2017 Fiscal Year Research-status Report
タンパク質の動的特性を特徴づけるための分子内動的構造ネットワーク解析法の開発
Project/Area Number |
16K00407
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
輪湖 博 早稲田大学, 社会科学総合学術院, 教授 (60158607)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | タンパク質の立体構造 / タンパク質の動的構造 / 基準振動解析 / ネットワーク解析 / Protein Data Bank / アロステリック効果 / T細胞受容体 / 中心性指標 |
Outline of Annual Research Achievements |
【研究目的】本研究は、タンパク質の機能を理解するうえで重要なその動的特性を特徴づける方法論の開発を目的としている。ネットワーク理論を援用した分子内動的構造ネットワーク解析法の開発をめざしてスタートしたが、本年度はさらに分子動力学(MD)計算のデータを用いた研究も行い、より広い視野から検討した。 【研究方法】タンパク質立体構造データベース(PDB)に与えられた静的構造情報から、われわれが開発した基準振動解析プログラムを用いて、主として残基間の運動の相関を求めた。そして、空間的に隣接し正の強い相関を持って運動する残基間を結んだネットワークを考え、これにネットワーク解析法を適用した。また、MDによるタンパク質立体構造の揺らぎデータから、アミノ酸残基間の相互作用ネットワークの時間変化を追跡し、機能との関連を議論した。 【研究成果】①昨年度、ネットワーク解析の特性量の中でも中心性指標の一つであるbetweennessが、構造的に、あるいは機能的に重要なアミノ酸残基を特定するのに適していることをいくつかの酵素の活性部位に注目して検討して明らかにした。本年度はさらに、補助分子の結合部位と活性部位が空間的に離れているアロステリック効果を引き起こすタンパク質に適用し、補助分子結合部位と活性部位の間の情報伝達経路に沿って中心性指標が高い残基が連なることを明らかにし、この方法論の有効性を示すことができた。②免疫に関わるタンパク質であるT細胞受容体には特異性の高いものと低いものがあるが、その違いを、両者のMD計算を行い、アミノ酸間の相互作用の特徴とそれらが作るネットワークの時間変化を解析した。その結果、結合の安定性に寄与するエントロピーとエンタルピーの拮抗の度合いが両者で異なることが明らかになった。③われわれがPDBj内に構築している基準振動解析データベースProModeをさらに充実させた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでの研究で、タンパク質立体構造の動的構造で定義されたネットワークを解析することで、酵素の活性部位やアロステリック効果を引き起こす部位間の情報伝達の特性などを浮き彫りできるのではないか、という本研究の当初の予想は、限られた例ではあるが、概ね正しかったことを示すことができた。また、当初計画にはなかった分子動力学計算の解析グループとの共同研究によって、タンパク質の動的構造特性を基準振動解析とは異なった視点から、とりわけ、基準振動解析ではできないアミノ酸の相互作用ネットワークの時間変化を検討することができた。また、その研究では、基準振動解析計算が準備段階で研究を計画する上で重要な役割を果たした。最終的な論文ではその結果に関する直接的な記載はなかったが、分子動力学計算を主とした研究における基準振動解析計算の利用の仕方について多くの示唆を得ることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
「現在までの進捗状況」でも述べたように、ネットワーク解析は酵素の活性部位やアロステリック効果を引き起こす部位間の情報伝達の特性などを浮き彫りにしてくれるのではないか、という本研究の当初の予想は概ね正しかったことを示すことができた。①しかし、まだ取り上げた例が限られており、一般的に成り立つかどうかは、より多くのタンパク質に適応して確かめることが必要であり、計算例を増やしていく。②また、タンパク質の動的特性を特徴づける方法の開発という視点からは、基準振動解析の各低振動数モードのもつ意味、あるいはその特徴づけも重要な課題として残されている。当初、最低振動数モードから10モードほど調べれば目的が達成されると考えていたが、計算を進めるうちに、もう少し高振動数のモードについても調べる必要があることがわかってきた。モード数が増えれば、その解析結果をいかに包括的にわかりやすくまとめるかという新たな問題が生じてくるだろう。本年度はこの問題にも取り組む。 ③より多くのタンパク質、そして各タンパク質についてより多くのモードについて計算することで、より多くの計算結果が蓄積してくるため、新たに、それらをいかに分類するがが問題となるであろう。そして、その結果を踏まえ、これまでのタンパク質の静的立体構造の分類に動的立体構造特性という新たな視点を加えることを目指す。④また、相同タンパク質についても計算を行うことで、その共通する特性と個々に特徴的な特性を導き出す。これにより動的構造特性の分類に何らかの示唆が得られるものと期待される。⑤最後に、基準振動解析をより大きなタンパク質にも適用するための手法の開発と、データの蓄積も行う。そしてPDBj(蛋白質立体構造データバンク日本支部)に二次データベースとして開設しているわれわれの基準振動解析データProModeを充実することで、この分野の研究に貢献する。
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Causes of Carryover |
ほぼ予算通りであり、残額は少額であるため繰り越した。 次年度に消耗品費として使用する予定である。
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Research Products
(9 results)