2016 Fiscal Year Annual Research Report
『慕帰絵』の制作事情をめぐる総合的研究 ―覚如像の構築方法と建築表現に注目して
Project/Area Number |
16H03371
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
池田 忍 千葉大学, 文学部, 教授 (90272286)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
亀井 若菜 滋賀県立大学, 人間文化学部, 准教授 (30276050)
村松 加奈子 龍谷大学, 龍谷ミュージアム, 講師 (40707973)
赤澤 真理 岩手県立大学盛岡短期大学部, 生活科学科生活デザイン専攻, 講師 (60509032)
小澤 朝江 東海大学, 工学部, 教授 (70212587)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 日本・東洋美術史 / 建築史 / 日本史 / 日本文学 / ジェンダー |
Outline of Annual Research Achievements |
1.「慕帰絵」10巻うち、現在までに補作巻を除く半数程の巻を中心に、詞書および史実との照合によって、描かれた場所や建築、人物、行事・事績等を比定し、描写の具体的な意味や作為の解明に向け研究を進め見通しを立てた。研究会を4回開催し、討論を経て成果を文章化し蓄積しつつある。建築については、覚如にかかわる場として、史実(時期や建築の実態)とは必ずしも対応しない特徴を有していること、意図的な描き分けがなされていることが明らかになった。また、龍谷ミュージアムにおける展覧会に「慕帰絵」(10巻)が出品された機会を捉え、研究会を開催し(第3回研究会・10月30日)、分担者・協力者全員で熟覧後、討議を経て細部におよぶ表現の意味の解読に手がかりを得た。画中の主要人物については、顔貌描写、当該場面における位置や行為、服装等の検討を通じ、当該人物を明らかにするすることができた。併せて覚如・存覚の時代に制作された肖像画(「親鸞聖人・如信宗主・覚如宗主連座像」「存覚影像」等)の実見を果たすことで、絵巻の表現との比較検討が進展した。
2. 1の成果と併せ、本願寺史と「慕帰絵」の巻・段の配列、及び「最須敬重絵詞」と指図書との比較検討を進めた。全容の解明には未だ至っていないが、ここまでの知見を基礎として、絵巻の制作意図と背景の考察を次年度の課題とし、研究を計画を立てた。
3. 代表者と分担者の亀井若菜氏を中心に、在米中世絵巻の海外調査を実施し、成果を上げた。広い知見から仏教主題の絵画の受容と制作についての考察を深めることができた。特に「秋夜長物語絵巻」(メトロポリタン美術館)については、稚児の描写、草庵など建築の描写を中心に、細部に及ぶ検討に資する知見を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1. 「慕帰絵」の画面分析、「最須敬重絵詞」および指図書との比較検討は、計画通り進んでいる。作品の実見の機会は、龍谷ミュージアムにおける展覧会に「慕帰絵」(10巻)が出品された機会を捉えて熟覧し、表現の意味の解読に手がかりを得た。特に画中の主要人物については、顔貌描写、当該場面における位置や行為、服装等の検討を通じ、当該人物を明らかにするすることができた。併せて覚如・存覚の時代に制作された肖像画(「親鸞聖人・如信宗主・覚如宗主連座像」「存覚影像」等)の実見も果たしたが、さらに細部に及ぶ表現や技法の吟味のためには、調査の実施が課題となる。 2. 1の成果と併せ、本願寺史との照合を進めることを通じて、建築描写を中心に、『慕帰絵』制作の意図と背景を考察する大きな手がかりを得ることができた。その全容解明には、未だ至っていないが、次年度はこれを課題として研究を進める計画である。 3. 代表者と分担者の亀井若菜氏を中心に、在米中世絵巻の海外調査を実施し、成果を上げた。広い知見から仏教主題の絵画の受容と制作についての考察を深めた。特に「秋夜長物語絵巻」(メトロポリタン美術館)については、稚児の描写、草庵など建築の描写を中心に、細部に及ぶ検討に資する知見を得た。
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Strategy for Future Research Activity |
1.『慕帰絵』各段の描写の分析:研究会の開催、情報ファイルの共有と意見交換を通じて 各段に描かれた場と建築、人物、行事等の比定作業を昨年度に引き続きおこない、全段の分析を年末を目処に完了する。 ・覚如やその子存覚・従覚、高弟など主要人物の面貌については肖像や彫像(『真宗重宝聚英』全10 巻、同朋舎メディアプラン、2007年復刊、など)と比較して特定する。また、他の画中人物の描写との差異にも注目し、人物の描写の描き分けの特徴や意図を解明する。 ・大谷房・西山別院・天橋立など土地や景観を象徴的に描く場面については現実の地形と照合し、他の絵巻作品における描写との比較を行なう。北野天満宮・往生極楽院等の社寺建築については絵画資料、および現存建築と比較して判断材料とする。さらに、『最須敬重絵詞』と重複する場面については、画面構成や人物・建築の選択や配置、描写を比較し、かつ同じ場所・建築を描くとみられる他の段とも比較して、建築・生活・文化に関わる表現の意味を詳細に解読する。同時代に制作された親鸞伝絵(西本願寺本、高田専修本、東本願寺本(康永本))の描写との比較検討を行ない、制作事情、絵師(工房)選択の問題について考察を深める。 2.『慕帰絵』『最須敬重絵詞』の制作背景の検討: 両絵巻について、選択場面や詞書、同じ場面での構図や描写を比較し、制作意図の相違を考察する。さらに、『慕帰絵』の発願者・存覚の『存覚上人袖日記』(京都・常楽寺蔵)、『常楽台主老衲一期記』(龍谷大学図書館蔵)などにより、両絵巻が制作された時期の本願寺や発願者の状況や思想を検討し、覚如の没後なぜ2本の絵巻が続けて制作されたのか、制作背景を明らかにする。 3. 文学・真宗史・同時代絵画史の専門家を招き研究会を開催(12月)。成果と課題を明らかにし、学会発表の準備を進める(1~3月)。
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