2018 Fiscal Year Annual Research Report
水界面の分子構造とダイナミクスの解明および生体膜界面研究への展開
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16H04095
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Research Institution | University of Toyama |
Principal Investigator |
石山 達也 富山大学, 大学院理工学研究部(工学), 准教授 (10421364)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 分子動力学シミュレーション / 和周波発生分光法 / 界面 / リン脂質膜 / 水 / 2価カチオン |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は主にPhosphatidylethanolamine(PE)膜について,その単分子膜と水溶液界面での分子構造と和周波分光計算の検討を行った。特に2価カチオンであるCa2+とMg2+の効果について報告する。コリン基をもつDipalmitoylphosphatidylcholine(PC)膜と比べて,アミノ基をもつPE膜は頭部基が比較的小さいので,膜がパッキングしやすいことが知られている。そのため,PE膜頭部基に水が入り込みにくくなり,PC膜界面に比べてPE膜界面で水の配向構造が弱くなり,和周波虚部スペクトルも減少することが計算から明らかになった。次にCa2+の膜への吸着構造を調べるために,1.2M程度の濃度のCaCl2水溶液をPCとPE膜に接触させ,そのイオン分布を計算したところ,以下の知見を得た。DPPC膜は比較的パッキングが弱いため,マイナス電荷を帯びたリン酸基にCa2+が入り込むような構造がみられたが,一方DPPE膜はパッキングが強いためCa2+がリン酸基に入り込む構造は見られなかった。次にMg2+の界面吸着構造を調べたところ,興味深いことにDPPC,DPPE膜共に吸着構造は見られなかった。これは,Mg2+に対する溶媒和自由エネルギーがCa2+と比べて3倍ほど大きく,溶媒和殻がかなり安定であるため,それを壊して膜のリン酸基に吸着することが難しいことに起因すると考えられる。実際に動径分布関数を計算したところ,Ca2+に比べてMg2+のfirst peakがかなり大きくなることが明らかになった。これは,Mg2+のイオン半径がCa2+よりもかなり小さいことによると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
もともとは,Dipalmitoylphosphatidylcholine(PC)膜の水,あるいは水溶液界面構造の研究に多少時間がかかることを想定していたが,その研究は昨年度に完了し,今年度はPhosphatidylethanolamine(PE)膜の界面イオン分布まで研究を展開できたのは,順調に研究が進展させることができた証拠であると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の展開としては,Cholesterol単分子膜,あるいはSphingomyelin単分子膜の水構造と和周波スペクトルの理論計算を行い,界面特有の分子構造を議論する予定である。特に,Sphingomyelinはリン脂質のなかで,PCとPEに次ぐ主要成分のひとつであり,分子内に水酸基やアミノ基を有しているので,それらの界面構造への影響について焦点をあてて研究していく予定である。
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