2017 Fiscal Year Annual Research Report
多様な言語的背景をもつ日本語学習者による日本語リテラシーの獲得
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16H03732
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Research Institution | Osaka Kyoiku University |
Principal Investigator |
高橋 登 大阪教育大学, 教育学部, 教授 (00188038)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
中村 知靖 九州大学, 人間環境学研究院, 教授 (30251614)
脇中 起余子 筑波技術大学, 障害者高等教育研究支援センター, 准教授 (30757547)
井坂 行男 大阪教育大学, 教育学部, 教授 (40314439)
柴山 真琴 大妻女子大学, 家政学部, 教授 (40350566)
武居 渡 金沢大学, 学校教育系, 教授 (70322112)
池上 摩希子 早稲田大学, 国際学術院(日本語教育研究科), 教授 (80409721)
古川 敦子 大阪教育大学, グローバルセンター, 准教授 (80731801)
長谷川 ユリ 大阪教育大学, グローバルセンター, 教授 (90273747)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 文法検査 / ATLAN / 聴覚障がい児 / 読み書き能力 / 音韻意識 |
Outline of Annual Research Achievements |
多言語環境で生活し学ぶ,児童期を中心とした日本語学習者の日本語リテラシーの特徴を明らかにすることが本研究プロジェクトの目的であった。本年度は,次の2つのことを行った。 第1に,われわれが昨年度改訂したATLAN文法・談話検査について,①問題数の確保とWebへの実装,および②Web上での動作確認および信頼性・妥当性の確認を行った。①については,使役・使役受身,二重否定,敬語,補助動詞,比較の5領域からなる問題冊子(問題数:35問)を作成して小学校3~6年生313名に実施,その結果をもとに,項目反応理論に基づいてそれぞれの問題ごとの困難度・識別力のパラメータ推定を行った。この結果と前年度調査の結果に基づき,既存の年中児~小学校3年生版の131問と合わせて合計199問からなるATLAN文法・談話検査の改訂版を作成し,Webに実装した。②については,小学校3-6年生計117名に対し,ATLAN文法・談話検査,語彙検査,漢字検査を実施した。その結果,いずれも学年の上昇とともに得点(能力値)は上昇するものの,文法の伸びはゆるやかであること,学年の要因を除いた文法と語彙の偏相関は.60(p<.01)と高いことなどから,検査として信頼性・妥当性を有するものと判断された。 第2に,リテラシー獲得に躓きを持つことが知られている聴覚障がい児を対象として,調査を実施した。対象は聴覚特別支援学校幼稚部(年中児・年長児)・小学部(1年生)在籍児76名および,同年齢の聴児141名であり,ATLAN音韻意識,語彙,文法,および平仮名の読みの検査を実施した。聴覚障がい児の場合は手話や指文字,キュードスピーチを活用して早期から平仮名の読みを学習しており,それが子ども達の音韻意識を育てていることが伺われた。一方,語彙と文法の躓きは大きく,とりわけ文法の伸び悩みが顕著だった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
複雑な構成を持った文章の理解は,小学校段階の子ども達の読み書き能力の構成要素として極めて重要であり,われわれがこれまで開発してきたATLANでは,文法・談話検査がこれを測定するものであった。しかしながら,同検査は対象年齢が低学年段階までであり,小学校全体を視野に入れた場合,研究には制限があった。そこで本プロジェクトでは,最初に小学校高学年までの児童を対象とする文法・談話検査を開発することを目指してきた。初年度は先行研究を参考にして測定すべき文法事項をリストアップした上で問題を作成,予備調査を行った。さらに,その結果に基づいて問題領域を5つに定め,問題を作成,パラメータ推定のための調査を行った。2年次は使用する問題数を増やすため,別の小学校でも調査を行った上で,これまでの問題と合わせ,問題プールを用意した。その上で,これを実際にWebに実装し,信頼性・妥当性の検証を行った。これにより,小学校高学年までを対象年齢とするATLAN文法・談話検査が完成した。 これまでのわれわれの研究から,聴覚障がい児は,学校教育の役割が大きな漢字に関しては定型発達児とほとんど違いはないものの,語彙と文法,とりわけ文法に大きな遅れが見られる一方で,ふだんは現地校に通い,日本語に関しては家庭と週末の補習校で学習を補っている国際児の場合は,語彙と漢字に遅れが見られるものの,文法に関しては顕著な遅れは見られないなど,言語環境によってリテラシー獲得は異なるプロフィールを描くことが明らかになっている。本プロジェクトの目的は,こうした多様な言語環境のもとで育つ子どもたちの日本語リテラシーの獲得過程を明らかにすることであり,目的の達成のためには検査類の整備は不可欠である。その意味で,時間はかかっているものの,プロジェクトは順調に進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
本プロジェクト最終年度の本年は,以下3つのことを行う予定である。 第1に,海外に在住して現地校に通いつつ,補習校等で日本語の学習を行っている子ども達を対象とする調査を実施することである。ATLANはWebベースの検査であることから,個人情報の流出等,セキュリティの問題に注意すれば,世界中のどこに暮らす子どもについても,保護者の手で簡単に検査を実施することが可能である。そのため,WebページをSSL化するなどセキュリティ対策を講じてきた。また,これまでいくつかの日本語補習校との間では研究交流を行い,協力者確保の準備も進めている。これら準備作業をふまえた上で,本年秋に大規模調査を実施する予定である。 第2は,聴覚障がい児を対象としてATLANを実施することである。すでに,昨年度,幼児-小学校1年生を対象とする調査を実施している。ここから,近畿圏の聴覚特別支援学校との間で研究協力体制の構築も進みつつあり,本年度も円滑な調査実施が可能である。 第3は,日本に暮らす日本語を母語としない児童生徒の日本語能力のアセスメントである。そのために,昨年度から近隣の教育委員会との間で研究協力体制について打ち合わせを進めており,秋以降の調査実施の目処は立っている。
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Research Products
(4 results)