2017 Fiscal Year Annual Research Report
"Representations of 'Otani' in the Illustrated Biography of Priest Kakunyo (Bokie): The People and Religious Spaces of Early Period Hongwanji
Project/Area Number |
16H03371
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
池田 忍 千葉大学, 大学院人文科学研究院, 教授 (90272286)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
亀井 若菜 滋賀県立大学, 人間文化学部, 准教授 (30276050)
村松 加奈子 龍谷大学, 公私立大学の部局等, 講師 (40707973)
赤澤 真理 岩手県立大学盛岡短期大学部, その他部局等, 講師 (60509032)
小澤 朝江 東海大学, 工学部, 教授 (70212587)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 日本・東洋美術史 / 建築史 / 日本史 / 日本文学 / ジェンダー |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、『慕帰絵』10巻に描かれた教団にとって大切な「大谷」という「場」と、この場をめぐる「人」の描写の検討を重点的に進めた。覚如没後の初期本願寺を取り巻く状況を背景に制作された『慕帰絵』の建築と人物描写の分析を通して、大谷坊の人々が、周囲に対して見せたかった自画像の読み解きに一定の成果を上げた。 通算6回の研究会を開催し(7、8、1、2、3(2回)月)開催し、『慕帰絵』と「最須敬重絵詞」・指図書の比較を徹底し、史資料の読解、京都・東山の大谷周辺のフィールドワークを実施して議論を深めた。特に3月7日開催の研究会には、中世思想・宗教史を専門とする大田壮一郎氏をお招きし、南北朝時代、とりわけ14世紀前半の京都と鎌倉幕府、室町幕府の宗教政策、東山地区を中心とする諸寺院との関係について重要な知見を得た。この過程で新知見を含む成果を得たため、美術史学会東支部例会(2018年3月24日、於東京大学)にて、小沢朝江(建築史)と池田忍(美術史)の共同で「『慕帰絵』における「大谷」の表象―初期本願寺をとりまく人と宗教空間―」と題した発表を行った。主要な指摘のひとつは、『慕帰絵』に描かれた建築と都市空間、および東山の七観音大路周辺の人物描写(5巻1段)に関するもので、『慕帰絵』が大谷房を取り巻く東山の環境に注意を払い、七観音大路・今小路の地形を正確に描き、叡山門跡の寺辺としての性格を坊舎や人物によって表現していることを明らかにした点である。 併行して、課題のひとつであった覚如の旅にかかわる『慕帰絵』の描写とその意図の検討をめざし、関連する諸段の分析を分担して進めた。特に9巻1段天橋立の画面については、同地と覚如、大谷坊と他寺院・僧侶の関係に関する予備調査において成果を得たため、3月15日に分担者、協力者全員で天橋立周辺のフィールドワークを実施し、今後の他段の分析に向け一定の方針を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
美術史学会東支部例会発表「『慕帰絵』における「大谷」の表象―初期本願寺をとりまく人と宗教空間―」(小沢朝江・池田忍)にて、以下の新知見を含む研究成果を提示することができた。 1.『慕帰絵』に描かれた建築と都市空間、および七観音大路周辺の人物描写(5巻1段)の詳細な分析を通じ、次の特徴を明らかにした。①『慕帰絵』は大谷の坊舎を、修学時代から留守職継承までは聖道門の僧坊と同等の檜皮屋根で描くが、留守職引退後は、板葺屋根で描き分け、浄土門の独自性と隠棲のイメージを表現。その一方、表門は一貫して檜皮屋根の唐門で描き、親鸞廟所としての存在意義を強調している。②5巻1段においては、大谷房を取り巻く東山の環境に注意を払い、七観音大路・今小路の地形を正確に描き、叡山門跡の寺辺としての性格を坊舎や人物によって表現すること。また、東山の宗教環境に相応しい異なるタイプの宗教者たちを七観音大路(往来)とその道沿いの住居に描いていること。 2.人物表現については、全段の分析を通じて以下の特徴を明らかにした。①覚如を描くに際し、着衣と面貌の描写を通じ親鸞イメージの借用と反復をおこない、覚如、如信、親鸞の三代の連続性を強調、これによって覚如の卓越性を演出すること。②大谷の家の内紛にかかわる一族の人々を排除するのではなく、覚恵・覚如父子と対立した唯善、親鸞に義絶された善鸞、また覚如に二度にわたり義絶された長子・存覚をも、親鸞の血を分けた大谷の家に属する人々として、融和的に表象しようとする意図が認められること。これら大谷の一族にとどまらず、『慕帰絵』においては、有力な弟子(乗専・顕智)、日野家の人々、そして覚如が交流した東山を中心とする宗教者/歌人らまでが、それとわかる面貌描写を用いて描かれている可能性を指摘した。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度の課題は、これまでの分析結果に基づき、『慕帰絵』の表現上の特徴や意図が、その制作目的や(想定される)観賞者像とどのように結びつくのかを明らかにすることである。具体的には、以下の手順で研究の進展をはかり、本科研の成果をとりまとめる。 ①『慕帰絵』後半(5巻3段以降)の巻・段に多く描かれる覚如の隠遁後の姿、旅の描写を分析し、それが繰り返し描かれた意味、意図を明らかにする ②教義と関わる行為、宗教実践が描かれる巻・段(例えば出家や臨終、葬送など)の分析と考察を深める。③同時代に制作された親鸞伝絵(西本願寺本、高田専修本、東本願寺本(康永本))の描写との比較検討を行ない、制作事情、絵師(工房)選択の問題について考察を行う。④これまでに研究が進展した『慕帰絵』と『最須敬重絵詞』の差異や共通性の分析を総括し、両絵巻制作の意図、および企画に関与した人物像を明らかにする。その際、親鸞の血縁者、門弟、京都東山の宗教空間における人間関係に留意し、さらには『存覚上人袖日記』(京都・。常楽寺蔵)、『常楽台主老衲一期記』(龍谷大学図書館蔵)などにより、両絵巻が制作された時期の本願寺や発願者の状況や思想を検討する。以上を踏まえ、覚如の没後なぜ2本の絵巻が続けて制作されたのか、その制作背景と目的を明らかにする。⑤ 大原と松島のフィールドワークを実施し、視点と画面構成の特色を明らかにする。またその特色に照らし、他の絵巻との比較検討をおこなう。以上①~⑤の考察を進め、本年度は前半に2回の研究会を実施する予定である。秋までには全巻におよぶ分析を終え、宗教史、美術史、建築史の成果と切り結ぶシンポジウムを具体的に計画し、年明けに開催して本科研の成果を問う。
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