2018 Fiscal Year Annual Research Report
「奥行きの感覚」を求めてー新しい奥行き知覚から導かれる新共通感覚の構築
Project/Area Number |
16H03384
|
Research Institution | Kyoto City University of Arts |
Principal Investigator |
中橋 克成 京都市立芸術大学, 美術学部/美術研究科, 教授 (60309044)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
富田 直秀 京都大学, 工学研究科, 教授 (50263140)
藤田 一郎 大阪大学, 生命機能研究科, 教授 (60181351)
小島 徳朗 京都市立芸術大学, 美術学部/美術研究科, 准教授 (70548263)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | 奥行き / 彫刻空間 / 絵画空間 / 晴眼者の触覚による造形 / マチスによる切り絵 |
Outline of Annual Research Achievements |
この研究は、古今東西の美術作品を実見し調査するだけでなく、その作品の中に潜む奥行きのあり方を理解するために、研究対象ごとに制作課題を創案し、研究者も含む10~15名ほどの被験者にその課題制作を行い、その制作結果から奥行きの感覚の核心に触れようとする試みである。奥行き研究の3年目は、西洋、東洋に共通して比較考察のできる風景画に焦点を絞って研究を開始した。手始めに大阪市立美術館で開催された中国絵画の特集展示「阿部房次郎と中国絵画」の見学、そして国立国際美術館での「プーシキン美術館展」の見学、さらに台北・国立故宮博物院の中国絵画の実見調査という手順をとった。特に故宮博物院の「国宝再現ー書画菁華特展」は国宝の書画を選りすぐっての陳列で、宋画における奥行きに関する様々な特徴を知ることができた。この知見を基に、風景画を風景画たらしめている要素について問いかける課題、山水画考察を深める制作課題を創案し試作した。その過程では、小林玉雨(博士課程学生)の中国留学体験談から得た山水画の制作方法についての実際や浅野均(日本画専攻教授)による山水画の講義を開講し課題制作の参考とした。また、前年度から引き続き、マチスの切り絵から伺える彫刻の空間との親和性についての研究を引き続き行ない、カットアウトが立体から平面に翻訳するための方法として、可能性に満ちていることが確認できた。この制作過程の詳細と分析、そして国立故宮博物院の実見調査記録は2018年度の京都芸大紀要に掲載した。また、それとは別に兵庫県立美術館と協力して彫刻における触覚とは何かについての課題を検討する展覧会を(中ハシの個展)行なった。視覚を遮断して触覚だけによる塑造を行う中で、触覚による奥行きには大きさやフォルムの捉え方において、通常の塑造とは大きく異なることが明らかとなった。この制作内容と記録も同じく2018年度の京都芸大紀要に詳述した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初検討していた、1「領域ごとに異なる奥行き」の研究、2「領域をまたがる横断と応用の奥行き」の研究、3「原始的・根源的な奥行き」の研究の積み上げは、ほぼ順調に推移している。また、晴眼者による視覚を遮断して塑造する研究が、奥行き研究の内容に新たな項目として取り上げられた。これによって異なった視点からの奥行きの感覚の可能性を示唆することができたことは収穫であった。ただし、それをどのようにこれまでの研究の中に位置付けるかが、曖昧なままとなっており、奥行きに関する制作課題の積み上げられた考察の中で包括的な検討が必要である。
|
Strategy for Future Research Activity |
31年度は、総括に向けて、これまで3年間に渉ってやってきた研究活動の検証と仮説作業にあてられる。すなわち、1「領域ごとに異なる奥行き」の研究、2「領域をまたがる横断と応用の奥行き」の研究、3「原始的・根源的な奥行き」の研究である。各項目のそれぞれの分析と総合的な奥行き知覚の新共通感覚の仮説作業に入りたい。今までのところ、各項目の実見作業は、ほぼ果たしてはいるが、なお再度確認のために、国内で実見 のできる美術館等を追加して行かねばならないだろう。また本年度は、今までの研究の中で漏らしていたと思われる領域についての実見とそれに伴う制作課題による検証も併せる必要がある。例えば、前述の「触覚の奥行き」、それから「庭園空間」の奥行きの研究である。触覚については引き続き、視覚を遮断した制作を進めてみて、その成果を観察し、どのように位置付けるかの検討をしたい。また庭園については特に日本庭園に焦点を当て、その成り立ちや構造の仕組みを明らかにする実制作による検証を行う予定である。当初、この奥行きという特有の性質から発生する広範な領域の拡がりから、あえて平面表現、立体表現と呼ばれている領域での固有の奥行きを有する作例を取り上げてきたが、日本固有の空間表現で、かつ芸術作品としても鑑賞できる日本庭園は、四季を通じて変化し、目線を誘う道ゆきとそれに従いながら次々に開けてゆく空間は、2年前に調査したヴェゼール河流域にある洞窟壁画の空間性と比較しながら論じることができるので はないかと期待している。「人が意図的に造作する屋外の自然とその奥行き」(仮称)として付け加えてみたい。
|
Research Products
(1 results)