2016 Fiscal Year Annual Research Report
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16H04655
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
上川内 あづさ 名古屋大学, 理学研究科, 教授 (00525264)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 神経科学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、キイロショウジョウバエをモデル生物として用いることで、「種に固有の音を認識してその意味を理解する」といった高度な聴覚情報処理が、どのような特性を持つ神経細胞のどのような組み合わせで達成されるのか、その神経回路機構を理解することを目的とする。当該年度では、これまでに私たちが単一細胞レベルで同定した二次聴覚神経細胞の機能解明を目的として、分子遺伝学的手法を用いた各神経細胞の機能操作、並びに操作個体の聴覚行動解析を実施した。まず、単独個体で解析可能な新規行動解析法「SMART」を用いて解析を試みたところ、実験個体の遺伝的背景によって行動にばらつきが大きいことが判明した。そこで集団個体で解析を行う従来の「ChaIN」法を用いて解析を進めた。聴覚行動を惹起する音刺激としては、ショウジョウバエの求愛歌を構成するパルスソング、という音を模した人工求愛歌を用いた。まずはすでに人工求愛歌の時間要素を識別するシステムを構成する重要な要素であることが報告されているAMMC-B1と呼ばれる二次聴覚神経細胞を阻害したところ、予想通りに聴覚行動が低下した。そこで次にAMMC-B1への投射を持つことが解剖学的に推測される2種類の局所介在神経細胞をそれぞれ機能阻害して聴覚行動を解析した。その結果、AMMC-LNと呼ばれる局所介在神経細胞の阻害時には聴覚行動は増加する傾向が見られた。一方でAMMC-B2と呼ばれる局所介在神経細胞の阻害時には明確な変化は見られなかった。また、別の二次聴覚神経細胞であるGFN, AMMC-A1 と呼ばれる2種類の細胞群の機能阻害でも、聴覚行動はほとんど変化しなかった。以上の結果により、AMMC-B1、AMMC-LNの2種類のニューロンが、人工求愛歌の時間要素を識別するシステムをそれぞれ正、負の方向に制御している可能性が示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初予定していた方法「SMART」での聴覚行動解析は実施できなかったが、代わりの行動解析法「ChaIN」を用いることで、当該年度の実施目標は達成できた。目的細胞を特異的に標識する分子遺伝学的系統が入手できた5種類の二次聴覚神経細胞について、それらの機能解析を終え、人工求愛歌の時間要素を識別するシステムを構成する重要要素の絞り込みをすることができた。また同定した重要要素がシステムをどのように制御するのか、その特性も解明できた。AMMC-LNについては、システムを負に制御する、という特性はこれまでに報告されていない。適切な情報処理を行う上で、システムを正に制御するだけでなく、負に制御する機構も必要と予想される。よって今回の成果により、キイロショウジョウバエだけでなく動物一般に共通する聴覚情報処理の神経回路機構の基本原理を理解する上での重要な知見が得られたと考えている。以上の理由により、本研究計画はこれまでは概ね順調に進展していると評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
今回解析した二次聴覚神経細胞以外については、目的細胞を特異的に標識する分子遺伝学的系統はこれまでのスクリーニングでは同定できていない。これについては今後もさらなるスクリーニングを行うことで、機能操作に利用可能な系統の収集を続ける。また、これまでにその機能的な重要性が示唆されている局所介在神経細胞AMMC-LNについてのさらなる解析を進める。具体的には、この神経細胞からの神経伝達を阻害した際に、求愛歌情報処理に重要であることが示されているAMMC-B1神経細胞の応答特性が変化するか、また変化するのであればどのように変わるのかを定量的に解析する。これにより、AMMC-LNがAMMC-B1の情報処理機能を調節している可能性を探る。また、AMMC-B1が形成する神経回路をより包括的に理解する目的で、脳の連続電子顕微鏡画像を用いたコネクトーム解析を進める。どの種類の一次聴覚神経細胞から情報を受け取るのか、そのシナプス接続の密度を定量解析することで、情報処理の量的な特性を理解する。
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