2018 Fiscal Year Annual Research Report
フローサイトメトリーの高感度化のための分子技術と高精度細胞診断の実現
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16H04167
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
森 健 九州大学, 工学研究院, 准教授 (70335785)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | フローサイトメトリー / 蛍光 / 酵素 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、細胞表面の抗原の高感度な検出を目指して、新しい酵素増感法の開発を目指している。本法はCARP法と名付けており、加水分解酵素を用いるところに特徴がある。加水分解反応により、蛍光性基質から親水性の部位が脱離することにより、疎水性となり、細胞質を染色するものである。これまでアルカリフォスファターゼ、βガラクトシダーゼで原理を実証してきた。昨年度までに、次のようなCARP法の問題点が明らかとなってきた。親水基が脱離せずとも染色することと、一旦細胞内に取り込まれた蛍光性基質が脱離して色移りすることである。これらの問題を解決する分子設計についても検討した。すなわち、細胞内の刺激に応答してturn-onするもの、および細胞内タンパク質と反応して脱離を抑制するものである。 Turn-on型の基質は、エステラーゼとの反応により、turn-onするとともに、マイナス電荷を帯びることで、細胞からの脱離を抑制するという設計である。期待したメカニズムが働くことを、各ステップ丁寧に確認した。しかしながら、細胞表面に修飾したβガラクトシダーゼと、基質は反応しないというが観察されている。今後、その原因を調べて、問題解決する予定である。 細胞内タンパク質と共有結合するものに関しては、クロロアセトアミドを用いた。ある程度、細胞からの脱離を抑制できることが分かった。しかし、反応性が低いため、脱離を十分に抑制することはできなかったため、より反応性の高い分子の探索が必要と考えられた。 また非特異的な染色を抑制するために、親水性の高い酵素の探索を行い、十分な反応性と哺乳類に対する直交性を持つ酵素を見出すことができた。Cell ELISAに適用し、バックグランドを低く抑えつつ、抗原の検出が可能であった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
・細胞内エステラーゼに応答してturn-onする分子の開発:脱離を抑制するメカニズムとして、実績のあるエステラーゼによる加水分解で親水化するアプローチを採用した。細胞外でβガラクトシダーゼにより加水分解されたのち、細胞に取り込まれ、エステラーゼにより脱アセチル化することで、turn-onするとともに、マイナスの電荷を帯びることで、膜透過が抑制されるという設計である。マイナスの電荷を帯びた場合も、膜透過性はなくなるものの、有機アニオントランスポーターにより細胞外に排出されることが分かった。そこで、その阻害剤を加えることにより、脱離を抑制できた。しかしながら、細胞表面に修飾したβガラクトシダーゼとは反応せず、CARP法に適用できなかった。この基質は、フリーのβガラクトシダーゼとは反応するため、なぜ細胞系では反応しないのかその原因は不明であり、継続してその原因を調査する予定である。 ・細胞内共有結合性基質の開発:従来のペプチド基質にクロロアセトアミド基を導入し、細胞内でチオール基と反応することで脱離を抑制するものを合成した。脱離をある程度抑制することができた。ただし、反応速度が遅いため、十分な脱離の抑制とは言えない。したがって、チオールとの反応性をより高める必要があると考えられた。 ・より親水性の糖の利用:負電荷を有する糖を基質とする酵素Aを選出した。動力学解析の結果、従来のアルカリフォスファターゼとそん色のない高い活性を有することが分かった。ニトロフェノール化した基質を合成し、この酵素-基質ペアをCell ELISAに適用したところ、細胞表面に内在性の活性がないため、低バックグラウンドで、抗原を検出できることを示した。
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Strategy for Future Research Activity |
・細胞内エステラーゼに応答してturn-onする分子の開発:脱離を抑制するメカニズムとして、実績のあるエステラーゼによる加水分解で親水化するアプローチを採用する。 ・酵素AをCARP法に適用する:酵素Aに対する基質(従来のペプチド基質など)を設計し、本酵素の優位性(内在性の活性がないこと、非特異的な取り込みが起こりにくいこと)を示す。 ・親水性の糖の利用:さらに酵素を拡張する。ガラクツロン酸およびグルクロン酸などの負電荷を有する糖の加水分解酵素を中心にして、データベースを活用して、適切な反応条件を持つ酵素を選出し、反応動力学解析を行い、目的にかなう活性であるかを評価する。十分な活性があれば、cell ELISAに適用する。 ・改良CARP法による基質脱離の抑制:新しい基質として、加水分解反応ののち、細胞の求電子反応するようなものを設計する。これが可能になれば、CARD法と同様に、共有結合による結合であるため、脱離の心配がない。 ・複数酵素の並列利用による多色検出:従来の酵素に対する基質と、酵素Aの基質を順番に、もしくは同時に使うことで、複数の抗原を増感検出することを試みる。これは従来のCARD法(HRPのみを利用)では不可能であったことであり、CARP法の優位性を示すことができると考えられる。
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