2017 Fiscal Year Research-status Report
第二次世界大戦期におけるマティスの芸術活動研究-フランス性と戦争文化の視点から
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16K02283
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Research Institution | Kyoto Tachibana University |
Principal Investigator |
大久保 恭子 京都橘大学, 発達教育学部, 教授 (70293991)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
山本 友紀 日本女子大学, 人間社会学部, 学術研究員 (30537882)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | マティス / パリ万博 / エスコリエ / セザンヌ / プリミティフ / 大衆 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究代表者は大戦期のマティスをめぐる芸術場の形成と実態について背景となった事象や言説を検討するために、夏期休暇中にArchives Henri Matisseに保管されている大戦間期から第二次世界大戦期にかけての一次資料の徹底調査を行った。その結果、この時期のマティスの書簡、及びマティスと書簡の遣り取りをした画家、批評家、美術館関係者、画商の書簡を資料として収集することができた。 上記の調査を踏まえて、大戦間期のフランスにおける文化の受容層としての大衆の存在意義を考察し『美術フォーラム21』に掲載された。また1937年のパリ万博で、ほとんどマティスのみが壁画制作依頼の選に漏れ、パリ万博から忌避されたというこれまでの理解の再検討を行った。結論としてその理解には偏りがあること、マティスは壁画制作依頼に代わる申し出として《ダンスⅠ》の国家への売却と万博での展示とを約束されていたこと、またそれに関連して万博の一環として開催された「独立美術の巨匠たち」展で、国家がマティスに「フランス性」につながる穏健なモダニストとしての役割を期待していたことを明確にした。この研究成果を『京都橘大学研究紀要』第44号に投稿し、掲載された。 分担者はパリ万博の開催に伴い、シャイヨー宮に掛けられた壁画作品が1930年代フランスの具象芸術が中心である点に注目し、その選別が一部の美術批評家たちの「近代芸術」の「進化」の見取り図をも反映している点を指摘し、それがフランスの近代美術の過去の発展過程とその後の進展の道筋を提示しているとともに、大戦中から美術界で継続的に議論された「フランス的なるもの」とは何かという問いへの回答でもあることを明らかにした。この研究は『日仏美術学会会報』に論文掲載された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
代表者は、大戦期のマティスをめぐる芸術場形成と実態について背景となった事象・言説を検討するために、6月の研究会で分担者と進捗状況を報告し合い、今後の調査計画について討議を行った。また調査対象機関についての情報を交換し、訪問地の絞り込みを行った。それを踏まえて夏期休暇中にフランスに渡航して、Archives Henri Matisseでの調査を実施し、研究計画を順調に実行した。9月に調査で得た一次資料を精読し、その一部をもとにした研究成果を研究紀要に投稿、11月に掲載が決定した。申請時に掲げた研究のポイントのうち、パリ万博におけるマティスの不遇をめぐるこれまでの理解を修正し、万博組織委員の意図と「巨匠」展の意図との連動性と差異を明らかにした。 分担者は大戦間期フランスの美術における「現代性」に対する見方の形成の相関関係の内実を明らかにするために、夏季休暇中にフランスに渡航し、国立公文書館、カンディンスキー美術館において、1930年代を中心とした芸術家・思想家・美術批評家などの言説、当時の芸術に関する出版文化、その背景となった社会的事象に関する一次資料の収集を重点的に行った。その結果の一部は『日仏美術学会会報』に論文掲載され、ほぼ予定通りに研究は進行している。 ただ平成29年度はマティス自身の芸術活動の検討に集中したため芸術場の問題と大戦を挟んでの評価の変動の問題についての検討は平成30年度に行うこととなった。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度はまず既に収集した資料を精査して、大戦期のマティスをめぐる芸術場の形成を芸術家、画商、編集者、批評家を含む言説上で跡づけ、その中での制作、出版、展示を通して作品の意義を明らかにし、学術雑誌への投稿を行う。また大戦期を通して大きく変化したマティスへの評価とキュビスム出身のモダニズムの芸術家たちへの評価とを比較検討するために、分担者との研究会で討議を行う。そこから発展して「フランス性」という言説上の概念を明確化し学術雑誌への投稿を行う。 また大戦期のマティスの芸術活動実態を調べていくうちに、マティス研究の第一人者のひとりであるレミ・ラブリュス氏を招聘して本研究テーマに関連する講演を執り行うことが有益だと考えるようになった。すでにラブリュス氏に打診をしているが、平成30年度に渡仏してその実現可能性を模索する。 分担者はこれまで収集した資料をもとに、大戦期のフランスにおけるポスト・キュビスムとも言えるモダニズム芸術家たちの活動の実態と作品の持ち得る意味と評価を、「リアリズム」をめぐる当時の言説から見える受容実態を背景に検討し、学術誌に投稿する。 代表者と分担者は積極的に研究会を持ち研究の進捗状況を報告し合い本研究課題についての総合的な討議を行う。
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Causes of Carryover |
【理由】調査対象地をパリに絞り込むことができたため、また調査の一部が本テーマとは別の個人テーマであったため調査費用の一部を京都橘大学の個人研究費から支出することになったため。
【使用計画】平成30年度は、これまで収集した資料を整理保管するためにパソコンとその周辺機器、及び文字資料の記録のためのデジタルカメラとその周辺機器の購入を行う予定である。また夏期休暇中に調査を行う計画で、想定通りの予算を執行する予定である。
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