2017 Fiscal Year Annual Research Report
中国ヒマラヤ地域における昆虫類の系統分類と有用生物資源種の探索
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16H05766
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
広渡 俊哉 九州大学, 農学研究院, 教授 (20208896)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
神保 宇嗣 独立行政法人国立科学博物館, 動物研究部, 研究主幹 (10568281)
山田 量崇 徳島県立博物館, その他部局等, 主任 (20463474)
大島 一正 京都府立大学, 生命環境科学研究科, 助教 (50466455)
紙谷 聡志 九州大学, 農学研究院, 准教授 (80274520)
松本 吏樹郎 大阪市立自然史博物館, 学芸課, 主任学芸員 (90321918)
三田 敏治 九州大学, 農学研究院, 助教 (90581851)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 分類学 / 昆虫 / 系統 / 進化 / 中国ヒマラヤ地域 |
Outline of Annual Research Achievements |
2017年6月11日~6月23日に雲南省、7月13日~7月25日に四川省で野外調査を実施してサンプルを収集し、系統分類学的研究を行った。 まず、チョウ目では、原始的グループのヒゲナガガ科やマガリガ科Vespina属の未記載種のサンプルを追加し、日本昆虫学会大会等で発表した。菌食・腐植食性グループではネマルハキバガ科など、潜葉・造巣性グループではツヤコガ科、モグリチビガ科、ホソガ科などで未記載と考えられる種を確認した。ツヤコガ科では、アジサイ科の一種、シナサワグルミ、ヤブガラシを利用する種、モグリチビガ科ではシナサワグルミを利用する種、ホソガ科ではトチノキを利用するCameraria属の種の他、同所的にクマノミズキを利用するPhyllocnistis属2種を確認した。そのうちの1種については、国際共著論文としてZookeys誌に発表した。ホソガ科とネマルハキバガ科については、寄主植物や成虫の斑紋が日本産種と類似する多数のサンプルを得た。これらを日本産種と比較したところ、COI領域に3~5%以上の分化が見られた場合には、交尾器にも形態的差異が認められた。また、日本産種と寄主植物が同じでも、中国ヒマラヤ地域には多数の固有種が生息することが判明しつつある。 カメムシ目では、ヨコバイ科のInflatopina intonsa Lu et al., 2017が多数採集され、その99%がカマバチに寄生されていたことを発見した。ハナカメムシ科については、中国産種と比較して日本産のハナカメムシ族の再検討を行い、3未記載種を含む5属13種を認め論文として発表した。 ハチ目では、寄生性種の一部のサンプルついて塩基配列を決定し、日本を含む他地域のものとの比較を行った。また、里山環境の人家などに営巣するアナバチ群とその寄生者、薪などにみられる木材穿孔性昆虫の寄生者や借孔性ハチ類などのサンプルを追加した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
チョウ目では、ヒゲナガガ科やマガリガ科のVespina属の未記載種について論文を準備中である。また、同所的に生息するホソガ科Phyllocnistis属の2種は蛹のコクーンカッターで識別が可能であり、分子情報においても種レベルの差異があることを確認した。ホソガ科全般については、日本産の種と COI領域を比較したところ、3~5%以上の別種相当の分化を示す例、それ以下で同種と考えられる例、日本の特定集団(八重山や対馬など)が中国集団と単系統となる例、の3通りが見られ、記載論文や比較生物地理の論文として準備中である。 カメムシ目では、竹類から、ヨコバイ亜科のBranchana属を得ることができた。本属の一種B. xanthota Li, 2011は、近年、日本に侵入し分布を急速に拡大しており、日本での初記録は、Zootaxa誌に投稿中である。今後、日本個体群との遺伝的距離を調査し、日本への侵入経路等の考察を行う。ハナカメムシ科では、モンシロハナカメムシ属Montandoniolaに系統的に興味深い未記載種が含まれていることが分かった。。 ハチ目では、小型の鱗翅類に寄生するヒメバチ科のAcrapimplaやItoplectis、材穿孔性の甲虫に寄生するDolichomitusやSpilopteron等の種が得られた。成虫の形態が日本のものと酷似しているものが多く得られているヒラタヒメバチ亜科の一部に関して、COI領域の塩基配列を日本を含む他地域のものとの比較した結果、お互いが遺伝的に明瞭に異なるケースと、ほとんど差がないケースの両方が認められた。また、昨年度に引き続き、広義のアナバチ群では属まで、セイボウ科、アリガタバチ科については種まで同定作業を進めている。 以上のように、中国ヒマラヤ地域における著しい種多様性の創出機構を探る上で重要な基礎情報を蓄積している。
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Strategy for Future Research Activity |
形態ならび分子生物学的手法により、中国ヒマラヤ地域での昆虫類の多様化や日本列島における昆虫相の成立過程を考察するための基盤を強固なものとする。また、農業害虫を含む潜葉・造巣性グループなどの種または遺伝的多様性の研究、寄生蜂類・捕食性半翅類などの有用生物資源の特定により、害虫防除等への応用に向けての基盤を構築する。 まず、チョウ目では、原始的グループ、菌食・腐植食性グループ、潜葉・造巣性グループにおいて、新種記載を含めた論文作成を行うとともに、引き続き遺伝子解析と形態観察を重点的に行う。また、次年度に調査予定である秦嶺山脈と南嶺山脈において、精力的にホソガ科とネマルハキバガ科のサンプリングを行い、日本と中国間だけでなく、中国国内における地理的隔離集団間の遺伝的分化や、生葉食のホソガ科と腐食性のネマルハキバガ科間での食性の違いによる多様化パターンの違いに関しても議論できるデータの収集を目指す。 カメムシ目では、ヨコバイ亜科のBranchana xanthotaにおいて日本産と四川省産の個体群間で雄交尾器に形態差が見い出されたため、この形態差が種内変異かどうかについて、分子情報を用いて検討を行う。また、四川省で採集された前後翅を広げて静止するオモナガヨコバイThagria sp.について、分類学的研究を進める。ハナカメムシ科では、有用天敵の探索という観点から、モンシロハナカメムシ属とヒメハナカメムシ属について重点的に野外調査を行う。 ハチ目では、有剣ハチ類について可能な限り種まで同定する。雲南省と四川省では、調査地点ごとに景観が大きく異なっており、得られるハチ類も種構成が大きく違う傾向があることがわかった。系統的多様性と分布特性を明らかにするため、広東省でも同様の手法で調査を行って比較を行い、中国ヒマラヤ地域の生物相の特性を明らかにする。
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[Journal Article] Systematics of Phyllocnistis leaf-mining moths (Lepidoptera, Gracillariidae) feeding on dogwood (Cornus spp.) in Northeast Asia, with the description of three new species2018
Author(s)
N. Kirichenko, P. Triberti, S. Kobayashi, T. Hirowatari, C. Doorenweerd, I. Ohshima, G.-H. Huang, M. Wang, E. Magnoux, C. L.-Vaamonde
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Journal Title
ZooKeys
Volume: 736
Pages: 79-118
DOI
Peer Reviewed / Open Access / Int'l Joint Research
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