2016 Fiscal Year Annual Research Report
フローサイトメトリーの高感度化のための分子技術と高精度細胞診断の実現
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16H04167
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
森 健 九州大学, 工学研究院, 准教授 (70335785)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | フローサイトメトリー / 蛍光 / 酵素 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、細胞表面の抗原の高感度な検出を目指して、新しい酵素増感法の開発を目指している。本法はCARP法と名付けており、加水分解酵素を用いるところに特徴がある。加水分解反応により、蛍光性基質から親水性の部位が脱離することにより、疎水性となり、細胞質を染色するものである。これまでアルカリフォスファターゼで原理を実証した。本系をβガラクトシダーゼに拡張することを目的とした。βガラクトシダーゼは、細胞表面に酵素活性がほとんどない点が有利である。 βガラクトシダーゼに対する蛍光性基質として、ペプチド型と低分子型の二つのシリーズを合成した。ペプチド型については、高いS/Nを持つ分子の開発に成功した。一方、低分子型については、親水性が不足するため、酵素反応していない基質がある程度細胞を染色してしまい、バックグラウンドが高くなることが分かった。 複数の抗原を同時に検出するため、蛍光基を変えて多色化する必要がある。この目的に対して、低分子型基質に対して、rhodamine 110を用いたが、親水性が高く、細胞染色が起こりにくいことが明らかとなった。 研究を進めるうちにCARP法の問題点が明らかとなってきた。糖が脱離せずとも染色することと、一旦細胞内に取り込まれた蛍光性基質が脱離して色移りすることである。これらの問題を解決する分子設計についても検討した。すなわち、細胞内の刺激に応答してturn-onするもの、および細胞内タンパク質と反応して脱離を抑制するものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
テトラメチルローダミン(TAMRA)ベースでβガラクトシダーゼの基質として、ペプチド型と低分子型の2つのシリーズ合成した。ペプチド型については、βガラクトシル基の導入数と導入位置の異なる3種を合成した。その中で、もっとも性能の良かったのは、2個のβガラクトシル基をアルキル基の中央に導入したものであり、脱βガラクトシル基前後での細胞染色能に大きな差があり、すなわちこれがS/N比であり、100倍程度となった。一方、低分子型については、βガラクトシルを2個連結して親水性を高める設計としたが、それでも細胞内への取り込みが高く、S/Nが10倍程度であった。より糖の親水性を高めた分子設計が必要であることが示唆される結果であった。 また、CARP法の問題点が明らかとなった。すなわち、糖が脱離せずとも染色すること、一旦細胞質に取り込まれた蛍光基質が脱離して他の細胞を染色すること(色移り)である。これらの問題を解決しうる分子設計についても検討した。前者の問題に対しては、細胞内の刺激に応答してはじめて蛍光性となるturn-on型の設計、後者の問題に対しては、細胞内のタンパク質と反応する分子設計を検討した。Turn-on型として、デヒドロフルオレセインをベースにして、糖および膜透過のための4級アンモニウムを修飾した分子を合成した。しかし、4級アンモニウムをアミド結合で修飾したところ、蛍光性が大きく低下する予想外の結果が得られた。一方、細胞内反応性の分子に関しては、ペプチド型の蛍光性基質に対して、Cys反応性のブロモメチルケトンを修飾したところ、細胞内取り込みが低下するという意外な結果が得られた。
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Strategy for Future Research Activity |
・細胞内エステラーゼに応答してturn-onする分子の開発:脱離を抑制するメカニズムとして、実績のあるエステラーゼによる加水分解で親水化するアプローチを採用する。 ・蛍光性基質の多色化:ペプチド性基質であれば分子全体に対する蛍光基の親疎水の寄与を小さくすることができるため、rhodamine 110をはじめとする種々の蛍光基が使える可能性がある。 ・より親水性の糖の利用:β―ガラクトシル基は2糖を連結しても、細胞内取り込みが起こることが分かった。したがって、さらに親水性の高いマイナスの電荷を持つ糖であるガラクツロン酸およびグルクロン酸の利用を検討する。これらの糖は哺乳類細胞表面の糖鎖には見られず、細胞表面には効率のよい加水分解酵素は存在しないと考えられる。本当に細胞表面に酵素活性がないのか、またこれらの糖に対する市販の酵素が十分高い酵素活性を持つかどうかを評価する。酵素として利用できることが分かったら、ペプチド型の基質を合成する。βガラクトシル基の場合により高いS/Nが実現できるかどうかを評価する。 ・CARD法の非特異吸着の抑制:従来法であるHRPを増感酵素とするCARD法は、蛍光基の種類によっては、蛍光基質の非特異的な吸着が強く起こり、S/Nが低下することが問題であった。これは蛍光基質の疎水性が高いことが原因である。したがって、蛍光分子の親水性を向上しつつ、HRPの基質となりうるような分子の設計が必要となる。そこでこれを達成できる分子設計に取り組む。
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