2016 Fiscal Year Annual Research Report
Development of diagnostic tools for growth and stress for salmon aquaculture
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16H04966
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
清水 宗敬 北海道大学, 水産科学研究院, 准教授 (90431337)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
森山 俊介 北里大学, 海洋生命科学部, 教授 (50222352)
棟方 有宗 宮城教育大学, 教育学部, 准教授 (10361213)
内田 勝久 宮崎大学, 農学部, 教授 (50360508)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 成長 / ホルモン / サケ科魚類 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、サケ科魚類においてインスリン様成長因子(IGF)とその結合蛋白(IGFBP)による成長の調節メカニズムを理解するとともに、それらをツールとして用いて増養殖業に応用することを目的としている。本年度は以下の成果を得た。 ツール作り:サケ科魚類血中の主要IGFBPのうち、IGFBP-1aと-1bについて大腸菌発現系を用いた組換え蛋白の大量作製を行った。まずIGFBP-1をチオレドキシン(Trx)との融合蛋白として発現させ、可溶化後、ニッケルカラムにて精製した。透析により蛋白質を折りたたみ、酵素を用いてTrxを切断した。そして逆相HPLCにて精製した。本研究により、魚類で初めて融合パートナーを持たない組換えIGFBPが作製された。 メカニズム解析:組換えIGFBP-1aと-1bをサクラマス脳下垂体初代細胞培養系にIGF-Iと共に添加し、成長ホルモン(GH)放出量に対する影響を調べた。結果、IGFBP-1aはIGF-IのGH放出に対する作用を阻害した。一方、IGFBP-1bはIGF-I非存在下でgh mRNA量に影響を与えた。このように、IGFBP-1aと-1bはIGF-I存在もしくは非存在下で脳下垂体におけるGHの合成・放出に影響を与え得ることが示された。 指標確立:作製したIGFBP-1aを家兎に免役して抗血清を作製した。本サブタイプに対する特異抗血清の作製は魚類で初めてであり、今後、本抗血清と精製組換え蛋白を用いて免疫測定系を確立する。一方、IGFBP-1bについては免疫測定系の確立がすでに行われているが、組換えIGFBP-1bを精製品の代わりに用いることで維持が可能となった。 養殖への応用:宮崎県で海面養殖されているヤマメの血中IGF-I量を測定した。結果、海水に移行した群の血中IGF-I量は淡水で飼育した群よりも高値を示し、海水中で成長が促進されたと考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の大きな目標の一つとして、融合パートナーを持たない組換えIGFBP-1aを作製し、それに対する抗血清を得ることを掲げていた。そこで、融合蛋白を酵素的に切断した組換え蛋白を家兎に免役して抗血清を作製したところ、その特異性が確認され、免疫測定系の確立に向けて大きく前進した。現在、IGFBP-1aの測定系を確立中である。また、IGFBP-1bに関しては、測定系の条件を最適化するとともに、米国の研究者との共同研究で海洋を回遊中のギンザケの血中量を測定した。その結果、本測定系をツールとして用いることで、回遊中の魚の成長の停滞度合いが評価出来る可能性を示した。 成長調節のメカニズムの解析に関しては、脳下垂体におけるIGF-IのGH放出調節作用が組換えIGFBP-1aと-1bによってどのように修飾されるのかを解析することが出来た。成果は国際学会で発表され、現在、論文を投稿中である。 本年度は、宮崎県において実際に海面養殖されているヤマメから試料を得て、その成長を評価できた。また、海水適応能を持つと考えられるスモルト様個体と持たないと考えられるパー個体を選別し、それらを人工海水に移行して海水適応能を評価した。その結果、スモルト様個体であっても海水適応能が十分でない可能性が考えられた。このことは、淡水中での飼育方法に改善が必要であることを示唆しており、次年度の研究の展開につながる重要な知見が得られたと言える。 これらのことから、「おおむね順調に進行している」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の研究を実施するにあたり、いくつかの問題点も浮上してきた。まず、組換え蛋白の作製については、融合パートナーであるチオレドキシンを酵素的に切断する際に、IGFBP-1も非特異的に分解されることが明らかになった。そのため、チオレドキシンを付加しない発現ベクターを試したが、今度は蛋白質の折りたたみ時に可溶化しにくいという問題が生じた。そこで、融合組換え蛋白の酵素処理条件を詳細に検討し、十分な収量を得ることに成功した。この条件は他のIGFBPやIGFにも有効であると考えられ、今後は融合組換え蛋白として発現させることとした。一方、融合組換え蛋白は、家兎に免役して抗体を作製すると特異性に問題が生じる恐れがあることや、添加実験においてIGFBP-1の機能に影響を及ぼす可能性が考えられた。これらのことから、収率は落ちるものの、酵素処理による融合パートナー切断を必須ステップとすることとした。海面養殖現場への成果の応用については、試みが事業レベルで先行している宮崎県の現場を中心に行っていく。加えて、宮城県や青森県の現場での応用も取り入れていくことを考えている。また、成長と海水適応との関係をさらに詳細に調べるため、海水移行前のヤマメに成長ホルモンを投与した実験を行い、その影響を調べていく予定である。
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Research Products
(6 results)