2017 Fiscal Year Annual Research Report
Establishment of the new conservation / restoration methodology and management system on the wall paintings of archaeological areas of Pompeii and Herculaneum
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16H05640
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Research Institution | Independent Administrative Institution National Institutes for Cultural Heritage Tokyo National Research Institute for Cultural Properties |
Principal Investigator |
前川 佳文 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所, 文化遺産国際協力センター, 客員研究員 (80650837)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
朽津 信明 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所, 保存科学研究センター, 室長 (50234456)
増渕 麻里耶 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所, 文化遺産国際協力センター, アソシエイトフェロー (50569209)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 壁画保存修復 / 保存修復 / 保存科学 / 壁画 / wall painting / Pompei / フレスコ画 / 文化遺産 |
Outline of Annual Research Achievements |
前年度に実施した、ポンペイ遺跡およびエルコラーノ遺跡における現状調査の結果、エリア内に残存する壁画に共通してみられる損傷傾向を掴むことができた。これを受けて、より詳細な研究へと移行するに相応しい壁画作品を特定し、非破壊での調査を実施した。 今年度の調査研究対象として選定した壁画は、ポンペイ遺跡内の北側外壁に隣接するアポロの家の内壁に描かれており、メルクーリ通りとフッローニカ通りの間に位置する。この壁画は、1830年に発掘されて以降、複数回に渡り修復が行われている。この過去の修復について詳細を明らかにするため文献調査を実施した結果、この地域の考古遺跡内で発掘された壁画は、補強と湿度対策を目的に蜜蝋を塗布する方法が広く取り入れられており、しばしばエンカウスト技法の導入があったと誤って判断される要因になっていることが明らかとなった。 また、アポロの家に描かれた壁画を対象に、デジタルカメラを用いた超高解像度撮影を実施し、壁画の保存状況を順光および斜光で記録した。その結果、この壁画の表面にも過去の修復時に塗布されたと考えられる蜜蝋の存在が確認でき、その損傷状況から漆喰層の通気孔が塞がれたことが原因となり、彩色層の剥離および剝落が発生していることが明らかとなった。また、近年漆喰の多層塗りを特徴のひとつとしてもつポンペイ遺跡およびエルコラーノ遺跡の壁画において、深刻な問題として注目される複数層間での剥離も同様に、通気性が損なわれたことで発生する残留湿気が原因のひとつになっていることが予測された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究の目的である壁画の損傷原因の究明については、現地研究協力者と円滑な連携がとれていることもあり、当初の予定よりもおおむね順調に成果が得られているといえよう。遺跡内における壁画を対象とする調査研究には現地考古学監督局の許可が必要となるが、2017年から2018年にかけて大幅な人事異動が実施されると、本研究の担当者も変更を余儀なくされた。その結果、同局の対応に遅れが生じるなど、現場実地研究課程において制約を受けざるを得なかった結果、予定していた保存修復作業の実施を通じた研究および新保存修復技法開発フェーズには至らなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに得られた研究成果をもとに、実際の壁画作品を使いながら、新保存修復技法開発に向けた研究を行う。その課程で、同地域において活動する保存修復士および研究者との連携を強め、情報の共有を積極的に行うなど、研究業績上の交流の機会を確保していきたい。 また、考古遺跡における文化遺産の損傷抑制に適した覆屋構想についても国内外での調査を進め、効率的な保存管理体制の確立に向けた研究を進めていきたい。
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