2018 Fiscal Year Research-status Report
第二次世界大戦期におけるマティスの芸術活動研究-フランス性と戦争文化の視点から
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16K02283
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Research Institution | Kyoto Tachibana University |
Principal Investigator |
大久保 恭子 京都橘大学, 発達教育学部, 教授 (70293991)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
山本 友紀 日本女子大学, 人間社会学部, 研究員 (30537882)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | パリ国際博覧会 / マティス / セザンヌ / プリミティフ / 文化政策 / 美術史学 / 人類学 / イメージ |
Outline of Annual Research Achievements |
研究代表者は大戦期のマティスをめぐる芸術場の形成を、芸術家・画商・編集者・批評家を含む言説上で跡づけるために、昨年までに収集した資料の検討を集中的に行った。それを踏まえて、第二次世界大戦前のパリ国際博覧会時に開催された、マティス作品の展示を含む展覧会が担った国家のメッセージを明らかにし、博覧会の背後にあった「プリミティフ」なるものをめぐるフランスの文化政策、およびそれが目指した「中庸」を旨とする「フランス性」の一端を考察し『京都橘大学研究紀要』第45号に投稿、査読を経て掲載された。 また大戦期のマティスの芸術活動を調べていくうちに、本課題に関する先行研究が極めて限定的であることが明らかになった。そこで夏期休暇中に、マティスの芸術場の問題を相対化するために必要なスペインにおけるプリミティヴィスム調査を実施し、フランスに移動して、20世紀フランス美術史研究で数多くの業績を持つパリ第10大学のレミ・ラブリュス氏と面談を行い、最終年度にラブリュス氏を招聘して本研究課題に関連する国際シンポジウム「第二次世界大戦期のフランスをめぐる芸術の位相」を開催をすることを決定した。 さらに研究代表者は上記資料の精読から、美術史学と隣接学である民族学との歴史的関連について考察し『民族藝術』第34号に掲載され、また発展的に、美術史学そのものの現状と将来性に関して人類学との接近・協働の視点から考察して、共著『人文学宣言』を出版した。 分担者はこれまで収集した資料の検討を踏まえて、アメリカ合衆国におけるプレシジオニストのスタイルとコンセプトの基礎となるその機械時代の美学と語彙の重要性を検討し、アメリカ独自の伝統と機械時代との間の親縁性を考察して、国際シンポジウム「20世紀視覚芸術・文学における前衛的レアリスム(1914-68年)」で報告を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
代表者は、大戦期のマティスをめぐる芸術場形成と実態について背景となった事象・言説を検討するために、前期に集中して資料検討を行った。その過程で本研究課題に関する先行研究が、邦文はもちろんフランス語及び英語の文献についても、限定的であるとの確信を得た。その結果、当初は想定していなかったが、発展的に、本研究課題に関する国際シンポジウムの開催が必要と考えるに至った。そこで夏期休暇中に、マティスの芸術場の問題を相対化するために必要なスペインにおけるプリミティヴィスムの調査を実施、その後フランスに移動してレミ・ラブリュス氏と面談し、国際シンポジウム「第二次世界大戦期のフランスをめぐる芸術の位相」に関する議論を行い、そのテーマをめぐる問題意識を共有するに至った。 また調査で得た資料検討をもとに、その研究成果を研究紀要に投稿し10月に掲載が決定した。ここではパリ国際博覧会におけるマティスの処遇問題を発展させ、フランスの文化政策の本質を明らかにして研究計画を実行した。最終年度の国際シンポジウムの開催決定とあわせて、これまでの考察によって申請時に掲げた研究のポイントである、大戦期のマティスの芸術場の問題と大戦を挟んでのマティスの評価の変化を考察する足がかりを掴むことができた。 分担者は資料検討をもとに大戦期のアメリカ合衆国におけるキュビスム受容を明らかにし、その結果を国際シンポジウム「20世紀視覚芸術・文学における前衛的レアリスム(1914-68年)」で報告し発展的に研究を進行させた。 平成30年度はこれまでの研究から発展的な変更を加える必要性が発生した。そこで年度末に1年の研究期間延長を申請し承認を受けた。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度はまず、9月に開催予定の国際シンポジウム「第二次世界大戦期のフランスをめぐる芸術の位相」での報告のために、これまでの資料の検討を精密に行う。同時にラブリュス氏との詳細な打ち合わせを重ね、分担者との研究会を開いて実施のための準備を行う。 実施後は、大戦期を通して大きく変化したマティスへの評価とマティスの芸術場の問題を検討し、そこから浮かび上がる「フランス性」という言説上の概念を明確化し、また第二次世界大戦下でマティスを含むフランスの芸術家たちがいかに対応したかを、批判も含めて「戦争文化」の視点を取り込みつつ検討し、研究成果を学術雑誌への投稿および共著としての出版を含めて検討する。 分担者はこれまで収集した資料をもとに、大戦期のフランスにおけるポスト・キュビスムの芸術家たちの活動の実態を、当時の言説から見える受容実態を背景に検討して国際シンポジウムで報告し、また研究成果を学術誌に投稿および共著としての出版を目指す。 代表者と分担者は研究会を通して本研究課題についての総合的な討議を行う。
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Causes of Carryover |
【理由】海外調査の一部が本テーマとは別の個人テーマであったため、調査費用の一部を京都橘大学の個人研究費から支出することになった。
【使用計画】最終年度は国際シンポジウム開催のため想定通りの予算を執行する予定である。
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