2016 Fiscal Year Annual Research Report
アジアのオゾン汚染の実態把握と越境汚染の影響評価:衛星観測と化学輸送モデルの比較
Project/Area Number |
16H04051
|
Research Institution | Nara Women's University |
Principal Investigator |
林田 佐智子 奈良女子大学, 自然科学系, 教授 (70180982)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
梶野 瑞王 気象庁気象研究所, 環境・応用気象研究部, 主任研究官 (00447939)
山地 一代 神戸大学, 海事科学研究科, 准教授 (40399580)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | 対流圏オゾン / 衛星観測 / 大気化学輸送モデル / 中国大気汚染 / 越境汚染 |
Outline of Annual Research Achievements |
中国の大気汚染は極めて深刻でありその日本への越境影響は喫緊の重要な研究課題である。過去20年の間に、衛星からの大気微量成分の観測が飛躍的に進んだにも関わらず、オゾンは成層圏に90%が存在するため、大気下層のオゾンを衛星から導出することは極めて困難であるとされてきた。そのような困難を克服し、申請代表者らは、EOS Aura衛星に搭載されたOMI(Ozone Monitoring Instrument)センサーから導出された対流圏下層のオゾンデータを分析し、世界で初めて中国上空における下層大気中のオゾンの時空間変化をマップとして示すことに成功した(Hayashida et al., ACP, 2015)。 平成28年度に申請者らがOMIの対流圏下部オゾンデータをさらに詳細に検討したところ、成層圏オゾンが対流圏に下降する現象に伴って、上部対流圏/下部成層圏(UT/LS)におけるオゾン濃度変動が下部対流圏を「見かけ上」過大評価する場合があることが明らかになった。そこで「UT/LS効果スクリーニング手法」を開発し、過大評価されている可能性のあるデータをすべて取り除くことに成功した。 スクリーニング後の信頼性の高い衛星データだけを抽出して、気象研究所で開発された全球化学輸送モデルMRI-CCM2のシミュレーション結果と比較したところ、シミュレーション結果はOMIのオゾン分布をよく再現していた。また6月に冬小麦の刈り取り後行われる畑の野焼き(Open Crop Residue Burning, 以降OCRBと略記)がオゾン発生に与える影響も定量的に検討したところ、OMIで観測している程度の高度範囲(0~3km)の平均としては、OCRBのオゾンへの影響はほとんど観測されないことが明らかになった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
平成28年度にはOMIから導出する対流圏下部のオゾン濃度の導出に際し、大きな不確定要因となり得る上部対流圏/下部成層圏(UT/LS)におけるオゾン濃度変動の影響を取り除く「UT/LS効果スクリーニング手法」を開発した。この成果はHayashida et al.としてSpringerの特集号に受理され、平成29年5月現在印刷中である。さらに、2005年から2013年までのすべての観測データについて、「UT/LS効果スクリーニング手法」を適用し、UT/LSのオゾン変動の影響によって下部対流圏オゾン量を過大評価した恐れがあるデータをすべて除去した。この作業は相当のデータ保存容量(HDDを追加購入した)と実行時間を要したが、平成28年度内に作業がすべて終了した。スクリーニング後の信頼性の高い衛星データだけを抽出して、時系列解析・クラスター解析などを進め、中国全土についてオゾンの季節変動を解析を行ったところ、オゾン前駆物質の放出量が多い華北平原周辺で夏に特異的にオゾンが増加する顕著な季節変動があることを明確に示すことができた。また四川盆地でも同様の変動が観測された。これらの成果について、平成29年5月現在、論文を執筆中であり、また平成29年度の国際会議で発表する予定である。このように、研究は研究計画以上に順調に進展している。
|
Strategy for Future Research Activity |
中国全土についてオゾンの季節変動を時系列解析・クラスター解析などを行った結果、オゾン前駆物質の放出量が多い華北平原周辺で夏に特異的にオゾンが増加する顕著な季節変動があることを明確に示すことができた。また四川盆地でも同様の変動が観測された。この結果を気象研で開発されたアジア版領域モデルNHM-Chemを用いてシミュレーションを行って比較したところ、オゾンの時空間変動の特徴の再現に成功した。この成果について、平成29年5月現在、英文学術雑誌に論文を執筆中である。さらに気象研では、OMIのデータとのさらに詳細な比較のため、アベレージングカーネルをシミュレーション結果に作用させる作業を進行中であり、研究はさらに進展する見通しである。
|
Research Products
(5 results)
-
-
[Journal Article] Study of lower tropospheric ozone over central and eastern China: Comparison of satellite observation with model simulation2017
Author(s)
S. Hayashida, S. Kayaba, M. Deushi, K. Yamaji, A. Ono, M. Kajino, T. T. Sekiyama, T. Maki, and X. Liu
-
Journal Title
"Land‐Atmospheric Interactions in Asia", Book Series: Springer Remote Sensing/Photogrammetry, Editors: K. P. Vadrevu, T. Ohara, C. Justice
Volume: 1
Pages: 999-999
Peer Reviewed / Int'l Joint Research / Acknowledgement Compliant
-
-
-