2016 Fiscal Year Annual Research Report
旧植民地下の日本語文学と戦後文学における植民地表象の通史的研究
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16H07396
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Research Institution | Mukogawa Women's University Junior College Division |
Principal Investigator |
小泉 京美 武庫川女子大学短期大学部, 日本語文化学科, 講師 (70779206)
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Project Period (FY) |
2016-08-26 – 2018-03-31
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Keywords | 日本文学 / 日本語文学 / 文学史 / 植民地表象 / 異文化体験 / 出版流通 / 読書論 |
Outline of Annual Research Achievements |
日本人文学者の満洲体験と満洲における日本近代文学の流通の相関性を明らかにするために、南満洲鉄道(以下満鉄)沿線各地の図書館に収蔵されていた日本近代文学に関する蔵書の調査を行った。作業にあたっては、戦前に当該地域で刊行された日本語資料を収蔵する図書館や資料館の蔵書目録を活用してデータベースを作成し、これを参照しながら以下の作業に取り組んだ。 満鉄の鉄道附属地の図書館で発行されていた図書館関連文献の調査と収集を行った。その上で、日本近代文学に関する特集や記事を時期とテーマ別に整理し、その傾向と蔵書との関連について考察した。また、日本人文学者の満洲体験について、文学者別に整理し、目的・時期・訪問地域(訪問機関)・旅程(在留経緯)・案内者(仲介者)、および現地で接触した文学者や文化人等の詳細をまとめ、図書館の特集との関わりや図書館員との接触の有無について分析した。 これらの作業に基づいて、とくに短歌・俳句・川柳といった短詩型文学の動向を重視し、与謝野晶子・鉄幹夫婦の満蒙視察と満洲における短歌界の動きとの結びつき、現地での短歌や川柳の結社の動きについての調査と分析を行った。 研究成果の発信としては、阪神近代文学会冬季大会で、「越境する想像力―「外地」から見る日本近代文学」と題する発表を行い、現時点での研究の概要を報告した。その際の質疑応答では今後の研究推進の指針となる重要な視点を得ることができた。また、満洲における短歌・俳句・川柳についての研究成果は平成29年度に発表する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
満鉄沿線各地の図書館に収蔵されていた日本近代文学に関する蔵書の調査については、当初から予想していたとおり、その全体像や実態の正確な解明には至らなかったものの、個別の成果に結びつく新たな発見があり、関連資料の収集や分析は順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
満洲で発行されていた図書館報・読書会雑誌・旅行雑誌等の資料を調査し、日本近代文学に関する記事を収集する。その上で、日本人文学者の視察が、現地の文学者や文化人に与えた影響について検証する。また、これまでの調査成果と統合し、日本人文学者の満洲体験と日本近代文学の流通との関連性について考察する。 さらに、新たに太平洋戦争終結後の日本における植民地表象についての調査を始める。戦前から引き継がれている満洲における日本語文学の展開との関連や、植民地で幼少期・青年期を過ごした作家の文学的基盤の形成と表現の独自性について等の問題に取り組む。さらに、発表時の社会・政治・文化等を背景に、日本の文学状況に即して資料の意味付けを行い、問題の歴史的展開の諸相を明らかにしたい。
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Research Products
(1 results)