2018 Fiscal Year Annual Research Report
インド被差別民解放運動と仏教復興運動にみる当事者性の獲得に関する宗教人類学的研究
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16H03533
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Research Institution | Kanagawa University |
Principal Investigator |
関根 康正 神奈川大学, 付置研究所, 研究員 (40108197)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
鈴木 晋介 茨城キリスト教大学, 文学部, 准教授 (30573175)
根本 達 筑波大学, 人文社会系, 助教 (40575734)
志賀 浄邦 京都産業大学, 文化学部, 教授 (60440872)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 佐々井秀嶺 / 元不可触民(ダリト) / インド系移民社会 / 仏教徒のトランスナショナル・ネットワーク / 巡礼 / 改宗 / 行為主体性 / 宗教セクト |
Outline of Annual Research Achievements |
関根は、2018年8月~9月に英国現地調査を実施した。移民3世が登場する1990年代以降、インド系移民社会内部に新たに現象してきた「不可触民」差別に対する解放運動の実態について関係組織を訪問しインタビューを行った。また、ロンドン大学SOAS図書館で関係資料収集を行った。2019年1月の研究会でその成果を「英国・ロンドンでのインド系移民のアンベードカラトの反差別運動について」と題して報告をした。 根本は2018年8月~9月および2019年2月~3月、インドのナーグプルで計4週間のフィールドワークを行なった。特に仏教僧佐々井秀嶺が現地に保管する不可触民解放運動史料の確認・整理に取り組みつつ、佐々井と仏教徒による創発的な宗教実践と当事者性の拡張について調査を実施した。これに加え、ナーグプルおよび近隣農村におけるダリト(元不可触民)活動家男性と上位カースト女性の異カースト間結婚の調査にも取り組んだ。 鈴木は2019年2月にスリランカでのフィールドワークを行った。シンハラ仏教僧や在スリランカ・インド僧(Mahamevnawa僧院)への追加インタビューを通じて、南アジア上座部仏教圏におけるアンベードカライト的言説の評価の輻輳性の考察に資する言説データを蓄積するとともに、巡礼を中心としたインド、スリランカ両国仏教徒のトランスナショナル・ネットワークの実態に関する一次資料の収集に取り組んだ。 志賀は文献研究として、アンベードカルによる『ブッダとそのダンマ』の第3部と『改宗(ヒンドゥー教からの離脱)』のテキスト分析と内容の比較を行った。定例の研究会においては、仏教徒のアイデンティティの二重性、改宗が持つ意味、仏教徒の行為主体性等について考察し報告した。また2019年3月にインド・ナーグプルを訪問し、トランスナショナルな仏教者ネットワークや仏教徒の行為主体性などについて現地調査を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
関根は、インド国内の解放運動の分析に加えて、英国でのBritish Asiansの移民の間の新たな差別現象に対しての反差別運動に対象を広げた。それによって、本研究の視野を大きく広げ、大いに研究を前進させた。内外の解放運動の社会的文脈の差異を超えて運動の動員のあり方に共通点を見いだした。英国でもキリスト教、仏教、イスラーム教の宗教セクトの働きが大きいこと、ダリト解放運動にカースト解放を接続させる必要悪となる戦略的ねじれ問題があることなどが再び明らかになった。 根本は2018年度、ナーグプルでの調査の深化、多面化が進んだ。仏教徒による仏教僧佐々井の聖者化と、これを受けた佐々井による宗教儀礼の創出について調査に取り組んだ。これに加え、同市と近隣農村で異カースト間結婚の調査も実施し、9組のカップルについてインタビューを行なった。この研究成果を著書『21世紀の文化人類学』で発表し、The 10th INDAS-South Asia International Conferenceと平成30年度マハーラーシュトラ研究会で報告した。 鈴木は、インド仏教徒のトランスナショナル・ネットワーク、特に南アジア上座部仏教圏との交流がもたらす思想的・実践的変容の実態解明を主題に現地調査を行ってきた。これまで、①アンベードカライト的な言説の評価をめぐる輻輳性(批判的言説を含む仏教徒自身の語り)に関し、当初の想定を超える一次資料の蓄積がなされている。また調査を通じ、②宗教実践の移植の場としての「巡礼」が新規の重点的研究対象に浮上している。 志賀は、『ブッダとそのダンマ』のテキスト分析研究を順調に進めている他、アンベードカルの他の著作との内容比較にも着手している。また現地での調査により、アンベードカルがテキストを通じて語ったことがどの程度、仏教徒の現実の生活に結実し、息づいているかを確認することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
関根は、本プロジェクトの最終年度であることから、集積してきた調査データの統合とそこからの議論の総括を成果報告に向けてリードする。また自身の研究としては、インドのタミルナードゥ州におけるダリトをめぐる差別の現実とそこからの解放運動の実態調査を8月に実施し、昨年度の英国調査で広げた知見をもって、比較検討する。特に、政党政治とカーストの関係、解放運動と宗教との関係を調査の中心におく。 根本は2019年4月から、インドより日本へ輸送した不可触民解放運動史料のデジタルアーカイブ化に取り組む。次に6月の本科研研究会で2018年度の研究成果を報告した後、9月にインドのナーグプルで創発的な宗教実践と当事者性の拡張について継続調査する。これに加え、同市と近隣農村で異カースト間結婚の調査も行なう。この調査結果を2020年1月の研究会で報告した後、3月にナーグプルで2回目のフィールドワークに取り組む。 鈴木は2019年8月にスリランカ現地調査を行う。8月16日(火)から実施が予定されているナグプールのインド仏教徒によるスリランカ聖地巡礼の参与観察及びインタビュー調査が主眼である。参与観察については、スリランカ側の仏教僧コーディネーターに既に同行の許可を得ている。なおインド側の巡礼者は、聖地巡礼前後に仏教寺院に宿泊し種々の儀礼を執り行う予定であり、これについても可能な限り参与観察を行う。 志賀は『ブッダとそのダンマ』のテキスト研究と現代インド仏教に関するフィールド調査を行う。テキスト研究については、第4部3・4章と第5部の読解を進める予定である。アンベードカルの言説分析を通して、彼の仏教理解における近代合理主義の影響の度合いやアンベードカル仏教における聖と俗の関係性などを明らかにしたい。またインド・プーネーにおいてアンベードカルや仏教に関係する施設や資料の調査を行う予定である。
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Research Products
(10 results)