貢献できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
H29年度は、本科研メンバーの担当者が取り扱う哲学者について、「正義」と「正しさ」との関係がどのように考えられているのかを明らかにすることを目指した。具体的には、 (1)「それぞれの担当領域において、正義と合理性の関係がどのように取り押さえられるのかを探求した。正義の公平性や均等性といった特性は、思慮によって把捉される「正しい理」のような合理性、あるいは、人間理性に共通的に把捉される「自然法」のような合理性に依拠するのかどうか、あるいは、まったく別の原理に依拠する場合には、そこには理に適う在り方が承認されるのかどうか、といった観点から、正義の特質と人間の理性的/合理的側面との関係性について研究会やワークショップにおいて議論を行い、問題点をメンバー間で共有できた。 (2)それぞれの担当領域において、そもそもなぜ正義は正しいものだと理解されるのかという、メタレベルの視点から、正義の正しさについて議論した。またもう一つのメタレベルの概念であり、またしばしば問題視される「善」との関係についても研究会やワークショップにおいて議論を行いいくらかの見通しをもつことができた。 (3)本科研の担当者の構成は、研究協力者を含めて10名からなるが、あらゆる正義論をカバーできるわけではない。そこで、2名の外部講師をお招きして第2回正義論ワークショップを開催して、それぞれ「他者への正義と友愛―エピクテトス『提要』とシンプリキオスの註解」、「道徳性と正義の問題」という演題で講演をしていただき、討論を行った。これによりストア派の正義論の基本と、カントの正義論の展開について学ぶことができた。また本科研担当者による「スコトゥスにおける法と自由」という演題の講演と討議も行い有意義なワークショップとなった。 以上により、おおむね順調に進んでいると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では「正義」の議論を哲学史的観点から明らか考察するにあたり、(a)「正義論」の基本的な構図、(b)「正義」と「正しさ」の関係、(c)「正義」と「法」/「共同体」との関係、という三つの視点から研究を進める計画である。H28年度は主に(a)を、H29年度は主に(b)の視点からの考察を行ったので、各担当者はH30年度は(c)の側面を特に意識して研究を行う。H30年度に関してより具体的には以下の通りである。 (c-1)「正義」と「法」とはどのような関係の下で捉えられるか。対他関係の中で正義を考えるうえで、正義と法との関係は非常に重要である。とりわけ、法に基づいて正義の在り方が規定されるのか、あるいは逆に、正義に基づいて法の在り方が規定されるのか、また、そもそも正義と法との間には必然的な関係があるのか、それとも、いわば恣意的で偶然的な関係にあるのかといった点について、それぞれの担当領域においてどのように考えられているのかを明らかにする。 (c-2)さらに、対他関係の中で正義の中身を或る程度具体化して考えてみた場合、その正義は、それぞれの国家/共同体において規定されるべきものであるのか、あるいは、自然法のような全人類的に共通する原理原則的な在り方があって、その原理に依拠する形で各国家や共同体のそれぞれの正義の在り方が決まるのかといった問題について、それぞれの担当領域での立場を描出する。 本年度は、3年間の本研究の最終年度になるので、単に(c)の視点のみならず、H28年度の(a)、H29年度の(b)の視点から得られた成果を十分に活かして研究を進める。なおH30年度も、正義論研究会と正義論ワークショップを開催して、各担当者の発表や外部講師による提題をもとに討議を行って本研究を進める計画である。
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Research Products
(28 results)