2017 Fiscal Year Research-status Report
カントの批判哲学から晩年の思想への発展―『オプス・ポストゥムム』の全訳に向けて
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16K02150
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Research Institution | Kobe Women's University |
Principal Investigator |
田中 美紀子 神戸女子大学, 文学部, 教授 (80759613)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
加藤 泰史 一橋大学, 大学院社会学研究科, 教授 (90183780)
内田 浩明 大阪工業大学, 工学部, 准教授 (90440932)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | カント / オプス・ポストゥムム / 物質 / エーテル / 自然科学 / 自己定立論 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度には計4回(6月、9月、11月、平成30年3月)の研究会を開催した。第1回、2回および4回目の研究会では、昨年同様カントの未発表草案やメモを訳出し、内容について討議を重ね、翻訳を推敲した。 第1回目の研究会ではアカデミー版カント全集第21巻に収められている“EntwurfC”の試訳を行った。第2回目の研究会では同巻の“Entwurfβ”および“EntwurfNo.1”、同22巻の第10束の試訳を行った。主な内容は、物質論、毛細管現象など自然科学に関するものである。 11月の第3回目の研究会では、アメリカから研究者を招き、講演会を開催した。講演のテーマは、カントの手稿の中でも比較的形の整った「移行1-14」という草稿群の中に書き残された"Omnimoda determinatio est existentia”という文言であり、講演者は「汎通的規定」と「現存在」の置換可能的等価性について、『純粋理性批判』の「超越論的理想」の節でのカントの観点との相違あるいは発展について詳細に論じた。さらに、カントが晩年に完成を目指した「自己定立論」と、「経験」の成立に重要な役割を担う「エーテル」の存在論証との関連を浮き彫りにした。 第4回目の研究会ではアカデミー版カント全集第21巻に収められている“Entwurfγ”および“Entwurfδ”と同第22巻の第7束(自己定立論)の試訳を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
年3回、研究グループで集まり、ドイツ語原文を日本語に訳出する作業を行っている。その際、参加者全員が事前に試訳に目を通し、研究会では問題点を指摘しながら、用語の統一を図り、訳文の推敲を行っている。平成29年度もカントの遺稿集(オプス・ポストゥムム)に精通した研究者一人を海外から招聘して講演会を開催し、新しい知見を得るだけでなく、海外の研究状況もうかがい知ることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
翻訳作業を過年度同様に行う。ただカントは原稿を何度も書き直したり、書き足したりしているので、未発表草案は膨大な数にのぼるので、全体像を把握するために、内容が重複する草案の中から根幹となる中心的な部分をまず訳出することに努める。平成30年度にも海外から研究者を1名招聘し、講演会を開催し、最新の情報を得る。平成30年度が最終年度にあたり、カントの未発表草案の翻訳については一定の成果は期待できるが、18世紀後半の自然科学の新しい知見がカントの思想に与えた影響をさらに精査し、カントの思想が批判期から最晩年にわたりいかに発展したのかを探究する必要性が残されている。だから引き続き平成30年度に、助成費獲得の申請を新たに行う予定である。
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Causes of Carryover |
(理由) 研究会参加のための旅費の支出を予定より低く抑えることができたため。また、海外招聘研究者の講演を随時通訳者なしで開催せざるを得ず、結果として通訳者への謝金・旅費の支払いの必要がなくなった。 (使用計画) 三人の研究者の備品・書籍購入および研究協力者の研究会参加の旅費・謝金に使用する。また、海外招聘研究者への謝金・旅費、講演会開催の費用の支払いにあてる。
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Research Products
(2 results)