2017 Fiscal Year Annual Research Report
水界面の分子構造とダイナミクスの解明および生体膜界面研究への展開
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16H04095
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Research Institution | University of Toyama |
Principal Investigator |
石山 達也 富山大学, 大学院理工学研究部(工学), 准教授 (10421364)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 分子動力学シミュレーション / 和周波発生スペクトル / 水溶液 / リン脂質 / 界面分子構造 |
Outline of Annual Research Achievements |
細胞膜などの生体膜の主成分の一つである双性イオン型リン脂質(dipalmytoylphosphatidylcholine, DPPC)膜と水界面の分子構造を、分子動力学(Molecular Dynamics, MD)シミュレーションにより解明する。今年度は、上記脂質膜にイオンが混在した水溶液と接した場合の界面構造の変化に注目した研究を遂行した。これは、生体内におけるイオンの役割に関する知見を与えるものであり、生体内にも存在するイオン種に対する検討を行った。特に、カチオン種は、膜融合、膜-DNA融合、細胞死などに影響を与えると言われており、今回は、Na^+,K^+, Ca^2+の3種類のカチオンの界面構造に対する効果を議論した。 一方、NaCl, KCl, CaCl2水溶液とDPPC膜界面におけるOH振動領域の界面振動和周波スペクトル測定がOhio大学のAllenらのグループにより報告されており、今回それらのスペクトル計算を同時に行い、実験によるスペクトルとコンシステントになるかの検証も行った。 MD計算の主な結果を以下に述べる。(1)今回の計算で、実験による和周波スペクトルをかなり良く再現することが分かった。具体的には、DPPC/水界面では、和周波虚部スペクトルが正となることが実験、理論的に知られているが、水にイオンが混在することにより、それらのスペクトルの振幅がK^+, Na^+, Cl^2+の順に徐々に減少することが実験で報告されており、それを理論計算で非常によく再現した。(2)カチオンは、リン脂質膜のリン酸基に強く吸着するが、この吸着量がイオン種により異なることが分かった。この主な原因は、イオン半径、電荷の違いによるイオンの電荷密度で説明できることが分かった。(3)虚部スペクトルの減少が、イオンのスクリーニング効果で説目できることが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的である生体膜/水界面の分子構造の解明に対して、2年目で水溶液界面の問題まで到達し、論文発表できたことは順調な進展といえる。特に、カチオン効果が生体膜の問題では重要であることが明らかになりつつあり、イオンサイズや電価により決まる電荷密度が膜に対するイオン吸着に対して重要な因子となることが分かってきたことは想定外の成果であるといえる。これまでの特筆すべき成果としては、界面での水の3500cm-1近傍の振動応答に関する論文[Inoue, Ishiyama et al., JPCL(2016)]、界面での水の変角振動応答の論文[Kundu et al., JPCL(2016)]、氷表面構造の論文[Sanchez et al., PNAS(2017)]、脂質膜/水界面の論文[Ishiyama et al., JCP(2018)]など多数の論文が出版された点は、研究が順調に進展していると言える根拠といえる。
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Strategy for Future Research Activity |
界面構造、界面振動スペクトルのコレステロールの効果が明らかになりつつあり、今後は混合膜界面の研究への発展が期待できる。コレステロール分子は、親水基としてOH基を有しており、この振動が水のOH振動と重なるため、実験ではスペクトルの区別がつかないが、計算ではこの区別がつくため、スペクトル分解が可能である。これを理研の田原グループとの共同研究として推進する予定である。
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