2017 Fiscal Year Annual Research Report
創造的思考の基盤としての建築術:初期近代イタリアの美術・文芸における空間の観念
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16H03373
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
桑木野 幸司 大阪大学, 文学研究科, 准教授 (30609441)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
水野 千依 青山学院大学, 文学部, 教授 (40330055)
渡辺 浩司 大阪大学, 文学研究科, 准教授 (50263182)
林 千宏 大阪大学, 言語文化研究科(言語文化専攻), 准教授 (80549551)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 記憶術 / エクフラシス / ロクス・アモエヌス / 庭園 / 建築 / 百科全書主義 / ルネサンス |
Outline of Annual Research Achievements |
四年の課題実施期間の第二年目にあたる本年度は、研究分担者・協力者たちとの間に初年度に築いた研究推進連携体制の維持とさらなる強化を念頭に置きつつ、一次資料の分析を行い、その成果をイタリア語および日本語で発表するとともに、年度末にはこの二年間の研究成果の総括を行う国際シンポジウムを実施した。 本年度とくに重点的な分析を行ったのが、修辞学におけるエクフラシスの概念の整理と、そのエクフラシスがルネサンス期の各種テクストにおいて、空間描写・表象に独創的に応用された諸例の分析である。研究代表者である桑木野は、イタリアを中心にルネサンス文芸を広く見渡し、『狂乱のオルランド』や『解放されたイェルサレム』などの文学作品における、特に庭園描写のレトリックに着目し、記憶術、「ロクス・アモエヌス」のトポス、といった視点から包括的な分析を行った。その成果は、イタリアの建築雑誌『EDA』にイタリア語論文として発表し、またその改訂版を日本語の学術誌『Arts&Media』vol.8に投稿した。 研究協力者であるパウリーナ・シュピエホーヴィチは、『狂乱のオルランド』における建築空間描写とエクフラシスの関係に探りをいれ、また同じく研究協力者である岡北一孝は教皇ピウス二世のテクストと理想都市ピエンツァの関係を、修辞学的視点から分析し、新たな発見があった。両名の論考は『Arts&Media』誌に発表される予定である。 3月25日に行った国際シンポジウムでは、上記三名の発表に加え、研究協力者である稲川直樹がフィレンツェの「捨て子養育院」の建築史的考察を、また同じく研究協力者である古川萌がヴァザーリの素描コレクションを記憶術的観点から考察する論考を発表した。同シンポジウムには研究者のほか一般聴衆も多数あつまり、アウトリーチ活動としても充実したものとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
二年目にあたる本年度は、初年度に行った研究基盤の整備をうけて、本格的な資料分析を開始した。研究に関しては、代表者である桑木野が、本課題の主要テーマである記憶術について、日本語の論文二本のほか、最新の研究成果をイタリア語による論文二本にまとめ、イタリア語雑誌ならびに英・仏・伊語による国際論集にて発表することができた。これは、国際的なアウトプットを目標とする本研究にとっては、大いなる進捗といってよい。 反省点としては、本年度は研究協力者による成果発表に見るべきものが多数あった半面、研究分担者については、さほど目立った成果があげられなかった点がある。ただしこれは、資料の分析作業に沈潜した結果のことであり、来年度以降、豊かな研究成果の発表が予定されているため、本研究課題全体としてはまったく問題がないものといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方針としては、昨年度までの反省点ならびに成果をふまえて、以下の点を重点的にすすめる。一つには、研究代表者自身の研究をさらに推進するために、初期近代のイタリア語ならびにラテン語の著作、特に芸術論や文学、美学理論、記憶術論考を丹念に分析し、新たな論文執筆の材料をそろえる作業に集中する点である。またその成果は、日本語だけでなく、英語およびイタリア語で積極的に発表すべく、海外の研究者や研究機関との連携を一層強化してゆく。現在までのことろ、オスロ大学のミュージアム史研究プロジェクトを準備中である。 また研究分担者との連携については、引き続き、緊密な連絡を取り合い、研究会や勉強会を適宜開催する。さらには次年度(4年目)には、海外から研究者を招聘し、本課題の総括となる規模の大きなシンポジウムの開催を予定しており、三年目にあたる年には、その準備作業を順次すすめてゆく予定である。招聘を想定しているのは、アルベルティ研究の分野で世界的に名声の高い、ミシェル・パオリ氏ほかである。 長期的な課題としては、ギリシア語の資料の読解も可能とすべく、古典ギリシア語の文法の習得に、昨年同様、引き続きつとめてゆく。
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Research Products
(10 results)