2018 Fiscal Year Research-status Report
音の方向感認知能力の評価方法構築に関する基礎的研究
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16K01501
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
砂原 伸行 金沢大学, 保健学系, 准教授 (30624613)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
能登谷 晶子 京都学園大学, 健康医療学部, 教授 (30262570)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 聴覚刺激 / 音の方向感認知 / 眼球運動 / 視線走査 / 高齢者 / 半側空間無視 / 音源定位 / リハビリテーション |
Outline of Annual Research Achievements |
30年度における実験では,その前年度(29年度)最終時期における高齢者,脳損傷者への実験着手に引き続き,本格的に臨床場面における検討を行うことが出来た.具体的には実験対象被験者として高齢者と脳損傷者に対して検討を行った.特に脳損傷者については半側空間無視例を含む右半球損傷例を中心に実験を実施した. 音刺激システム単独の実験では,右半球損傷者で半側空間無視を伴う脳損傷例の音源定位能力について検討した.比較対象は脳損傷のない高齢者群であり,実験は前方空間条件,後方空間条件の二つで行った.今回の音源配置位置は前後空間とも正中(真後ろ)及び左右の36°,72°の位置での配置とした. 本検討により前方空間では左右両端(72°)の音源で音の方向感認知の障害を呈することが明らかとなり,半側空間無視例の聴覚的な無視症状を確認することが出来た.また後方空間では左端(左72°)での正答率が低下しており,聴覚的な無視症状が後方空間においても左側に生じる可能性が示された.これらの点から無視患者の音の方向感認知能力の障害が前方,後方の両空間において存在することが確認されたことは意義深い. 視線走査を併せて実施した条件では,前年度音刺激システムと眼球運動測定装置との同期を計るプログラムの導入,解析システムのバージョンアップがあり,視覚刺激の呈示も可能となった.これに伴い今年度は高齢者を対象被験者として実験を進め,視覚,聴覚刺激に対する反応の違いを視線走査の速さと精度の側面から検討した.その結果,視覚では両眼注視野の範囲でも刺激を見落とすことがあり,反応も両端で遅延がみられた.一方聴覚では全方向からの刺激に対応可能で視覚と比較して反応時間は早かったものの,音源定位能力は低下していた.以上より高齢者の注意機能という観点から,視覚と聴覚刺激では加齢による影響が異なることが明らかとなった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
30年度は前年度の高齢者,脳損傷者の実験導入に続いて,広い範囲で音の方向感認知能力についての検討を行った.まず音刺激システムを用いた音源定位課題の検討では,臨床場面での高齢者,脳損傷者への実験適用の難易度を考慮した.すなわち若年健常者での実験設定よりも音源数,刺激呈示範囲を減らして対応し,被験者への負担,統計処理の簡便化を考慮した.成果としては前方空間での聴覚的無視症状を確認出来たのに留まらず,後方空間でも聴覚的無視の存在を明らかに出来た.後方空間については,脳損傷例の音源定位能力を検討した報告が見当たらないことから,本結果は新規性が高いと考えられる.さらに本検討から前方空間と後方空間の間では,聴覚における空間性注意の様相は異なっていることが示唆された.感覚機能として視覚は後方空間には対応出来ないことから,聴覚において全方向での反応を解析することは,対象者の音環境構築及びリハビリテーション上有意義であると考えられる. また視覚,聴覚刺激を用いた探索課題における視線走査パターンの検討については,前年度は聴覚刺激のみを用いた若年健常者の検討であった.30年度は視覚刺激の呈示も可能となったので,臨床場面での高齢者の視覚,聴覚の探索課題での視線走査パターンの検討を行いつつ,同時に若年健常者の視覚での検討も行うことが出来た.以上から高齢者のデータとの比較が可能となり,視覚,聴覚刺激ともに加齢に伴う考察が可能であった. 30年度は音源定位課題では高齢者及び半側空間無視を伴う脳損傷において,眼球運動を用いた視覚及び聴覚探索課題では若年健常者及び高齢者において,それぞれ実験行った上で高次脳機能障害学会にてその成果を発表することが出来た.また臨床適用に際しての有意義な結果も得られたことから,研究は全体として順調に進んでいると考えられる.
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Strategy for Future Research Activity |
高齢者及び脳損傷者の音の方向感認知能力について,音刺激システムを用いた音源定位課題の検討では,前年度において脳損傷例では半側空間無視を伴う右半球損傷例を対象としてきたので,今後は半側空間無視を伴わない右半球損傷例を出来るだけ対象に加える.しかしながら被験者数は臨床場面での状況に左右されるので,半側空間無視例においても新規に対象に加えて同時に検討して行く予定である.音の方向感認知の障害,音源定位障害の症候については近年記載されている成書も出てきているが,まだ報告は少なく半側空間無視との関連も明確であるとは言えない.したがって半側空間無視の有無にかかわらず右半球損傷例での対象の追加を行い,病巣部位の検討も併せて専門家の会議などで報告して考察を深める予定である. 脳損傷例に対する探索課題における視線走査パターンの検討では,被験者の障害の重症度によっては実験設定状況が負担となることが予想される.この場合,臨床場面での被験者として整形外科疾患などの脳損傷を伴わない例も対象として考察して行く予定である. 次年度は最終年度であるので,出来るだけ前年度までの検討に被験者を加えて統計処理が可能なデータとして構築して行く.脳損傷例においては半側空間無視や注意障害の客観的データ,病巣部位による検討も数値化して,結果の集計を行っていく予定である.最終年度後半の地方学会または研究分担者を交えた専門家間の会議などで考察を行い,臨床応用を検討して行く.また同時に年度当初から論文投稿の準備を行い,データがまとまり次第関連の雑誌に投稿して行く予定である.
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Causes of Carryover |
30年度においては主として高齢者,脳損傷者を対象として,音刺激システムを用いた音源定位の実験及び視覚,聴覚刺激に対する視線走査パターンを検討する実験を実施した.31年度は脳損傷者においては,半側空間無視を伴う右半球損傷例を被験者として追加する予定がある.しかし臨床場面での状況により被験者が十分集まらない場合は家族会などの関連の団体への依頼の必要性が生じ,その際被験者への謝金が必要となって来る.さらに31年度前半にはこれまでのデータを集計し,研究分担者を始めとした会議で本研究の最終的な臨床適用を検討していく予定である.そのためプレゼンテーション用の機器なども含めた会議開催費用が必要となる. 学会報告として30年度後半は高次脳機能障害学会で口頭発表したが,31年度も引き続き追加データの公表または情報収集のための学会参加旅費,さらに現在投稿を準備している論文投稿に関わる費用が必要となる.また専門家の会議において既存データの再検討が考慮される場合もあるので,特に眼球運動などの実験データ動画を用いたデータ再処理,解析のための記憶媒体も必要となってくる.31年度はそれらに対して経費が使用される予定である.
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