2017 Fiscal Year Research-status Report
ルーマニアのドイツ語話者諸集団のアイデンティティ形成とドイツ古典主義文学受容
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16K02554
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
藤田 恭子 東北大学, 国際文化研究科, 教授 (80241561)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
鈴木 道男 東北大学, 国際文化研究科, 教授 (20187769)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 文化ナショナリズム / 普遍 / ユダヤ / ゲーテ / シラー / 多文化共生 / マイノリティ / ナチズム |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、第一次世界大戦後にルーマニアのマイノリティとなったユダヤ系およびドイツ系ドイツ語話者によるドイツ古典主義文学受容を検証し、その受容が彼らのアイデンティティ形成に果たした役割を解明することである。 ルーマニアのドイツ語話者の特性は地域ごとに異なり、ブコヴィナではユダヤ系が、トランシルヴァニアではプロテスタントのドイツ系が多く、両者は第二次世界大戦中にホロコーストの被害者と加害者ともなった。両地域のドイツ語話者にとってゲーテとシラーの両詩人は極めて重要な存在であったが、その一方で注目すべきは、受容におけるニュアンスの相違である。前者にとりゲーテは、普遍的人間性を示す「真のドイツ文化」の象徴であり、ホロコ-ストのただなかにあっても被害者であるユダヤ系ドイツ語詩人のアイデンティティを支えた一方、後者では一般に、シラーが青年の模範となるべき理想主義者として顕彰されたと伝えられている。 平成28年度に下記1)~5)に着手した後、平成29年度は6)と7)をも接続させ、1)~7)を進めた。 1)ブコヴィナおよびトランシルヴァニアにおける19世紀中期から両次大戦間期までの教育や文化活動に関する史(資)料の収集。ウィーンのオーストリア国立図書館およびルーマニア・シビウ市のフリードリヒ・トイチュ・ドイツ文化センター内文書館での調査。2)両地域で刊行されたドイツ語新聞および文芸誌掲載の記事、評論、作品、ならびに劇場の上演プログラムなどの調査。3)ギムナジウムおよびドイツ語を授業言語とする初等学校に関わる史料の分析。4)両詩人に関わる催し物などの情報分析。5)上記2)~4)に関連する、ドイツ語話者のアイデンティティをめぐる言説。6)両地域のドイツ語話者集団と施政者(ウィーン、ブダペスト、グカレスト各政府)との関係からの1)~5)の検証 7)両詩人のルーマニアおよびドイツでの受容史の比較。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究代表者がオーストリアおよびルーマニアで現地調査を行った。シビウでは、平成28年度に引き続き、著名な作家で牧師のエギナルト・シュラットナー師やルーマニア・アカデミーで活躍されたグードルン・イトゥ博士のご協力をいただき、シラー作品の上演史に関わる情報収集も可能となった。アウクスブルク大学附置ブコヴィナ研究所からの情報提供も受けている。研究分担者は平成30年度第1学期、研究に専念できる状況となったため、さらなる研究推進の環境が整った。 現在は資料と情報の整理を進めている途上であり、成果発表の準備は順調に進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度は、上記1)~7)のうち、とくに1)~4)で収集した基礎情報の整理をさらに進めたうえで、それらと5)~7)の視点および情報を対照して考察し、研究成果にまとめる段階に入る。この考察の過程で生じた疑問や新たな視点をも踏まえ、ルーマニア側の研究者やインフォーマント(シビウ市のフリードリヒ・トイチュ・ドイツ文化センターのゲルヒルト・ルードルフ館長、著名な作家で牧師のエギナルト・シュラットナー師、元ルーマニア・アカデミー研究員のグードルン・イトゥ博士など)およびアウクスブルク大学附置ブコヴィナ研究所と連携する。まずは、19世紀後半から第一次世界大戦終結時に着目し、中間層のアイデンティティに大きな影響を与えた中等教育の内実に関する検証を成果として発表する予定である。
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Causes of Carryover |
研究分担者が平成30年度前期に研究休暇を取得する予定となったため、海外での調査を、より時間的自由のある平成30前期に実施することとした。そのため、旅費の予算の一部を平成30年度のために保留することとした。
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