2016 Fiscal Year Research-status Report
『認知空間の歪み』を定量し運動パフォーマンスの向上に活かす
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16K01595
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
久代 恵介 京都大学, 人間・環境学研究科, 准教授 (60361599)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小高 泰 国立研究開発法人産業技術総合研究所, その他部局等, 研究員 (10205411)
山本 真史 大阪体育大学, 体育学部, 助手 (40736526)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 感覚 / 運動 / 認知 / 空間 / 身体運動 / 上肢運動 / 運動パフォーマンス |
Outline of Annual Research Achievements |
我々は三次元空間内で身体を巧みに動かし目的の行為を達成させる。意図した運動を正確に行うには身体周辺の空間を正確に知覚することが必須と考えられる。これまでに得られている様々な知見から、身体周辺に拡がる空間は物理的には一様であっても、認知的には必ずしもそのように知覚されていない様子が示唆される。我々はこのことを『認知空間の歪み』として捉える。仮にこの『認知空間の歪み』が大きければ、中枢神経系における運動生成、そしてそこから出力される運動指令には必然的にエラーが含まれると考えられ、結果として得られる運動パフォーマンスは精度を欠くと想定される。したがって、『認知空間の歪み』は運動パフォーマンスの精度を制約する要因となっているのではないかという疑問を抱くに至った。本研究課題では、3つの目標を掲げた。1)一様に拡がる実空間は、認知的にはどのように捉えられているかを定量的に評価すること、2)認知的に捉えられた空間と運動パフォーマンスとの関連性を明確にすること、そして3)空間知覚能力の特性に基づいた運動パフォーマンス向上の方策を作成しその効果を検証する、である。 当該年度は、1)および2)について取り組んだ。その結果、身体の空間内における状況に応じて上肢運動のパフォーマンスが修飾される様子、そしてそれは『認知空間の歪み』に起因すると考えられる客観的な根拠を得た。 本研究では、ヒトの認知的な側面が身体運動のパフォーマンスに及ぼす影響を調べることから、心理学、認知科学、運動科学、スポーツ科学といった複数の学問領域にまたがる。換言すれば、ヒトの運動現象を感覚・認知・運動の観点から包括的に理解しようとする試みである。これによって得られる成果は、医学・理学療法学、発育・発達学、スポーツ科学等、様々な学問領域に還元し得る学際性の高い基礎知識になるものと確信する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該年度は、本研究で掲げた3つの目標のうち、1)一様に拡がる実空間は、認知的にはどのように捉えられているかを定量的に評価すること、2)認知的に捉えられた空間と運動パフォーマンスとの関連性を明確にすること、についていくつかのアプローチを行ってきた。 三次元外乱発生装置を用いた研究では、シートに固定された被験者を側方に8度および16度傾斜させ、記憶誘導性上肢到達運動を行わせた。被験者は、頭部前方に設置されたLEDの空間位置を視認した後、記憶された標的位置に向かって到達運動を行う課題に取り組んだ。指の到達位置と標的との誤差から、身体が傾斜させられることによって生じたであろう『認知空間の歪み』が、上肢を用いた運動パフォーマンスに及ぼす影響を調べた。その結果、身体の傾斜が大きくなるにつれて、指の到達位置は身体の傾斜方向にずれることがわかった。この運動現象が『認知空間の歪み』に起因するか否かを確かめるため認知実験を行ったところ、自己を中心とした『認知空間の歪み』が運動の歪みを誘発するという仮説を支持する結果を得た。 他方、水平面内における方位の理解には頭部と眼球を用いた回転が有効な手段と考えられるが、それら両者の量的関係性と空間を理解する精度との関係性を、記憶・再現課題を用いて調べた。その結果、水平面における方位の理解には、頭部および眼球運動が適切に混ぜ合わされた制御によりパフォーマンスを促進している様子がうかがえた。このことは、運動遂行が空間認知に歪みを生じさせるという、仮説とは逆向きのはたらきが存在することを示唆し、とても興味深い。今後はこのことについても調べる予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
当該年度に続く年度、およびその次年度は、基本的に同様の取り組みを進めていきたいと考える。具体的には、1)『認知空間の歪み』が身体を取り巻く空間に存在することを示す定量的なデータ取得、2)それが上肢運動を中心としたヒトの運動機能の精度向上(抑制)に関与する様子を示すこと、さらに3)ヒトに内在する感覚、認知、運動にまたがるこの機構をうまく取り入れた、運動学習促進、あるいは運動機能向上の方策を導き出すことである。これらを通して、行動制御、運動制御、あるいは感覚運動学習といったこの分野の概念に、実践に活かせる新たな知見を加えたいと考える。
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Causes of Carryover |
物品費と旅費の支出が予定を下回ったのは、申請段階で未定な要素が大きかったため
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
本年度同様、研究に真に必要な物品や旅費にあてる
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Research Products
(5 results)