2016 Fiscal Year Research-status Report
『源氏物語』古注釈の展開と平安文学の受容に関する基礎的研究
Project/Area Number |
16K02377
|
Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
陣野 英則 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (40339627)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
坂本 清恵 日本女子大学, 文学部, 教授 (50169588)
新美 哲彦 早稲田大学, 教育・総合科学学術院, 教授 (90390492)
宮川 葉子 淑徳大学, 国際コミュニケーション学部, 教授 (90296301)
山中 悠希 東洋大学, 文学部, 講師 (40732756)
横溝 博 東北大学, 文学研究科, 准教授 (30303449)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | 源氏物語 / 古注釈 / 平安文学 / 受容 / 長珊聞書 / 河海抄 / 翻訳 / 翻案 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究においては、(a)『源氏物語』古注釈書のうち、未翻刻のもの、もしくは新たな翻刻が必要と考えられるものについての調査と翻刻、(b)近現代の平安文学受容に関する新たな視座からの研究、以上の二つが大きな柱である。あわせて、平安時代に成立した文学のさまざまな受容全般をも研究対象としている。 平成28年度において、上記(a)については、『長珊聞書』(陽明文庫蔵、全53冊)のうちの約4分の1に相当する部分の翻刻原稿のチェック作業を進め、組版に入稿する準備がおおよそ整った(入稿前の最終チェックが必要な部分が若干残されている)。一方で、5名の研究分担者、2名の研究協力者、および早稲田大学大学院文学研究科の大学院生たちを主たるメンバーとする古注釈の研究会では、未だに翻刻さえなされていない中書本系統『河海抄』の「桐壺」巻を対象とし、その翻刻と注記内容の検討を進めた。 上記(b)に関しては、『源氏物語 九つの変奏』(新潮文庫)に収められた町田康の作品「末摘花」について、独自の検討を試みた。光源氏の一人称叙述に変換された町田作品は、関西弁混じりのユニークな現代語が炸裂しており、一見すると原作からの逸脱が甚だしいようにみえるが、実は「翻案」というより「翻訳」と見なすべき内実をそなえている。それだけでなく、町田作品からは、『源氏物語』の「人称」の欠落した叙述にも親近する面が析出されてくる。この町田作品についての分析結果は、当該年度末にパリで開催された国際シンポジウムで報告した。 そのほか、当該年度中の関連する研究として、グローバル化が求められる時代の中で「越境」と「交流」をキーワードとして日本古典文学の研究を拓くことを提案した論考、『源氏物語』の「語り」に関する従来の研究の相対化をめざした論考、『堤中納言物語』「花桜折る少将」の切り詰められた叙述を評価する論考などを公にした。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
全3100丁に及ぶ大部の『長珊聞書』については、初の翻刻ということで公刊に向けてできる限り慎重に原稿のチェックを重ねてきた。平成28年度中に第一分冊に相当する分量(全体の4分の1程度)の翻刻原稿がほぼ完成に近づいてきているので、平成29年度前半ですべてを入稿し、ゲラの校正を進めてゆく見通しが立ってきた。 また、現代における斬新な古典翻訳の一例といえる作家・町田康による「末摘花」の研究を進め、国際シンポジウムでその成果を報告することができた。予定通りの進展といえる。 一方で、論集『平安文学の古注釈と受容』の刊行に向けた準備も当該年度の計画に入れていた。翻刻の掲載に関しては既に翻刻原稿がおよそ整っているので準備が済んでいる。論考の掲載に関しては、なお具体的な企画をまとめる作業を継続中である。 以上のように、全体としてはおおよそ予定していたとおりに進展しており、一部、次年度にまたがる部分があるという状況である。
|
Strategy for Future Research Activity |
『長珊聞書』の翻刻については、平成29年度に研究協力者、また大学院生のリサーチ・アシスタントの助力を得て、第一分冊に相当する原稿のすべてを入稿し、また校正作業も分担して進める予定が立っている。 『平安文学の古注釈と受容』については、企画を練り上げて論文の依頼などを進める予定である。 さらに近現代の受容研究に関しては、まず既に口頭での報告を行っている町田康作品についての論文化を果たす。その一方で、明治期における「国文学」が日本古典文学、特に平安文学をどのように学問の対象としたのかという問題などについて、藤岡作太郎を中心として検討を進めてゆく。
|
Causes of Carryover |
『長珊聞書』の翻刻原稿の入稿前チェックのところで、リサーチ・アシスタントに協力を仰ぐ部分が年度内で終了せず、次年度に持ち越されたことが第一の理由である。また第二の理由としては、陽明文庫の許可を得て以前に入手していた『長珊聞書』のカラー・デジタル画像がきわめて鮮明であることから、現物にあたって調べるために京都へ出張する必要が生じなかったということもある。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
当該年度に使用されなかった助成金は、次年度、主に『長珊聞書』の入稿前チェック、および初校・再校の校正を担当するリサーチ・アシスタントの謝金に充てる予定である。
|
Research Products
(17 results)