2016 Fiscal Year Annual Research Report
「同時代性」の探究:思想史・芸術学・文化ポリティクスからの複合的アプローチ
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16H03358
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
長木 誠司 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (50292842)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
刈間 文俊 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (00161258)
田中 純 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (10251331)
清水 晶子 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (40361589)
オデイ ジョン 東京大学, 大学院総合文化研究科, 准教授 (50534377)
高橋 哲哉 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (60171500)
加治屋 健司 東京大学, 大学院総合文化研究科, 准教授 (70453214)
森元 庸介 東京大学, 大学院総合文化研究科, 准教授 (70637066)
桑田 光平 東京大学, 大学院総合文化研究科, 准教授 (80570639)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 同時代 / アナクロニズム |
Outline of Annual Research Achievements |
第1年度の中心課題である「同時代性の思想史と思想における同時代性」に関連して予定されていた国際シンポジウムであるが、予定された研究者が来られなくなったため、29年度に先送りされていた。29年度はこれを実施した。 ジャンルとしては音楽で、現代東洋におけるヨーロッパ音楽の創作の同時代性を討議するものである。 内容は昨年生誕100年を迎える韓国の作曲家で、松下功、三輪眞弘、細川俊夫などの師でもあった尹伊桑を、その政治的・歴史的・芸術的位置に関して、東西の文化触変や検閲の問題など、「同時代」の観点から再考するもの。2017年11月18日(土)に東京大学駒場キャンパスの18号館ホールおよびコミュニケーション・プラザ北館(音楽実習室)を用いて、科研のメンバーに国内外の研究者を集めてシンポジウムを行った。メンバーは、徐京植(作家・東京経済大学教授)、小野光子(武満徹研究)、李京粉(ソウル大学校)、金成?(北海道大学)、沼野雄司(桐朋学園大学)、福中冬子(東京藝術大学)、長木誠司(東京大学)。 政治的亡命を余儀なくされながらも、ヨーロッパにおいて得意な創作を続けていた尹伊桑にとって、「同時代」とは何であったのか、いつであったのかを問いかけるためのシンポジウムである。 また、シンポジウムの内容を実際の作品を通して検証する目的で、夕刻より尹伊桑の作品を聴くための演奏会「尹伊桑の室内楽」を、東京大学ピアノ委員会、東大駒場友の会、表象文化論研究室の支援を受けながら実施し、《ピリ》 (1971)、《空間》(1992)、《インタールーディウムA》(1982)、《東西-ミニアチュール》 (1994)をプログラムに載せた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究課題にあった、合理性の言説における地域性と同時代性の問題系として、他文化との接触におけるのと同様、過去との接触においては、現在時と文化依存的なクライテリアの拘束が、合理性をめぐる他のクライテリアを判断不可能にするという問題が、尹伊桑という特別な環境に置かれた作曲家について検討する過程において、示唆的な事例となっていることが実証された。 合理性に関する社会論的なアプローチが重視する「いま・ここ」に対して、他者(ここではヨーロッパであり、同時に尹伊桑の故国である韓国でもある)との遭遇が作曲家の合理性概念を拡張する機会になりうるのだとして、それが無時間的・普遍的な合理性を発見する試みへ還元されてしまうとすれば、そこにもまたリスクはある。そのリスクのなかで、生前の尹伊桑がどのような決断を下していたのか、そしてそれが現在から見るといかように捉えうるのか。同時代性を巡るさまざまに交錯する視点が垣間見えるシンポジウムであった。 本研究では社会論的なアプローチと他のアプローチとを綜合的に検討し、「いま・ここ」の閉塞を乗り越えながら合理性を再考するための道筋を探るが、そのテスト・ケースとして尹伊桑の投げかける問いは大きかった。
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Strategy for Future Research Activity |
第2年度は予定通り、「同時代性のポエティクス」を中心課題として研究を行う。主として以下の3点に絞られよう。 1) パラダイムとしての「コンテンポラリー・アート」:フランスの美術社会学者ナタリー・エニックを援用しながら、戦後美術の世界的な動向のうちに、コンテンポラリーの呼称が純粋な現在性を超えて認識における共通性を指し示すに至る過程を、前衛やモダンの変容、美術のグローバル化などとの関係を考慮しながら、言説分析をつうじて明らかにする。 2) 現代文学における「同時代性」の構造:自分が生きているのではない時代を、レトロスペクティヴな視点からではなく、まさに「同時代」として生きられたものであるかのように描く作品を書いている作家をテーマにし、伝記でも歴史小説でもなく、複数の時間層が相互に貫入する独得の構造をそなえ、かつ、それらを統合する視点の不在、あるいは不安定性を意識的に露呈させる作品の「同時代性」について考察を試みる。 3) パッチワークと時間性:グローバル・ネットワークを通じて音楽スタイルの相互浸透は極限にまで加速され、「昨日」の音楽が「今日」には変形・刷新され、「明日」には再変形されるサイクルがあらゆるジャンルで見受けられる。言語を介さず聴感覚のみに依存する感性は、すでに同時性を極小の単位でしか捉えられないものとしている。そうしたなかで、芸術音楽もまたグローバル規模の音楽的パッチワークになりつつある。こうした多元的な音楽状況のなかで、非同時性や反時代性という視点がどれほど有効であるのか、耳を通した思索を展開する。
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Research Products
(1 results)