2016 Fiscal Year Annual Research Report
中国ヒマラヤ地域における昆虫類の系統分類と有用生物資源種の探索
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16H05766
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
広渡 俊哉 九州大学, 農学研究院, 教授 (20208896)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
神保 宇嗣 独立行政法人国立科学博物館, 動物研究部, 研究主幹 (10568281)
山田 量崇 徳島県立博物館, その他部局等, 主任 (20463474)
大島 一正 京都府立大学, 生命環境科学研究科, 助教 (50466455)
紙谷 聡志 九州大学, 農学研究院, 准教授 (80274520)
松本 吏樹郎 大阪市立自然史博物館, 学芸課, 学芸員 (90321918)
三田 敏治 九州大学, 農学研究院, 助教 (90581851)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 分類学 / 昆虫 / 系統 / 進化 / 中国ヒマラヤ地域 |
Outline of Annual Research Achievements |
2016年7月14日から7月26日に雲南省の標高1,700~3,500m、8月22日から9月3日に四川省の標高1,000~1,600mの植生が異なる環境において調査を行った。本研究により、これまで調査が不十分だった中国ヒマラヤ地域の里山的環境において、未知の昆虫類や有用生物資源となりうる害虫の天敵などを収集できた。 まず、チョウ目では、原始的グループのヒゲナガガ科で多くの未記載種を確認するとともに、マガリガ科Vespina属(全北区の冷温帯から3種のみが知られる)の未記載種が四川省で発見された。菌食・腐植食性グループではヒロズコガ科、ネマルハキバガ科など、潜葉・造巣性グループではホソガ科、ハモグリガ科などで未記載種と考えられる種が確認された。全体的な傾向として寄主植物や成虫の斑紋が酷似している場合でも、日本とは遺伝的に明瞭に異なる種が生息していることが多かった。また、重要な農業害虫を含むが分類学的に再検討が必要なグループ(コカクモンハマキガ類など)が得られた。 カメムシ目では、四川省の調査で日本にも分布するBothrogonia属やEvacanthus属等の頸吻類が採集された。一方、日本には分布しないUlopinae亜科なども採集された。また、未記載種を含む70種以上の異翅類が得られた。それらの多くがカスミカメ科、ハナカメムシ科、カメムシ科で、ヒマラヤ地域に固有の種もいくつか見出された。また、捕食性ハナカメムシ科のMontandoniola属やOrius属など、重要害虫の有用天敵として知られるグループの未記載種も得られた。 ハチ目では、四川省で、特に鱗翅類やクモを寄主とするヒラタヒメバチ亜科、雲南省で、里山環境を好み人家や人工的な構造物に営巣するアナバチ群とその寄生者、薪などにみられる木材穿孔性昆虫の寄生者や借孔性ハチ類などのサンプルが収集できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
チョウ目では、本年度の調査で得られたヒゲナガガ科やマガリガ科のVespina属の未記載種について、既知種と交尾器の形態等の比較を行っている。ホソガ科については、日本産の種に寄主植物や成虫の外部形態が類似した種を雲南省で複数種採集し、ミトコンドリアDNAのバーコーディング領域を比較したところ、3~10%程度という明瞭かつ大きな遺伝的分化が見られた。また、クルミホソガ種群の新たな寄主植物として Gaultheria 属を確認したほか、Caloptilia 属や Acrocercops 属の未記載種と思われる種の形態比較を行っている。 カメムシ目では、キウイなどのサルナシ属において採集されたヒメヨコバイは、これまで同植物を寄主とすることが知られているAlebrasca属およびCircinans属とは異なっており、未記載種であると考えられた。異翅類については、標本を整理・精査しているが、重要害虫の有用天敵になりうる種のスクリーニングを並行的に行っており、特にハナカメムシ科のMontandoniola属やOrius属の種を優先して形態比較を進めている。 ハチ目では、四川省で得られた標本のうち、ヒラタヒメバチ亜科の各種については予備的にDNAの抽出を行いCOI領域の塩基配列を決定して、日本を含む他地域のものとの比較を行った。たとえばZatypota albicoxaではヨーロッパから日本まで広く分布する系統と、ごく近縁な別の系統の両者が同所的に生息することが確認された。雲南省で得られたサンプルについては約500個体の標本を作製し、科階級群ごとにソーティングを行った。広義のアナバチ群では属まで、マルハナバチ類、セイボウ科、アリガタバチ科については種まで同定作業を進めている。 以上のように、中国ヒマラヤ地域における著しい種多様性の創出機構を探る上で重要な基礎情報が得られつつある。
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Strategy for Future Research Activity |
形態ならび分子生物学的手法により、中国ヒマラヤ地域での昆虫類の多様化や日本列島における昆虫相の成立過程を考察するための資料収集を継続する。また、農業害虫を含む潜葉・造巣性グループなどの種または遺伝的多様性の研究、寄生蜂類・捕食性半翅類などの有用生物資源の特定により、害虫防除等のへの応用に向けての基盤を構築する。 まず、チョウ目では、外部形態と生態は日本産種に酷似するが大きな遺伝的分化が見られた種に関して交尾器形態の精査を行い、分子情報と形態情報の統合化により種多様性の議論を深める。また、Gaultheria属を寄主とするクルミホソガ種群の系統、生態、形態情報を充実させることで、未記載種もしくは新たなホストレースである可能性を検証する。 カメムシ目では、近年、日本に侵入したモウソウチク等を加害する日本未記録種のヨコバイが四川省などから記載されていることから、四川省雅安市において多数採集された竹類を寄主植物とするヨコバイ類について分類学的検討を行い、その近縁性について検討を行う。異翅類については、有用生物資源となりうる未記載種が見つかったため、形態比較を行い、それらの記載分類を進める。また、系統推定を行うために、新たなDNA解析用のサンプルを収集する. ハチ目については、資料収集、サンプルの処理、標本作製を進める。また、有剣ハチ類については可能な限り種まで同定する。雲南省では、調査地点ごとに景観が大きく異なっており、得られるハチ類も種構成が大きく違う傾向があることがわかった。系統的多様性と分布特性を明らかにするため、四川省でも同様の手法で調査を行って比較を行う。 以上により、中国ヒマラヤ地域における種多様化機構を議論するための基盤をより強固なものとする。
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Research Products
(17 results)