2016 Fiscal Year Research-status Report
質的調査手法に依拠した映像利用に基づく統合型コミュニケーション・デザイン研究
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16K00706
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Research Institution | Kyoto Institute of Technology |
Principal Investigator |
池側 隆之 京都工芸繊維大学, デザイン・建築学系, 准教授 (30452212)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 質的リサーチ / ドキュメンタリー / 映像デザイン / 情報デザイン / コミュニティ・アーカイヴズ / コミュニケーションデザイン |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度は,研究の第一段階として「基層文化の映像記録: 伝承文化の保存(生活技術,身体技法,生産物)と方法論」を目的に研究活動を展開した。ここでは瀬戸内海でアート事業を展開する公益財団法人福武財団の協力を得て,岡山県犬島を本実証研究のフィールドに選定し,島の映像記録を中心に作業を進めた。犬島には現在約30名が居住し,そのほとんどが70才以上の高齢者である。福武財団の犬島担当者と打ち合わせを重ねる中,現代アートの島として知名度が高まる一方で,島民の高齢化に起因する様々な問題が生じる現状を把握するに至った。特に「失われる歴史と文化」の問題は大きい。しかし,福武財団が展開するアート事業の一環で島に新たに関わり合いを持つ50才代以下の人びとの存在もあることが分かった。そこで研究課題に掲げる「質的調査手法に依拠した映像利用」を実践すべく,ここでは主に,「1.犬島の歴史や文化に係る証言をインタビュー記録する」,「2.島民の今の日常を記録する」,そして「3.移住者の活動を記録する」という3つの指針を立てて映像による調査・取材にあたった。実際には夏,秋,冬の3回(7月,9月,2月)島におもむき, 9日間の取材を行った。約30時間の映像記録(音声データ含む)を実施した。 また研究段階の2番目に位置づけた「映像を用いたリサーチ方法論: 調査からコンテンツまで視野に入れた映像の効果的利用」を28年度後半から実施する旨を研究計画書で申請したが,この研究段階に関連して,デザイン活動における調査段階の映像利用と成果の発表手段としての映像に関する先行事例(英国FIXPERTSプロジェクト)を「巡回的なデザインプロセスを算出する映像利用」としてまとめて,7月に長野大学で開催の日本デザイン学会の大会で研究発表を行った。この発表は同学会の「グッドプレゼンテーション賞」に選出され,高い評価を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度の研究実績で示したとおり,想定していた第二段階の研究にすでに着手している。よって今期は,昨年度の成果を学会等で発表しながら,客観的な評価を積極的に得られる場を活用する予定である。そこでのフィードバックを第二段階の研究の精緻化に活かしていく。 また昨年度の作業を通じて,研究を進化させるために必要な,具体的な複数のフレームワークが準備できている。犬島では「基層文化の映像記録」,「コミュニケーションデザインにおける記録映像利用」,そして「デザイン構想を促す映像アーカイヴズ」であり,この観点を軸にさらに研究を進める計画である。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度に犬島での調査を進める中で,「過去を残し,今をつなぎ,未来をどう描くのか」を考える上で映像がますます重要との認識を福武側の担当者とも共有できたこともあり,これらの記録映像をアート鑑賞目的の来訪者に対して提示する機会を平成29年度中に整備していく計画を検討している。これは研究段階の2番目に想定している「映像を用いたリサーチ方法論: 調査からコンテンツまで視野に入れた映像の効果的利用」に相当するものであり,「生きた資料館(アーカイヴ)」での映像利用を中心に引き続き検討していく。 また,申請時の計画では,平成28年度は主に京都をフィールドに基層文化の映像記録を行う旨記載していたが,幸い別の予算を獲得することができたため,28年度は京都の調査はそれを充てることができた。ここでも本研究課題とほぼ同じ取り組みを実践し,調査手段の映像と成果を伝達する手段としての映像メディアの効果的な連動を意識してプロジェクトを展開した。 特にここでは,パーソナルメディアとしての20世紀の映像群(家族写真や8mmフィルム等)を調査し,それらを公共財と位置づけて,地域コミュニティにおける世代間コミュニケーションを生むデザイン手段としての可能性を検討した。そこでの成果を引き継ぎ,本年度も引き続きこの観点を重視し,本科研費を利用して20世紀メディアが運ぶ「共感」の循環を映像が担う状況を調査し,統合型のコミュニケーションデザインを検討したい。 当初は予定していなかった計画であるが,本研究の一環として昨年度オーストリアのメディアアートの祭典「アルスエレクトロニカ」に参加する機会を得て,最新テクノロジーを用いた映像デザインの実践をいくつか調査することができた。今年度も海外での実践も視野に英国を中心としたフィールドでの調査を実施し,国際的な視点で研究課題を捉えていく予定である。
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Causes of Carryover |
当初の計画では調査地の関係者との間で会合を相当数持つことを考えていたため会議費を1万円計上していた。しかし,実際には会議を開催せずに調査をある程度進めることができたため,約九千円の未執行額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
申請時の計画では京都府下の各所を主な調査フィールドとしていたが,昨年度は岡山県犬島という,理想的な調査フィールドを選定することができた。そのため予算のある程度の分を旅費に充てていく必要性が出てきた。今年度は調査フィールドが複数になるために引き続き予算の大部分を旅費に充てる必要性がある。また調査のフレームワークが明確される中で,調査フィールドの関係者との打ち合わせが今後多数おこなわれるものの考えられる。よって繰越額をそれに活用していく予定である。
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Research Products
(2 results)