2016 Fiscal Year Annual Research Report
米国による対日文化政策に関するハワイ大学占領期資料の調査研究
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16H05614
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Research Institution | Kyoto Seika University |
Principal Investigator |
小泉 真理子 京都精華大学, マンガ学部, 准教授 (60468527)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
上條 由紀子 金沢工業大学, イノベーションマネジメント研究科, 准教授 (70361681)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 文化政策 / 歌舞伎 / 連合国軍最高司令官総司令部 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、戦後直後に米国に流出した文化資料を、デジタル化して日本に持ち帰り閲覧可能とすること、そして同資料の背景を調査して明らかにすることである。平成28年度は3年間の初年度として、下記を実施した。 【ハワイ大学マノア校図書館との覚書締結】研究対象資料を所蔵している、ハワイ大学マノア校図書館に、デジタル化作業を委託するための覚書を締結した。本覚書は科研費の性質上、単年度契約であるが、次年度の迅速な研究推進のため、両者の補遺の締結により、次年度以降も容易に更新できる工夫をした。 【文化資料のデジタル化及びテキスト化】覚書の締結により、Stanley Kaizawa Collection(GHQが検閲した歌舞伎脚本の英語版原本)の全3,360ページのうち681ページを、ハワイ大学マノア校において、学生アルバイトを雇う形で、デジタル化及びテキスト化した。これにより、平成29年度以降の本格的なデジタル化作業に向けての試行を終了した。 【デジタル化した資料の公開条件の決定】ハワイ大学マノア校と調整の上、資料の教育・研究目的での利用条件や、同図書館リポジトリでの公開方法について決定した。 【米国所蔵の文化資料と日本所蔵の関連資料の照合】Stanley Kaizawa Collectionの日本語版原本の一部が、日本にも所蔵されていることはわかっていたが、日本語版と英語版でどの程度演目が一致しているかは不明だった。そのため本研究で英語版と照合した。本研究の進捗により、日本においてもテキスト検索可能な状態で英語版が閲覧可能となるため、今後の比較研究の促進が期待される。 【新規資料の内容確認と目録の作成】ハワイ大学マノア校の資料は大量であり、まだ目録さえ存在しない資料もある。このため現地訪問により内容を確認し、本研究において現在目録を作成中である。本資料からも、平成29年度の対象資料を選定した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度に計画していた主な実施事項は、ハワイ大学マノア校との覚書の締結と、文化資料のデジタル化の試行であり、前項「9. 研究実績の概要」の通り、滞りなく終了した。 覚書の締結時に、特に調整を要し、解決した点は、ハワイ大学マノア校の管理費を、研究の意義を訴求することで免除を依頼する交渉や、支払時の為替差損の扱いであった。 資料のデジタル化においては、保存状態が悪く、均一でない資料は、作業中に新たに対処すべき事項が発生することが予想されたため、平成28年度は試行という位置付けで余裕を持たせたスケジュールで研究を計画していた。本研究前に当該資料をデジタル化したデータも存在したが、質が低いことからテキスト化のためのOCRの読み込みができなかった。そのため、高精度で再度スキャンを実施し大幅に問題を解決した。しかし、本対処によってもOCRによる読み込み作業では、行のずれ等が生じたことから手作業での修正も行った。多くの臨機応変な対応を要したデジタル化作業の試行であったが、最初からスケジュールに組み込んでいたため、作業は遅延なく終了した。 また、平成29年度以降に、本研究では資料の背景を明らかにするため、ハワイ在住日系のGHQ関係者らへのヒアリング調査を予定している。平成28年度はその準備のために、当時の状況に詳しい見識者らと関係の深い、日系新聞社ハワイ報知社を訪れ、ヒアリング先を検討し、研究への協力を依頼することで体制を整えた。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度以降も、当初の研究計画に沿って進める。本格的に文化資料のデジタル化作業を実施するとともに、資料の背景を探る調査を開始し、多面的に研究を進めていく。 ハワイ大学マノア校所蔵の対象候補の文化資料は膨大である。平成28年度の訪問調査により、当該資料の大枠は確認できたので、平成29年度以降は、占領期の日本における文化活動の実態や、占領期の米国と日本の文化交流を示す資料で、かつ日本で閲覧が難しいものを優先的に対象としていく。限られた予算の中できるだけ多くの資料を対象とできるように、効率的に作業する。 保存状態が悪く、スキャン作業に細心の注意が必要な資料も多い。作業に遅れが生じないように、作業を委託しているハワイ大学マノア校図書館との連絡調整の緊密化をはかる。文章資料のスキャンニングとテキスト化の手法は、平成28年度の試行によりほぼ確立したが、平成29年度は新たに写真もデジタル化する。写真のデジタル化は、画像精度や大きさ、そしてメタデータの作成等、実施事項も異なってくる。 同図書館は、米国を中心とした世界向けの資料デジタル化のノウハウを持ち経験が豊富なものの、日本に絞った経験は多くはない。日本は公開にあたって権利等の制約条件が多いので、研究協力者である日本のデジタル資料専門家、権利処理の専門家の助言も得つつ、日本における資料の閲覧環境の整備を進めていく。 その他、現在、研究計画の変更および、研究を遂行する上での問題点はない。
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