2016 Fiscal Year Annual Research Report
意志決定機構の解明に向けた、キイロショウジョウバエ味覚二次神経の同定と機能解析
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16H07417
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Research Institution | National Institute of Genetics |
Principal Investigator |
宮崎 隆明 国立遺伝学研究所, 構造遺伝学研究センター, 博士研究員 (00777807)
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Project Period (FY) |
2016-08-26 – 2018-03-31
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Keywords | 神経科学 / 味覚 / 学習と行動 / キイロショウジョウバエ |
Outline of Annual Research Achievements |
味覚系は、感覚情報に基づく意志決定の機構にアプローチするのに大変優れた系である。なぜなら、ある感覚刺戟に対して観察される行動は学習によって変化しうるが、この行動修飾の度合いは、味覚系では他の視・嗅覚系よりも小さく、動物実験を通じて好き/嫌いを決定する機構に迫りやすいからである。本研究では、豊富な分子遺伝学的手法が利用可能で、単純な神経系を持ちながら様々な味刺戟に対して状況に応じ適切に対応できるキイロショウジョウバエ(以下、ハエ)をモデルとして用いる。ハエでは、口で感じた味情報を脳に送る味覚感覚神経が既に同定されているが、それと行動の決定との間にある神経回路を明らかでない。そこで本研究では、味覚感覚神経とシナプス接続をしている二次神経細胞を同定することを通じて、味受容と行動決定の間の情報処理機構の解明することを目指した。 私は、甘味情報を受け取る味覚二次神経細胞13種類のシナプス入力・出力部位を同定した。さらに、それらの中で1種類は、甘味刺戟に応じて摂食行動を惹き起こす運動司令神経細胞とシナプス接続を作っていること、及び、別の4種類は、甘味情報を報酬とした匂い連合学習において報酬情報を伝えるオクトパミン神経細胞とシナプス接続を作っていることを見出した。 本研究により、甘味情報と摂食行動、及び、甘味情報と報酬情報をつなぎ得る神経回路を遺伝学的手法によって操作できるようになった。今後、これを利用することで、各神経回路が味情報をどのように符号化しているかと、摂食や学習の行動をどのように制御しているかを明らかにすることが期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では当初、電子顕微鏡連続切片画像データの解析により、未知の味覚二次神経細胞を新たに同定することを予定していた。しかし、研究状況を考慮した結果、私が以前の研究で標識した、甘味情報を脳内に伝える味覚感覚神経の末端と接続する味覚二次神経細胞の回路構造と機能を解析した方が、成果をより時宜にあった形で挙げることができると予想された。そこで方針を転換し、以下のような結果を得たので、順調な進展があったと判断する。 まず、私が以前の研究で得た15系統を用いて、それぞれが標識する味覚二次神経回路の構造を解析した。神経線維全体、入力・出力部位のそれぞれに局在するタグ付き蛋白質を、各系統を用いて発現させ、脳内での分布を可視化した。これまでに13系統についてこのデータの解析を完了しており、12種類の異なる形態の神経細胞が存在することが判明した。私は以前、これと同様の方法で1種類の味覚二次神経細胞の構造を報告したが、併せて13種類の神経回路の構造を記述できたことになる。 次に、これらの甘味情報を受け取る二次神経細胞が、行動に関わる神経細胞と接続するか否かを検討した。ハエでは以前、甘味刺戟に応じて摂食行動を惹き起こす運動司令神経細胞が報告されていた。13種類の味覚二次神経細胞のうち1種類の出力部位の局在は、この細胞の入力部位の局在と重なっていた。そこで、これらの細胞のそれぞれにおいて緑色蛍光蛋白質の相補的断片を発現させたところ、機能的蛋白質の再構成による蛍光が観察されたので、これらの細胞がつながっていることが確かめられた。また、匂い連合学習においてオクトパミン神経細胞が甘味の報酬情報を伝えることが以前の研究で知られていたが、味覚二次神経細胞のうち、10種類の出力部位はこの細胞の入力部位と重なっていた。そこで、同様に神経細胞間の接続の有無を検討したところ、4種類について接続していることが判明した。
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Strategy for Future Research Activity |
味覚二次神経細胞を標識する15系統のうち解析が済んでいない2系統について、それらの神経回路の構造を解析する。 これに引き続き、これまでの研究で私が同定した神経細胞が、甘味情報の処理とそれによって惹き起こされる行動の制御においてどのような機能を果たしているかを解析する。甘味情報と摂食行動、及び、甘味情報と報酬情報をつなぎ得る神経回路のそれぞれ1、4種類について、遺伝学的手法による操作が可能になった。これを利用して、各神経細胞が味刺戟の情報をどのように符号化しているか、また、行動の制御に関わっているかどうかを解析する。 情報の符号化の解析のため、細胞内カルシウム濃度の蛍光インジケーター蛋白質を味覚二次神経細胞で発現させ、私が以前の研究で開発したin vivo イメージングの手法を用いて脳内の神経活動を計測する。これにより、様々な濃度や種類の味刺戟に対して標的の神経細胞がどのように活動するかを明らかにし、以て味情報の符号化のロジックを明らかにする。標的の神経細胞は甘味情報を受け取るものであるから、与える刺戟としては糖分や、それに苦みなどの別の味物質が混ざったものを用いる。 行動の制御への関与を調べるため、外来蛋白質の発現により味覚二次神経細胞の活動を人為的に改変する。たとえば、ダイナミンの温度依存性優性機能欠失変異体(shibire)によって標的神経細胞のシナプス出力を抑制したり、光依存性・温度依存性カチオンチャネル(チャネルロドプシン・dTRPA1)により、神経活動を活性化したりする。こうした上で、甘味刺戟によって惹起される摂食や、甘味を報酬とした匂い連合学習の行動を観察する。もし、その結果、神経活動を改変しなかったときと比べて変化が見られたならば、標的とする神経細胞がそれらの行動の制御に関与していることが示される。
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