2017 Fiscal Year Annual Research Report
「同時代性」の探究:思想史・芸術学・文化ポリティクスからの複合的アプローチ
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16H03358
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
長木 誠司 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (50292842)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
刈間 文俊 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (00161258)
田中 純 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (10251331)
清水 晶子 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (40361589)
オデイ ジョン 東京大学, 大学院総合文化研究科, 准教授 (50534377)
高橋 哲哉 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (60171500)
加治屋 健司 東京大学, 大学院総合文化研究科, 准教授 (70453214)
森元 庸介 東京大学, 大学院総合文化研究科, 准教授 (70637066)
桑田 光平 東京大学, 大学院総合文化研究科, 准教授 (80570639)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 同時代性 |
Outline of Annual Research Achievements |
「同時代性のポエティクス」を中心課題とした平成29年度は、メンバーそれぞれが分担し、主として以下の項目を研究した。 1) パラダイムとしての「コンテンポラリー・アート」の枠組みのなかで、フランスの美術社会学者ナタリー・エニックは一連の著作における「コンテンポラリー・アート」の概念を検討し、 2) 現代文学における「同時代性」の構造を、モディアノ、キニャール、クンデラ、タブッキら現代文学の作家における叙述方法における「同時代性」について考察。 3) 芸術音楽におけるパッチワークと時間性の問題として、グローバル規模の音楽的パッチワークになりつつある事例を、アルゼンティンの移民ユダヤ系ルーマニア人の家系に育ち、イスラエルと合衆国で学ぶオスバルド・ゴリホフの、クレズマーの音楽とユダヤ教の典礼音楽、タンゴとカンテ・ホンドと西洋的前衛が違和感なく統合された音楽について検討しながら、非同時性や反時代性という視点がどれほど有効であるのかということに関する検討を行った。 このうち、11月には3)に絡んで、韓国の作曲家尹伊桑についての国際シンポジウム「尹伊桑の「同時代」?」を東大駒場キャンパスにおいて開催し、生誕100年を迎えたこの作曲家にとって、政治的・社会的・創作的な意味それぞれにとって同時代とは何であったのかを、検閲のような制度的側面も考慮しつつ多角的に捉えながら討議し、同時に実際の作品を耳で確かめる演奏会も行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
メンバーが分担してサブテーマごとに研究を遂行し、その成果を分担者全員の参加による定期的な研究会をつうじて共有するという方法は、順調に進んでおり、年度の後半における国際シンポジウムの実施も29年度は着実にやり終えた。音楽の領域に関する同シンポジウムは引きつづき、平成30年度には別のジャンルで海外の研究協力者を招いて行われる。また、個別のテーマでは数名の海外からの研究者を招聘して、小さな検討会も行うことができた。 「同時代性をめぐる思想史と思想における同時代」というテーマで進めてきた28年度から、「同時代性のポエティクス」へと進められたテーマは、1)パラダイムとしての「コンテンポラリー・アート」、2)現代文学における「同時代性」の構造、3)パッチワークと時間性、4)コンポラ写真における同時代性という4本の柱からなるが、このうち4)に関する検討が、やや遅れており、次年度へ持ち越される部分を残している。しかしながら、これは、次年度である30年度のテーマ「同時代性のポリティクス」とも密接に絡む問題であり、その意味では最終年度で検討することはかえって意義のあることではないかと思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
30年度も、基本的には過去2年度と同様に、メンバーがそれぞれ各自のサブテーマに基づいて研究を行うが、最終年度ということもあって、秋には総合的な検討会を行う予定でいる。30年度のテーマは「同時代性のポリティクス」であり、1)性的少数者の権利運動における地域性と同時代性、2)「リアルタイム」の支配と対抗的時間、3)租界期上海のシネ・ポリティクス、4)検閲と芸術の同時代連関の4項目であるが、このうち3)に関しては、分担者の刈間が退官したため、メンバーからはずれるものの、実質的な研究協力者として参加してもらい、秋口の検討会には参加してもらう予定である。 具体的には 1) 性的少数者の権利運動における地域性と同時代性:日本の性的少数者をめぐる言説の分析を通じて、「同時代性」の言説と「同地域性」の言説との交渉とその効果を再考する。 2) 「リアルタイム」の支配と対抗的時間:「リアルタイム」を支える技術を活用しながら、そのような社会状況に抗した時間経験を作り出そうとする思想・芸術・文化現象について分析する。 3) 租界期上海のシネ・ポリティクス:1920-30年代の上海を対象に、政治的に自由なこの環境における政治的・歴史的に複雑な状況を、各国映画の交錯の様態として分析するとともに、戦後に上海を引き継いだといえる香港や台湾の映画的な現状へと考察を敷衍する。 4) 検閲と芸術の同時代連関:西洋近代をモデルとする諸国家では検閲は公式には廃されているが、メディア環境の変化とともに個人レヴェルで提起された芸術へのオブジェクションが瞬時に社会レヴェルのイシューへ拡張される検閲の私営化とも呼ぶべき現象が観察される。こうした連鎖的な反応を同時代性の発現の一様態と捉え、表現とその自由/制約をめぐる今日的な趨勢を批判的に考察する視点を確保する。
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Research Products
(20 results)