2019 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
16K02139
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
辻内 宣博 早稲田大学, 商学学術院, 准教授 (50645893)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 後期スコラ哲学 / 認識理論 / 心の哲学 / 魂論 |
Outline of Annual Research Achievements |
「14世紀の認識理論の諸相」を明らかにするために,2019年度は,2018年度から引き続き,ニコール・オレームの認識理論の分析を行いつつ,他方で,神学的な側面から,ドゥンス・スコトゥスの議論を検討した。 オレームについては,『デ・アニマ問題集』第2巻と第3巻における「人間の魂の存在論」に関する主張を整合的に読み解くことを試みた。その結果,素材の可能状態から引き出された形相としての「知性的魂」という主張を採れないため,厳密な意味では,人間の知性的な魂は身体の形相にはなりえず,その役割を担うのは,人間の感覚的な魂であるという主張が確認された。しかし他方で,神によって「知性的な魂」が注入されることにより,「理性的な」という人間に固有の在り方が実現されるという,ある意味で,典型的なカトリック信仰の立場が導出された。しかしながら,「人間の感覚的魂」と「身体」との複合体について,新たな種の動物という存在論的な身分を確保している点で,他の中世スコラ学者には見られない思考の線を露わにすることができた。 スコトゥスに関しては,一般形而上学(存在論)と特殊形而上学(神学)との関係の分析を通じて,感覚知覚からしか出発できないわれわれ人間の自然本性的な理性的能力だけからでも,第一存在者としての神の存在が合理的に要請されるということを示し,また,絶対確実にというわけにはいかないにせよ,物質的で観察可能な世界を超えた領域に,われわれの知的で合理的な探求は本来的に開かれていることを示した。そのことから,13世紀のトマス・アクィナスにおいては,アリストテレス主義的な枠組みの範囲内にできる限り留まりつつ,認識理論を構築しているのに対して,14世紀に入ると,さまざまな角度から,とりわけ,神学的な視点を利用する仕方で,アリストテレスの枠組みを崩していく方向性が模索される姿が見てとられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2019年度の研究目的は,ニコール・オレームの『デ・アニマ問題集』第2巻と第3巻における人間の魂論について,整合的な理解を抽出することと,ドゥンス・スコトゥスによる神学的な視座からのアリストテレス的な認識論的枠組みの解体がどのように行われたかを明らかにすることの二点であった。 前者に関しては,人間の感覚的な魂と知性的な魂と身体という三者の関係について,これまでのスコラ学者には見られなかった論点を使う思考の線を導き出すことができた。後者に関しては,一般形而上学と特殊形而上学に関する学問論と両者の関係性についてのスコトゥスの理解を精密に分析することを通じて,感覚知覚の範囲を超えた領域へのわれわれ人間の知性によるアクセス可能性の担保が,本来的になされると考えているスコトゥスの思考の線を導出することができた。 以上のことから,ニコール・オレームの人間の魂の存在論に関する全体的な整合的枠組みの提示,および,スコトゥスにおける形而上学の学問論から見る人間の認識能力の限界を見定めることによって,人間の知的で合理的な探求が超越的世界にアクセスする可能性の担保がなされている姿の抽出という二点において,当該目標をおおむね達成できたと考えることができる。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度は,最終年度であるため,これまでの研究成果を統合する形で,1冊の報告書としてまとめる作業に取りかかる。 全体を6章立てにする形で考える。第1章では,13世紀の認識理論の状況について論じ,トマス・アクィナスを土台にしてその概要を提示する。第2章から第5章では,14世紀のドゥンス・スコトゥス,オッカムのウィリアム,ジャン・ビュリダン,ニコール・オレームの四者の認識理論の基本的な構図をそれぞれ明らかにする。そのうえで,14世紀の認識理論として共通する側面を抽出すると同時に,13世紀の哲学的な構図から何がどういった仕方で異なってきており,また,四者のそれぞれにおいて相違する点が何なのかを明確に提示することを目指す。さらに,第6章として,15世紀のニコラウス・クザーヌスの認識理論を見据えることを通じて,14世紀の認識理論の特性を浮き彫りにする。以上のような形で,5年間の研究の総決算を行う予定である。
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