2017 Fiscal Year Annual Research Report
パイロクロア格子系に創出する革新的熱・エネルギー変換材料
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16H03848
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
岡本 佳比古 名古屋大学, 工学研究科, 准教授 (90435636)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | パイロクロア / 熱電変換 / フラストレーション / 熱・エネルギー変換 / 負熱膨張 |
Outline of Annual Research Achievements |
本課題では、パイロクロア格子系の遷移金属化合物に現れる高エントロピー電子相が、従来材料を超える高いエネルギー変換効率をもつ熱電変換・固体冷凍材料を実現する可能性に着目する。H29年度において、(a)βパイロクロア酸化物CsW2O6において特異な二段階構造相転移が起こること、(b)ブリージングパイロクロア格子をもつ硫化物LiGaCr4S8において負熱膨張が現れること、(c) Ta4SiTe4が低温で高い熱電変換性能を示すことを見出した。 (a) βパイロクロア酸化物CsW2O6はスピン・軌道・電荷の複合自由度をもつパイロクロア格子系の遷移金属化合物である。H28年度までに、本物質の単結晶試料の合成に成功し、215 Kの金属絶縁体転移において特異な立方晶から立方晶への構造相転移を示すことを明らかにした。H29年度は、さらに結晶構造解析および各種物性測定を進めることで、90 Kにおいて立方晶から単斜晶への対称性の低下を伴う別の構造相転移が現れることを見出した。 (b) ブリージングパイロクロア格子をもつCrスピネル硫化物LiGaCr4S8の焼結体試料の熱膨張測定を行うことにより、負熱膨張が現れることを見出した。この負熱膨張は反強磁性秩序直上の常磁性領域で現れる。今後、負熱膨張の発現機構の解明が期待される。 (c) Ta4SiTe4の針状結晶が、100-200 Kにおいて2 mΩ cm程度の低い電気抵抗率と、-400 μV K-1を超える大きな負の熱起電力を示すことを明らかにした。元素置換により、出力因子は250 Kにおいて最大170 μW cm-1 K-2に達し、現在室温付近で使用される実用材料の水準を大きく上回る。これまで不可能であった、室温を大きく下回る低温領域における局所冷却や冷熱発電に道を拓く成果と言える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
H29年度まで、βパイロクロア酸化物CsW2O6の熱電変換特性やブリージングパイロクロア硫化物LiACr4S8の熱膨張特性に着目し、合成した単結晶・焼結体試料を用いた各種の物性測定を行ってきた。その結果、CsW2O6が金属的な振る舞いを示す物質としては大きな、室温で約-60 μV K-1の熱起電力を示すことを明らかにした。また、室温の熱伝導率は単結晶試料においても17 mW cm-1 K-1と小さく、Cs+イオンのラットリング振動が顕著なフォノン散乱機構として働いていることが示唆された。LiACr4S8については、LiGaCr4S8において負熱膨張が現れることを見出した。この負熱膨張は、反強磁性秩序直上の常磁性相において現れる。幾何学的フラストレート系の局在磁性体が負熱膨張や磁場誘起体積変化といった熱体積機能の舞台となることを示す成果である。 また、パイロクロア格子系以外にも熱電変換材料の開拓を進め、逆ペロフスカイト酸化物Ca3SnO、一次元テルル化物Ta4SiTe4やNb4SiTe4などのいくつかの系において高い熱電変換性能が現れることを明らかにした。このように、本課題における熱・エネルギー変換材料の開発は順調に進んでいるといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
H30年度において、以下の(a)、(b)の方針に従い新物質開拓、純良試料合成、各種物性測定を行うことにより、パイロクロア格子系の物質が秘める熱・エネルギー変換機能や熱体積機能を引き出す。 (a) n型の熱電変換特性を示すβパイロクロア酸化物CsW2O6の性能向上および、CsW2O6と対にして素子に使用しうるp型材料の探索を行う。これまでの研究により、CsW2O6がn型材料として有望であることが明らかになっている。CsW2O6に対する元素置換や、パイロクロア格子系の遷移金属化合物における幅広い新物質探索により、性能向上およびp型材料の開発を目指す。 (b) ブリージングパイロクロア硫化物LiACr4S8において、磁気秩序の外場制御を目指す。これまでの研究により、LiGaCr4S8において磁気秩序温度の直上で異常な熱膨張(この場合は負熱膨張)が現れることが明らかになっている。外場により磁気秩序を誘起できれば、大きな体積変化や潜熱を伴う可能性がある。前者はアクチュエータ材料として、後者は固体冷凍材料としての可能性を有する。
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