2017 Fiscal Year Annual Research Report
長期停滞からの脱却過程に関する研究:「失われた20年」は克服されたのか
Project/Area Number |
16H03604
|
Research Institution | Kansai Gaidai University |
Principal Investigator |
小川 一夫 関西外国語大学, 外国語学部, 教授 (90160746)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
得津 一郎 神戸大学, 経営学研究科, 教授 (80140119)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | アベノミクス / 長期期待成長率 / 需要要因 / 供給要因 / 企業意識 |
Outline of Annual Research Achievements |
アベノミクスによって企業が予想する日本経済の長期的な見通しがどのように変化したのか、定量分析を行った。使用データは、内閣府が実施している「企業行動に関するアンケート調査」である。そこでは、企業が今後の景気や業界需要の動向をどのように見通しているか等についてアンケート調査を行っているが、その中でも、今後1年間、3年間、5年間におけるわが国の実質経済成長率(GDP成長率)の見通しに着目した。2001年度から2016年度までのデータを使用して、企業が実質GDP成長率をどのように見通してきたのか、また、見通す上でどのような要因を重視してきたのか定量分析を行った。分析を通じて、アベノミクス実施以降、GDP成長率の見通しがどのように変化したのか、またその変化がどのような要因によってもたらされたのか、実証的検討を加えた。 得られた結果は以下の通り。まず、企業によるGDP成長率の見通しは、見通し期間の長短にかかわらずアベノミクスが実施された2013年度以降にも大きな変化がなかった。また、GDP成長率の見通しを決定する要因を需要要因と供給要因に分けて定量分析を行った。その結果、需要要因については、長期におけるGDP成長率を予測する上で、現在から過去の消費成長率、輸出成長率の説明力が高いこと、供給要因については、現在の資本ストック成長率、労働成長率、技術進歩率を同時に考慮した場合に説明力が高いことがわかった。 また、需要要因と供給要因を比較すると、GDP成長率を見通す上で需要要因の方が重要であることもわかった。以上の結果から、アベノミクス実施以降、経済成長率の見通しが改善しない原因の一つとして消費成長率の伸び悩みを指摘することができる。長期的に成長期待を高めるには、雇用や社会保障制度の安定化によって家計を取り巻く将来不安を払拭して、安定的に消費成長率を向上させることが重要な政策課題となる。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題の目的は、「失われた20年」という長期停滞からの脱却過程に着目し、果たして「失われた20年」の負の遺産が完全に払拭されたのか、実証的に解明することである。その目的を達成するために、経済活動の主要な担い手である家計や企業に着目して、両主体を取り巻く経済環境の変化が、家計や企業にどのような意識の変化をもたらし、それが各経済主体の行動に与えた影響を実証することによって検証作業を進めている。すでに、企業の意識にどのような変化が生じたのか、内閣府『企業行動に関するアンケート調査』に基づいて、企業が抱く日本経済の実質経済成長率への期待が、アベノミクスの時期にどのように変化したのか、また期待成長率へ与える要因について実証分析を行った。 家計の意識の変化についても、内閣府『消費動向調査』のデータを収集してデータベースを構築している。このデータベースには、消費者の暮らし向きに関する意識の変化などを総合的にとらえた「消費者態度指数」と消費者態度指数を構成する4つの消費者意識指標(暮らし向き、収入の増え方、雇用環境、耐久消費財の買い時判断)、さらに資産価値に関する意識が収集されており、さらに総務省『家計調査』から収集された所得階層別の消費、所得の時系列データも収集されている。本年度は、このデータベースに基づいて実証分析を進め、アベノミクスの時期に消費者の意識がどのように変化したのか、またその変化を引き起こした要因、そして消費行動に与えた影響について実証分析を行う予定である。このように当初の予定通りに研究は順調に進んでいる。
|
Strategy for Future Research Activity |
内閣府『消費動向調査』、総務省『家計調査』のデータを収集したデータベースに基づいて、まず、「消費者態度指数」とそれを構成する4つの消費者意識指標、さらに資産価値に関する意識の決定要因について実証分析を行う。決定要因は大別して労働市場の状況、資産市場の状況である。次に、消費者の意識が家計の消費行動に与える影響について、消費関数を計測することに明らかにする。所得階層ごとに分析を行い、どの所得階層で消費者の意識が消費決定に大きな影響を及ぼすのか、検討を加える。また、消費関数の計測結果に基づいて、実質賃金の安定的な伸びや社会保障制度改革といった経済政策の変更が消費行動にどの程度の影響を及ぼすのか、シミュレーション分析によって定量的な評価を行う。そのことによってアベノミクスの下での経済政策への評価を下すことが可能となる。 また、企業行動についても、個別企業の財務データを用いて近年投資収益(限界q)が高まっているにもかかわらず、設備投資が伸び悩んでいる原因について計量的に検討を加える。その過程で、企業の将来収益に対する意識がどのように変化し、収益に対する予想と設備投資の関係がどのように変わってきたのか、高度成長、バブル、失われた20年、アベノミクスを含む長期にわたるパネル・データを用いて計量的に検討を加える予定である。、
|
Research Products
(1 results)