2018 Fiscal Year Annual Research Report
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16H06285
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
廣瀬 敬 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 教授 (50270921)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
大石 泰生 公益財団法人高輝度光科学研究センター, 利用研究促進部門, 主席研究員 (20344400)
舘野 繁彦 東京工業大学, 地球生命研究所, 研究員 (30572903)
K Joseph 東京工業大学, 地球生命研究所, 特任教授 (80721258)
小澤 一仁 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 教授 (90160853)
Alfred Baron 国立研究開発法人理化学研究所, 放射光科学研究センター, グループディレクター (90442920)
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Project Period (FY) |
2016-04-26 – 2021-03-31
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Keywords | 初期地球 / 高圧 / 元素分配 / マグマオーシャン / コア形成 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、地球コアの冷却に伴い、特に初期地球において、コアからシリケイトが析出し、マントル側へ付け加わっていることを明らかにしつつある。従来、マントルの同位体組成などから、コア由来の物質がマントルに付け加わっていることが示唆されてきたが、これまでそのメカニズムが解明されていなかった。本研究から、コアから析出してマントルへ付加された物質の総量はマントルの1.5%にも及ぶと考えられ、コアからマントルへの主要な物質輸送メカニズムであると考えられる。2018年度は、コアから析出するシリケイトの組成を、Fe-Si-O-Mgの4成分系の超高圧下結晶化実験より見積もった結果、固体SiO2とシリケイトメルトであることが明らかになった。シリケイトメルトはさまざまな微量元素を含むことから、マントル側の微量元素・同位体組成にも大きく影響し得る。これらシリケイトメルトは分別結晶作用の結果、FeOに富むメルトとなり、現在コア直上に観測される超低速度層を形成している可能性がある。また、地球内部に見られる層構造の成因の解明は、本研究のみならず固体地球科学の重要なテーマである。中でも、内核-外核境界(ICB)直上の F層の成因は未だ明らかにされていない。本研究では、鉄-軽元素系の共融点組成をコアの圧力下で決定する実験を系統的に行っている。その結果を使って、F層の最上部で液体コアが結晶化を開始し、ICBで共融点にいると考えると、F層の厚みや地震波速度の特徴がうまく説明できることがわかった。さらに、従来困難とされていた、超高圧下で液体金属鉄の密度・速度・結晶化温度を測定することにも成功した。その結果、コアにはSiやOよりも、揮発性元素が軽元素として含まれていることがわかった。このことは、本研究で明らかになった、コアからSiO2が結晶化した結果、現在のコアにはSiとOが枯渇していることと調和的である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
固体地球科学において、地球内部の層構造の成因の解明は、第一級の研究テーマである。中でも、比較的近年になって観測から明らかになった、E’層(外核最上部)とF層(外核最下部)の成因は不明のままであった。本研究では、E’層内でSiO2が結晶化していること、F層内でFe-Si合金が結晶化していることで、両層の構造と特徴的な地震波速度の減少が説明可能であることがわかった。また、マントルの同位体組成からコアからマントルへの物質輸送が示唆されてきたが、その実態は知られていなかった。そこで本研究では、コアの液体金属は、コア形成時に高温でシリケイト成分を大量に取り込んだ後、冷却と共に、固体SiO2とシリケイトメルトを析出し続けてきたことを明らかにした。マントルへ付加された物質の総量はマントルの1.5%にも及ぶと考えられる。シリケイトメルトにはさまざまな微量元素が含まれることから、マントルの同位体組成にも大きな影響を与える。これら2つの大きな成果の基になっているのが、コアの液体鉄合金の状態図である。本研究では、鉄-軽元素2成分系、3成分系の状態図、特に共融点組成の変化を、すべての軽元素についてコア圧力下まで系統的に決定した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、微量元素分配実験に一層の力を注ぐ。具体的には、コア(金属)-マントル(シリケイト)間の揮発性元素(水素・炭素・硫黄)と親鉄元素(タングステン、モリブデン)の分配を、シリケイトメルト中におけるこれらの元素の価数を含めて、超高圧下で決定する。すでに、コアがマントルから分離したとされる50万気圧・3,000-4,000ケルビンにおける溶融鉄-シリケイトメルト間の水素の分配係数の決定に成功しており、水素が強い親鉄性を示すことから、水素がコアの主要な軽元素であるとの結論を得ている。これと同様の手法を用いて、他の元素の分配も決定する。さらにはシリケイト中におけるメルト-下部マントル鉱物間の放射性同位体系に関わる元素(Nb-Zr, Rb-Sr, Sm-Nd, Lu-Hf, W-Hf, U-Th-Pb)の分配を明らかにする。これについても、Lu, Hf, Wの3元素について、メルト-ブリッジマナイト、メルト-CaSiO3ペロブスカイト間の分配につき、予察的な実験に成功しており、下部マントルの浅い領域と深い領域で分配係数が大きく異なることを明らかにしている。過去の実験から、下部マントルの元素分配に関して、主要鉱物ブリッジマナイトよりもわずかに含まれるCaSiO3ペロブスカイトが重要と考えられてきたが、マントル深部においてはメルト-ブリッジマナイト間の分配が支配していることがわかった。さらに、得られた分配係数を使って、初期地球におけるマグマオーシャンの固化に伴って、現在の下部マントルにはHf同位体比/Nd同位体比が低いブリッジマナイトブロックがミッシング・リザバーとして存在していることを示した。今後は同様の実験手法を用いて、他の放射性同位体系に関わる元素についても元素分配を決定し、マグマオーシャンと初期地球マントルの分化について、明らかにしていく。
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