2018 Fiscal Year Research-status Report
朱熹の思想体系における周敦頤の位置の再検討-『朱子語類』巻94の精読に基づいて-
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16K02160
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Research Institution | Tokai University |
Principal Investigator |
恩田 裕正 東海大学, 清水教養教育センター, 教授 (70307297)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
伊東 貴之 国際日本文化研究センター, 研究部, 教授 (20251499)
林 文孝 立教大学, 文学部, 教授 (60263745)
松下 道信 皇學館大学, 文学部, 准教授 (90454454)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 中国哲学 / 周敦頤 / 朱子語類 / 太極図説 / 通書 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成30年度も、中心的な研究対象である『朱子語類』巻94「周子之書」篇について、単行本として公刊するための修訂・整理作業を進めてきたが、年度内に公刊原稿を完成させることができなかった。ただし、2度の研究集会の開催により訳文全体の修訂作業はほぼ完了させることができた他、『朱子語類』他巻や関連分野の調査・研究については、後述の通り一定の成果が得られている。 まず、『朱子語類』の口語語彙や他巻との関係についての調査・研究は主に恩田が担当し、その成果は巻4(全員の共著)・巻8・巻20の訳注(いずれも部分)として発表されることが決まっている。 周敦頤の著作と同時代の道教との関わりについては、松下が特に内丹思想との関連を中心に検討した。こうした検討結果もふまえ、既発表論文をまとめた『宋金元道教内丹思想研究』(汲古書院)を出版し、全真教及びそれに先行する張伯端以下の内丹道と、朱子学や禅宗の同時代的な力動について一定の知見が得られた。 林は、周敦頤の著作について、その朱熹の解釈にもとづいた場合の主要内容を検討し、日本学術会議公開シンポジウム「科学技術の進展と人間のアイデンティティ」において「『太極図説』における「人」」と題して発表を行った他、国際日本文化研究センターの共同研究会において関連する研究発表を行った。 伊東は、朱熹の周敦頤理解にも関連する朱子学の身体論に関して分析を進め、世界哲学大会(WCP2018;北京大学・国家会議中心)・チェコ科学アカデミーにおいて英語による研究報告を行った。 こうした研究成果により、『朱子語類』巻94の訳注修訂に必要な、口語語彙の意味、周敦頤や朱熹の思想に対する同時代の道教との影響などを新たに明らかにし、それに基づいて訳文全体の修訂作業もほぼ完了させることができ、朱熹による周敦頤思想の位置づけを明らかにすることに対して一定の知見を得ることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
本研究は、朱熹の思想体系における周敦頤『太極図説』『通書』の占める位置の再検討を行うことを最終的な目的としている。この目的を達成するためには、朱熹『太極図説解』『通書解』の読解が欠かせないが、その適切な読解には、その注解を敷衍解説した朱熹の「ことば」を多く収める『朱子語類』巻94「周子之書」篇をふまえる必要がある。このため、平成30年度には、過去2年の研究成果をふまえ、周敦頤『通書』及びその朱熹『解』の読解に着手することを計画していた。 しかし、『朱子語類』巻94訳注の修訂作業にあたって、他巻の記述との連関や、注解すべき用語・事項の選定及びその典拠や語釈の精度の再検討だけでなく、訳文自体の修正にも当初の見込み以上の時間がかかっているため、平成30年度には『太極図説(解)』『通書(解)』については訳注の作成は行わず、前年度に引き続き『朱子語類』巻94訳注の修訂作業に集中することにした。 平成30年度の修訂作業においては、まずは訳文の再検討を最優先したが、そのためにも『朱子語類』他巻の口語語彙の用例研究、『四書集注』『朱文公文集』などの朱熹の他の著述及び同時代の儒学や道教の文献との比較研究は欠くことができず、これまで同様研究計画での役割分担に従って研究を遂行した。その結果、巻94の訳注を修訂するために必要な一定の知見がそれぞれの研究分担部分において得られ、一部を論文として発表することができた他、巻94全体の訳文の修訂作業もほぼ完了することができた。 しかし、平成30年度末の時点では、上述の通り研究に一定の進展があったものの、『朱子語類』巻94訳注の公刊原稿は(特に注の部分について)完成しておらず、また『太極図説(解)』『通書(解)』については訳注作成を延期しているのが現状である。 したがって、本研究の「現在までの達成度」は、「(4)遅れている」と判断される。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究が、朱熹の思想体系における周敦頤『太極図説』『通書』の占める位置の再検討を行うことを最終的な目的とすることはこれまでと同様である。このために、まず周敦頤の著作に関する朱熹の「ことば」を多く収める『朱子語類』巻94「周子之書」篇の精読を行って既発表の訳注の修訂を行い、そこで得られた知見を朱熹『太極図説解』『通書解』の読解に反映させ、その朱熹の注解に基づいて『太極図説』『通書』の解読の基盤とすることについては基本的な方針に違いはない。そして、関係文献の口語語彙を詳細に分析することで精緻な読解を行うことを前提に、『朱子語類』巻94及び関連する他巻、朱熹の注解及びその他の著作、経書及びその注疏、道教文献などにおける記述とのネットワークを構築して注として明示し、これを『太極図説』『通書』及びそれぞれの朱熹『解』の訳注作成の準備とすることについても、当初計画の方向性は変わらない。 ただし、『朱子語類』巻94訳注の修訂作業が着実な進展はあるものの遅れているので、その本研究期間内での完成を最優先に目指し、『太極図説(解)』『通書(解)』の訳注作成については、本研究期間終了後に研究を継続することとした。 具体的には、昨年度までにほぼ完成している『朱子語類』巻94全体の訳文の修訂作業について、研究代表・分担者が役割分担にしたがって取りまとめる。あわせて、注についても各担当者が立項の再検討及び語釈や典拠の再確認などの修訂作業を進め、草稿を作成する。この各担当者が作成した訳注の原稿をまとめて整理した上で、令和元年8~9月、令和2年1~2月他に研究集会を開催して全員で再度修訂を行い、その後の最終調整を経て令和元年度内に公刊原稿を完成させ、令和2年度中に出版する計画である。なお、前述の通り『太極図説(解)』『通書(解)』訳注については、今後も研究を継続し、本研究期間終了後の発表を予定している。
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Causes of Carryover |
本研究課題においては、中心的な研究対象である『朱子語類』巻94「周子之書」篇の精読が研究の基盤であり、それを訳注として出版することが研究成果の公表の最重要部分となっており、平成30年度も『朱子語類』巻94訳注を単行本として公刊するための修訂・整理作業を中心にすえて研究を進めてきた。しかし、この巻94の修訂・整理作業にあたって、他巻の記述との連関や、注解すべき用語・事項の選定及びその典拠や語釈の精度の再検討だけでなく、訳文自体の修正にも当初の見込み以上の時間がかかっているため、当初計画の最終年度である平成30年度内には公刊原稿を完成させることができず、研究期間を1年間延長せざるを得なかった。このため、延長期間においても共同研究を継続遂行するための費用が必要となり、今年度の支出を抑えたことにより、「次年度使用額(B-A)」\290,543が生じた。 使用計画については、令和元年度は東海大・立教大・皇學館大などで数回の研究集会を開き、巻94訳注原稿を研究代表・分担者全体で修訂・完成することが研究活動の中心となるため、こうした研究集会を実施するための旅費に主に研究費を使用することを計画している。他に補助的に、研究集会での作業に必要な文書整理のための消耗品や、平成30年度の成果として掲載が決定している『朱子語類』訳注の論文投稿料として研究費を使用することも計画している。
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