2017 Fiscal Year Research-status Report
音の方向感認知能力の評価方法構築に関する基礎的研究
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16K01501
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
砂原 伸行 金沢大学, 保健学系, 准教授 (30624613)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
能登谷 晶子 京都学園大学, 健康医療学部, 教授 (30262570)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 聴覚刺激 / 音源定位 / 音の方向感認知 / 眼球運動 / 視線走査 / 高齢者 / 半側空間無視 / リハビリテーション |
Outline of Annual Research Achievements |
29年度における音刺激システム単独の実験設定については,スピーカ位置を後方空間にも拡大した条件で実施した.具体的には若年健常者を対象にして音の方向感認知能力を検討した結果,正答率については後方空間で低下したが,反応時間では差はなかった.音源配置位置は今回前後空間とも180°空間内で30°間隔での配置としたが,前後空間条件とも正中正面または真後ろを挟んで,左右30°と90°の位置での正答率が高かった.反応時間については後方空間において真後ろ,左右両端での反応が早い傾向がみられたが,パターンは左右対称であった.これに対し前方空間では左60°位置でやや遅延する傾向がみられ,パターンは左右非対称となった.これは前方では空間的注意の処理が必要な感覚モダリティが視覚,聴覚の二つに及ぶことで,右半球に負荷がかかる点が予想された. 視線走査を併せて実施した条件では,音刺激システムと眼球運動測定装置との同期を計るプログラムを導入したことにより,音刺激への応答を視線走査のみで行った際,時間経過に伴う視線の位置を1 /100秒単位の精度で解析可能となった.音刺激呈示範囲は頭頸部を固定することにより両眼注視野内(左右45°)とし,正中を含めて15°間隔の音源とした.結果としては,視線により音源を捉える反応時間は正中から周辺へ音源が離れるに従い延長し,これは音源を注視するのに必要な眼球自体の運動が関与しているものと考えられた.しかしながら音源判断に要する時間は音源間で差はなかった.また音源を視線で捉える際の正答率は正中より離れるに従って低下する傾向がみられた. さらに関連研究として半側空間無視例における視覚刺激に対する頭頸部の回旋パターンについて,共同研究を実施していた成果が英文論文として受理された.この成果は本研究の臨床実験において,被験者の頭頚部肢位調整の際の基礎的データとなると考えられる.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
29年度は高齢者及び脳損傷者の音の方向感認知能力について実空間における検討を行うのに際して,若年健常者の実験を実施することが出来た.当初音刺激システムの調整に若干時間がかかり,健常人用のシステムの導入は年度後半となったが,音刺激呈示のみの実験,視線走査を併せて実施した実験ともに,若年健常者の傾向を把握する上で有意義な結果が得られた.特に後者の実験では若年健常者において,実際の音の発信源である聴覚刺激に対して視線を向け,その箇所をどの程度の誤差の範囲内で見ることが出来るかがわかった. これらの若年健常者における基礎的データを基にして,年度最終時期には臨床場面にて高齢者,半側空間無視例を含む脳損傷者の実験に着手することが出来た.また視覚刺激を用いた視覚探索課題における視線走査パターンについては当初,音刺激システム導入の前に検討予定であったが,音刺激システムの調整の結果このシステムで視覚刺激呈示も可能となったので,29年度は音刺激のみを用いた検討を健常人で実施することを優先させた.これに伴い30年度に開始を予定していた高齢者,脳損傷者の実験に着手することが出来たので,研究は全体として順調に進んでいると考えられる.
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Strategy for Future Research Activity |
高齢者及び脳損傷者の音の方向感認知能力について,実空間における検討を継続していく.検討については,29年度の若年健常者での基礎的データをもとに考察を深める.29年度終盤には高齢者,脳損傷者の実験を開始しているので30年度前半までこの実験を継続し,結果の集計を行う.その成果については30年度後半の高次脳機能障害関連の全国学会にて口頭報告を行う. 現在臨床で実施している実験には,音刺激呈示単独での実験と音刺激システムと眼球運動測定装置を併せて行う実験の2つがある.前者については29年度の実績から脳損傷者中心,後者については高齢者中心の対象となっているが,可能な限り対象を追加していく予定であり,脳損傷の影響,加齢に伴う影響を併せて検討して行く予定である.また音刺激呈示と連動させた視覚刺激呈示を加えた実験については,30年度後半より若年健常者を中心に実施し,この結果により視覚・聴覚刺激間の相互の関連性について視線走査のパターンから情報が得られるものと考えている.またこの結果を踏まえて臨床での高齢者,脳損傷者での継続実験を行えば,リハビリテーション上有益な結果が得られると思われる.
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Causes of Carryover |
29年度においては若年健常者を対象に,音刺激システム単独の実験及び視線走査を併せて検討する実験を実施した.現在対象を高齢者,脳損傷者に拡大して実験を継続しているので,被験者の謝金が必要となって来る.また30年度前半にこれまでのデータを集計し,その成果を30年度後半に開催される関連の学会で発表し,一部の成果を論文に公表する予定である.従って学会参加の旅費,論文投稿費用が必要となり,経費が使用される またシステムの整備としては29年度の音刺激システム調整の結果,このシステムで視覚刺激呈示も可能となり,さらに眼球運動記録装置との間で同期を図る等の解析用機能が追加された.しかしながら視覚刺激を音刺激と連動させての同時提示や,遅延呈示の機能については29年度に予算を計上していたものの,開発企業の都合により追加に至らなかった.今後の研究の推進方策で述べたように,音刺激と視覚刺激呈示を加えた実験は30年度に予定しているので,対応したプログラム更新が必要になって来る.従って未使用分の経費は30年度に音刺激と連動する視覚刺激呈示が可能となるような,システムのバージョンアップ費用として使用されることになる.
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