2017 Fiscal Year Annual Research Report
多価イオンにおける超長寿命準安定状態のポピュレーションキネティクス
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16H04028
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Research Institution | The University of Electro-Communications |
Principal Investigator |
中村 信行 電気通信大学, レーザー新世代研究センター, 准教授 (50361837)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 多価イオン / ポピュレーショントラッピング |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度においては、プロメシウム様イオンの時間発展スペクトルの振る舞いを、簡単な時間発展衝突輻射モデルにより説明することに成功した。これは、直接的ではないものの、基底状態から準安定状態へのポピュレーション移行を初めて確認したものである。また、「多価イオン原子時計」の候補となっている4f開殻イオンの系統的理解のために、Ag様、Cd様など比較的単純な構造を持つイオンのスペクトル取得を行い、相対論的多体摂動理論などによる計算と詳細に比較することにより、得られた発光線を同定することに成功した。イオンを長時間トラップするための超伝導コイルの製作については、ダブルパンケーキコイルを製作し、その予備試験を行った。その結果、冷凍機を用いて40K程度まで冷却し、205Aを通電することにより、約1Tの高磁場を発生させることに成功した。 一方、当初の予定にはなかったが、深刻なリークトラブルのため修復を行っていた高エネルギー多価イオン源Tokyo-EBITの修復が完成したため、それを用いたin situ寿命測定実験も昨年度から開始することができた。現状ではミリ秒程度の寿命を持ったイオンを対象としているが、より長寿命の準安定状態を観測することを目的として、Tokyo-EBITによる寿命測定を継続して行う。これらの研究で得られた成果をPhysical Review Aなどの学術雑誌や、原子衝突国際会議(30th International Conference on Photonic, Electronic and Atomic Collisions (ICPEAC XXX)などの国際会議で発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度の研究実施計画では、プロメシウム様多価イオンについて時間発展スペクトルを計測し、基底状態から準安定状態へのポピュレーション移行を観測することが目的であった。昨年度中に間接的ながらこの観測に成功した。現在、この成果を公表すべく、論文執筆中である。また、「多価イオン原子時計」の候補となっている4f開殻イオンの理解のため、Ag様、Cd様など比較的単純な構造を持つ4f開殻イオンのスペクトルの取得、およびその理論解析を行うことも目的として挙げていたが、これにも成功し、既に当該分野で最も権威のあるPhysical Review A誌に論文の形で成果を公表した。一方、多価イオントラップ用超伝導コイルの製作については、目的としていたダブルパンケーキ型コイルの製作を終え、既に励磁試験まで行い、設計通りの磁場が発生できたことを確認した。ダブルパンケーキコイルを多段にするまでには至らなかったものの、これもおおむね順調に進展していると言える。 加えて、当初計画にはなかった高エネルギー多価イオン源Tokyo-EBITを用いたin situ寿命測定実験も開始することができ、最終年度において、複数の装置、方法にて研究を効率的に進展させる体制も整った。 以上より、計画よりやや遅れている面も若干あるが、計画にはなかった成果も得られるなど、全体的にはおおむね順調に進行していると判断することができる。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題は今年度が最終年度となる。最終年度においては、これまで特にプロメシウム様イオンに着目して行ってきた時間発展スペクトルの観測を他のイオン種に拡げるとともに、より詳細な時間発展衝突輻射モデルを構築し、ポピュレーションキネティクスを詳細に研究する。また、「多価イオン原子時計」の候補となっている4f開殻イオンの系統的理解のために、Physical Review誌に掲載したAg様、Cd様など比較的 単純な構造を持つイオンに対する研究を、より複雑な構造を持つイオンに対象を広げる。4f2あるいは4f3構造を持つIn様、Sn様イオンについてスペクトルを取得し、理論計算と比較することにより、それらエネルギー準位を詳細に求める。イオンを長時間トラップするための超伝導コイルの製作については、昨年度までに製作したコイル単体の性能評価を詳細に行った上で、ダブルパンケーキコイルを複数重ねることで最終目的とする3Tコイルを完成させる。加えて、高エネルギー多価イオン源Tokyo-EBITを用いたin situ寿命測定実験を、より長寿命の準安定状態を観測することを目的として継続して行う。これらの研究で得られた成果は、国内では日本物理学会や原子衝突学会の年会などで報告する他、7月に合肥で開催される「第7回プラズマ中の原子分子過程に関する日中韓合同セミナー(AMPP2018)」や9月にリスボンで開催される「19回多価イオン物理国際会議(HCI2018)」などの国際会議で報告する。
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